第28話 潜入と情けない攻撃 後編

「朝焼けがまぶしい」


「徹夜って何年ぶりだろう……」


 馬の場所まで戻り、俺が仮眠をとり、ヘイが城門の方を見張っていてくれた。


「悪いな、んじゃ交代だ。ワラワラ出てきたら起こすぞ」


「あいよー」


「寒くて寝れないから日向の方がいいぞ」


「どうせ昼くらいまで気温上がんないでしょ。雪降ってないだけマシ。んじゃおやすみ」


 そして今度は俺が見張りをするが、昼までヘイは起きることはなかった。




「おはよう。首尾は」


「特に動きなし。装備変更でドローンを飛ばすか?」


「いや、いいんじゃない? んーっしょっと。ってか動きあるじゃん。防壁にめっちゃ人いるじゃん」


 ヘイは起きあがって町の方を見ると、防壁にズラーッっと兵士が並んでいるのを見て、棒読みでつっこみを入れてきた。


「門での動きはないぜ?」


「ドローンに装備変えて、門の向こう見て。できれば早く」


 ヘイが銃を構え、少ししてからそんな事を言ってきたので、俺は急いで装備を変えてドローンを飛ばした。




「うーあー。荷物や家具が敷き詰められてら……」


「開けた穴からタンスの取っ手っぽいのが見えたから、多分そうかと思った。質量の分だけ、破城槌は意味なさそう。もうジャベリンの爆破でいいんじゃない? 面倒くさいし」


 まぁ相手も馬鹿じゃないよなー。


「なら7・62ミリで木屑の方がいいんじゃね? 次から潜入もなしで」


 12・7ミリだと、門の向こうの荷物もぶち抜いて被害が出そうだし。


「だねー。お遊びが過ぎたね」


「殲滅させないと、盛大に無駄って事がわかった」


「お互いに賢くなった。けど兵士が減ったのは確かだね。ドローンで村の方を監視して、兵士が見えたら門を木屑でいいかな?」


「いいんじゃね? 仕事しました感が出て。早すぎると兵士が出てきそうだし」



 そして翌日の昼前、味方の軍隊の到着がやっとドローンで確認ができた。馬の速度と進軍速度考えたらこんなもんだよなー。


「んじゃ。やりますか」


 俺はACOGを付けた軽機関銃MG4を選択し、まずは昨日見ていた門の蝶番付近をどんどん撃っていき、かんぬきを入れる金具があった場所を横にどんどん撃っていく。


 そして、慌てずにゆっくりとリロードをして、中央にわかりやすく大きめの穴を開けておく。


「多分問題ないと思う。荷物とかあるし、門の横に穴開けておくか?」


 突入時に荷物とか邪魔なので、ヘイに聞いてみた。


「修理が面倒くさい。税金をそれに使うのもどうかと思うからなしで」


 そう言ってヘイは、消音対物狙撃銃で門の上の油とか熱湯を安全に流す場所を撃ち始め露出させている。俺もサプレッサー付ければよかったわ。



「おい、飯食い始めてるぞ!?」


 俺はドローンを飛ばして味方の方を見てみるが、三脚に鍋を吊していた。


「昼過ぎから攻めて夕方には終わらせるつもりなのかな? ってか俺達が、何かしてる事前提じゃん。まずくても温かいご飯が食べたい……」


「占領してから食堂行こうぜ……。あと上に文句言っておいてくれ。俺達を当てにして気が緩んでない? って」


「だねー。先行して攻めるの今回だけだし。もう無意味だからやらない。次から門は爆破しかやらない」


 ヘイは干し肉を食べつつ馬の桶にペットボトルの水を注ぎ、首筋を撫でている。俺もニンニク、砂糖と小麦でも与えておくか、町で買えるし。一昨日に無理させちゃったしな。



 それから昼食の終わった味方の軍と合流し、軽く作戦を話し合うが前回と同じ。後ろで援護。


 うんわかってた。


 そして矢の届かない位置で兵士が隊列を組むと、二列目から大きな盾を頭上に掲げ、矢から自分達を守るのに進軍し始め、車輪付きの台の上に太くて長い、先の尖った丸太を乗せた破城槌には簡素な屋根が付いていた。


