第16話 有名な奴のフレンドはやっぱり有名 後編
翌日。朝食を済ませてギルドに行き、定位置に座ると入口からヘイが入ってきた。なんだかんだで、ギルド戦の時間にはきっちりログインしてたしな。時間にはしっかりしてるんだよなー。
「おはよう」
「あぁ、おはよう」
「今日はどうするんだい?」
その一言で、一瞬でギルドの中が静かになり、全員がこっちを見ている。
「なに? この静寂は」
「俺が誰かと組むのが珍しいからだろ。まぁフリーの討伐依頼でも見てそこに向かうか」
「そうだね。なるべく稼げるのが良いけど、近間にあるの?」
「この前までは、魔力溜まりで豚が大繁殖してたけど、ほぼ討伐しきってるからな。けど、近場はその辺しかないからウロウロするしかねぇな」
「任せる」
「あいよ」
静かになっているギルドから出て森に向かうが、後ろにいるヘイがいきなり無言でVSSをぶっ放し、俺が確認する前に敵影はなくなっている。本当に射撃音が小さいな。
「何か言ってから撃ってくれ」
「ゴブリンって言った方が良い?」
「何でも良いから言ってくれ、びっくりする。ってか歩きながら三百メートルを普通に当てるのかよ」
「歩きながらでも向こうは止まってるからね。簡単さ」
「俺、数発使って弾道計算するぞ?」
「そっちは遠距離専門外でしょ? こっちはコレくらいは慣れだね」
恐ろしい奴がパートナーになっちゃったな……。
□
森に着き、俺はいつもの強化アーマーに盾と
「装備は短機関銃のPP19-3と自動拳銃のGSh-20。両方ロングマガジンとロングバレル、短機関銃にはドットサイト付きAGOCね、どうせ森だから中距離にならないでしょ?」
「サプレッサーは付けねぇのか?」
「僕はよほどのことがない限り、ドットサイト付きACOGにロングマガジンとロングバレル派だね。元々サプレッサーは付けない派だし。僕からしてみれば、スピナは何で大抵の武器に付けるの? って感じだけど?」
「基本戦闘は近距離だからな。敵が近い場合は極力音は立てない方がいい。その辺は近距離か遠距離の違いだろ」
「そうだね。まぁルートは任せる」
そう言ってヘイは、俺の右後ろに回って銃を構えて肩を叩いた。
「あいよ、前は任せろ」
とりあえず背中の
「ぷらちぃーにくうにちどーじゃ、二時方向百メートル」
「回収が面倒だな。ってかそれで百メートルを当てるのかよ」
俺がグチをこぼしてる間に、ヘイはもうリロードを済ませていた。スナイパーらしく、隙があれば即マガジン交換ってやつか。まぁ、余裕があるなら弾倉の交換をしろってのを、どこかで見た気がするからそう思っただけだけど。
そして鼻を回収するが、ヘイが後ろを警戒中にフルオートで二回ほど引き金を引き、マガジンをまた交換した。
「みにゃーるまがずぃーん」
「日本語で頼む」
「了解」
そのまま二匹の鼻をそぎ取り前進するが、魔物に出会うことは少なかった。
この間の騒動があったオークの集落に行くが、更地になっており、休憩にはちょうど良い。
「休憩入れるか」
「だね」
俺達は切り株に背中合わせで座り、警戒しながら水を飲むが、ちょこちょこヘイが銃を撃っている。
「どうしたんだ?」
「豚が多い。ココ何?」
俺はここがさっき話した魔力溜まりがあって、大規模討伐やオークキングとクイーンがいた場所と説明をした。
「居場所を取り返したいのか……。旗取りルールと一緒だね」
「だな」
「で、なんでスピナは一律金貨一枚でやってるの? どう考えても一枚以上の仕事もあるでしょう?」
「ん? まぁな、さっき話してた戦争の事とかだろ?」
「そうそう。料金の見直しとか絶対考えた方がいいよ?」
「検討しておくわ」
「で、あの三メートルくらいある大きな奴ってボーナスキャラ?」
「はぁ!?」
俺は急いで振り向くと、キングだかクイーンがこっちに走ってきている。
「ボスキャラだよッ!」
俺は立ち上がり盾を構えてヘイの前に出るが、肩を二回叩かれたので癖で中腰になると、射撃音が一切途切れることなく鳴り響き、キングだかクイーンの胸に直径五センチくらいの銃痕が固まった。
「んーフルオートで引き金引きっぱなしは気持ちいいねぇ。それがロングマガジンならなおさらだねぇ」
「六十四発入る、ヘリカルマガジンのビゾンで良いんじゃないか?」
「ヘリカルマガジンは個人的に嫌いなんだ。リアルだと弾がなくなってくると重心が狂うし、弾詰まりも起きやすいらしいし」
そんな暢気な事をいいながら、マガジンを交換していた。
全弾撃ちきって全てが直径五センチ以内に着弾。反動制御完璧じゃね? ってかこの頭持ち帰るの?
そんな事を思っていたらヘイが走り出し、腰布をめくった。
「女の子だよー。見る?」
「女の子ってレベルじゃねぇぞ! いいから止めろ!」
持っていた腰布を叩き落とし、首をナイフで切り落としてから髪の毛を棒に縛り付けて肩に担ぐ。
「もう帰るぞ。これだけで十分な稼ぎだ。ってかコレ凄く邪魔だ。なんで討伐部位が頭なんだよ……」
「もう少し銃の感覚に慣れておきたかったけど、仕方ないね。それかリュックに無理矢理詰めて、もう少しいっとく?」
「いかねぇよ……。オスがいても、メスがいなけりゃどうにもならねぇだろ」
「クッ殺せ! な状況は?」
「前見た時は、女性冒険者を殴り殺そうとしてたから、多分それはない」
「なら普通のメスオークに、これと同じくらい大きなオークキングのオークキングが入ると」
「何を言ってるんだお前は?」
「けど絶対いるよね? クッコロで増えないなら番でニャンニャンして増えるんだし」
「かわいくしても気分が悪いな。戻ったら報告して、注意喚起してもらうしかないな」
適当な所で会話を終わらせ、俺が盾を構えながら頭を担ぎ、ヘイが攻撃を全てしてくれる状態で街に帰った。
□
「買い取りを頼みたい、それと偉い奴を呼んで欲しい」
背中に担いでいた、オーククイーンの頭をカウンターに乗せたら、別な職員が奥の部屋に入っていった。
ギルド職員が査定をしている時に、副長が来て別室に案内された。
「カウンターを見たが、また出たのか?」
「一匹? 一頭? 一体? しかみていない。どういう風に産まれるのか進化するのかは知らないが、例の跡地で休憩中に出た」
「オークリーダーから突然変異で、キングやクイーンになるが、なったらなったで繁殖したらキングとクイーンの子供として産まれて、成長したらそのままキングかクイーンになる。可能性としては前者だろうな。あれから結構な数の冒険者が森に入