「アレで突っ込むっぽいけど、門は既に破壊済みなんだよなぁ」


「質量に任せて、勢いを付けて突っ込めばゴミも吹き飛ぶでしょ。ってかさっさと撃とう。味方に被害が出る」


「あいよ。練習だと思って撃つさ」


 俺は狙撃銃G28を構え、スコープを覗きながら答えた。


「距離六百二十。風は右から左に二メートル。それ六百だね、届いてない。……ほら次は当たった」


 ヘイが横からアドバイスをくれ、スコープ中央を目標から右上に補正して撃つと本当に当たった。


「七百で撃つから首もとに当たるんだ。もう少し下げても良いね」


「あいよ」


 なんで面倒くさいから数字を七百に合わせたのバレてるんだよ。やっぱおかしいよこいつ。



 そして後列の弓兵が攻撃を仕掛ける頃、かなりの速度を付けた破城槌が門に突っ込んで簡単に門に刺さった。


 そしてかなりの人数が門に取り付き、押してるように見えるが、どうもゴミの山が多いらしい。


「ゴミが多くて押しても無理っぽい。ドローンにC4乗っけて突っ込ませるか? 大口径でも味方が邪魔で撃てないだろ」


「もう次からはあらかじめ、吹き飛ばしておいた方がいいねコレ。お願い、やっちゃってよ」


 俺は一応提案し、それで許可が出たので実行する。一応俺より上の奴等に近いし。


「はいはい。組み立てるのにちょっと時間くれ」


「四十秒で」


「ゲームだと早いけど、リアルだと五分くらいかかるんだぜ? いつも見てるだろ」


「いつも組み立ててるから、スキルアップしてるかと」


「FPSにそんなスキルは……。リロードの速度が上がるパークとか、マガジンに付けるアクセサリが昔はあったらしい。だからドローン組立とか簡易的になってたぞ? だって羽の付いてる棒を、傘みたいにカチッって言うまで広げれば済んでたし。これは回しやすいネジをガッチリ絞めるんだぜ?」


 俺は口を動かしつつ作業はしっかりとこなす。


「けどC4は乗せるだけなんだよなぁ……」


 そう言いつつ、左腕の端末でドローンを操作して門の向こう側に飛ばして、家具なのか瓦礫なのかわからない物に突っ込ませると、ダメージ判定で勝手に自爆してC4もなぜか誘爆する。信管が付いてるからだろうか? ハゲつからあまり深く考えない様にしてるけど。


「お、門が少し揺れた。貧乳じゃあんな風には揺れないな」


「いや、そんな事ねぇから……。グリチネだって揺れるから」


「詳しく」


「胸の小さな娼婦でも買えよ。そして乗ってもらえ」


「えー、胸の大きな女性が好きだしー。聞いた方が早いじゃん?」


 ヘイはドンドン門の上から油を撒こうとしてる奴を撃ちつつ、楽しそうに言っているが、笑いながら狙撃できるって凄いからな? 息を吸っただけで銃口が上下に動くんだし。マジでこいつ化け物だ。



「お、一人分くらい開いたな」


「けどそこから槍が伸びてきてるね。向こうも必死だなぁ。一回下がらせてランチャー系を撃ち込んだ方が早いかな?」


「火の魔法とか、岩の魔法飛んでるし平気だろ。もう引火してるから放っておけば門も燃えるだろ」


 そんな事を話ているうちに門は開いて兵がなだれ込み、防壁の上にも現れて剣を振っているのが見えたので、制圧は開始されているだろう。



「後は見回りと麦の運搬だな」


「町に入っての娼館は禁止にしたから、外に出てきた女性だけは稼ぎ時。僕も行けないけどな!」


「なに叫んでんだよ、自軍のを買えよ」


「情報収集目的だって、もちろん抱きながらだけど。誰か馬鹿一人のせいで全員が行けなくなるんだよなぁ。学生の頃、変な禁止事項なかった? 携帯ガスコンロ持ち込んで教室で鍋禁止とか」


「なんかすげぇ単語出たな!」


 学校で鍋ってなんだよ……。


「校則に書いてないからってやった馬鹿がいるらしい。高校だったから、煙草とかが駄目だからもちろんライター類の持ち込み禁止。ならガスコンロはいいだろ? って理論。代々噂話で受け継がれ、校則改定で生徒手帳に記載された」


「意味不明な校則はどこにでもあるな。自動販売機でジュース売ってるのに、ジュース持ち込み禁止とか、制服を着たまま煙草禁止とかな。いい加減新しく生徒手帳作れってな」


 そんなどうでも良い話をしながらスコープを覗き、一応反撃されてないかを見ておく。


「三浪して二十歳の学生でもいたんじゃない?」


「多分そうだろうな」


 ヘイがスコープから目を離してのびをしたので、俺もため息を吐きながら腰を伸ばす。狙撃班とか狙撃手マジすげぇ……。あれだけで腰痛てぇし……。もう机と椅子が欲しい。


「んじゃ、一応見回りね。過剰にやりすぎてた奴の処罰の噂も流れてる、処刑理由も言った。けどそれでも人って奴は、こういう状況になると絶対やるから」


「一般人を、見張りと囚人に分けて実験したアレか」


「ソレだ。本当に学が偏りすぎてるねー」


「興味ない奴はとことん興味なかったからな。金閣寺を建てたのは宮大工」


「金閣寺を建てさせた人物は足利義満。ひねくれた教師の歴史のテストであったわ。ソレで満点逃したから絶対に忘れない名前になった」


 ヘイは苦虫を噛み潰した様な顔になりつつ、左腕の端末を操作していたので俺も装備を変えて立ち上がった。



「思ったより町民の抵抗がなさ過ぎる……」


「噂が出まわってんじゃね?」


 裏道を歩くが、なんか店を開く準備をしている。商魂たくましいな。


「露店はさすがにないね」


「だなー」


「おっさん達、ちょっと何か食べていってよ。あんたビスマスの兵士でしょ? 傷みそうな食材があんだよ。半額でいいからさ」


 そんな事を話していると店舗の中から店主らしき男が出てきて、何か食っていけと呼び込みをしてきた。


「スピナ、色々頼む。俺は昨日の村の麦の件があるから、このまま偉い奴の所に行く予定だったんだ」


「あいよ。しっかり聞いておくわ」


 俺は軽く手を上げて返事をしながら店内に入った。


「傷みそうな食材で何かできる物で良いぞ」


「そう言ってくれると助かるよ。もう今朝から店開ける雰囲気じゃなくてさ。何でも夜中に兵舎が襲われて、門が壊されてたから夜中に戦闘が始まるとかって話になってよ」


 店主は手を動かしながら料理を始めている。客商売だと、こういう事もできるんだな。


「ほうほう。なんか工兵みたいなのが動いたんか?」


「偉そうな感じの話題だったけどよ、おっさん知らねぇんか。けどよ、武器を捨てた兵士とか、一般人には手を出すなって命令があるっていうじゃん? だから俺達みたいなのは、息を潜めて終わるのを待つだけさ」


「あぁ、嫌になるほど繰り返してるな。けど前の町で、勝って気の大きくなったお偉いさんが娼館で嫌がる女に、逆らうつもりか? ってナイフ使って脅して無理矢理ヤっちゃってさ」


「それで、どうなったんだ?」


 かなり食いつきがいいな。少しタメただけなのに。あとちょっと話を盛っておいた。


「処刑だよ処刑。見張りをしてた偉い奴が、当たりを付けて娼館に行ってみたら案の定。そのまま酒瓶で殴られて気絶、裸のまま引きずられて門の外。翌朝処刑。規律を徹底させてるから町に入ってからもこの通りだ。けど娼館に出入りができなくなったのが、男としてはつれぇな」


「高ぶっちまうって奴か。そいつはつらいな。で、酒は? 最初に言わなかったから出さなかったけどよ」


 店主はできあがった料理を出し、酒をどうするか聞いてきた。


「実は見回りの仕事中だ。酒は勘弁してくれ。さっき隣にいた奴に怒られちまう」


「お堅い奴か」


「下の方は緩いけどな」


 その後に二人で大笑いし、ぼちぼち増えた客にも処刑の事を言い、色々噂も聞いておいた。


 どうも行商人が噂を流していたらしく、無抵抗ならって話は年越祭前には知っていたらしい。多分組織の人間がさっさと動いたみたいだ。



「ってな訳で噂が出回ってる。抵抗が少ないのは前の町での噂も回ってて、本当に無抵抗なら平気って事が証明されてるからだな」


 俺達専用に用意されたテントで落ち合い、とりあえずこっちの報告は済ませる。


「ふむ。その事は上の連中に言っておく。それと麦の件は片が付いた、ただでかい屋敷のお偉いさんの確保は失敗だ。家族は無事だが男が喉を突いて自害してた。潔いけど幽閉して色々聞き出せないのは痛い。書類も裏庭で燃やされてた。継承順位は低いのに中々の根性だ。これ以上はやめておくわ。あー娼館行きたい」


 ヘイは途中で言うのを止めてしまった。別に俺に配慮する必要はないと思うが、自分自身で何か線引きでもあるんだろう。


「軍に着いてきた出稼ぎがいるだろ。別に綺麗すぎるってわけじゃないが、可もなく不可もなく色々なタイプの女性がいただろう」


「なんかやだ。もう二人三人客取ってそうだし。体洗った翌日のその日一番目ならいいけど」


「そういう所に行かないけど、言いたい事は何となくわかる。気分はピー使ってる感じ?」


ピーだなんて言うなよ。どっちかって言うとピーに近い気がする」


「一時間ほど席を外すか?」


 一応気を使ってみる。もしかしたらもしかするし。けど事務的に処理するなら半分以下の時間でも十分だけど。


「あー、別にそういう訳じゃないんだ。ピーは副産物。ピーまでの過程とピーを楽しみたいだけ。ちなみに娼婦のあいだの噂話で、獣人系の娼婦を買って、お金を払って時間いっぱいまで尻尾をなでてた奴もいるらしい。そんな感じ」


「……ほう。ちょっとお高い猫カフェみたいなもんか。モッフモフの尻尾なら触ってみたい。毛足の長い犬の尻尾とか」


「僕も娼館で見かけたらやってみたいし、耳とかめっちゃ触りたい」


 その後は複乳なのか、卵系は胸あるのか、尻尾が邪魔で仰向けで寝れないとか、角が邪魔で仰向けかうつ伏せででしか寝れないとか、なんかファンタジーらしい事を話し合った。


「一番の謎は人魚系じゃない? 卵にピーをかけるの? ってか下半身にピーあるん?」


「わからねぇ、絵本とか有名なあの映画とかだと、人の部分はこの辺までだよな?」


 そんな事を寝るまで話してた。自分で言うのも何だが、本当男って馬鹿だと思うわ。

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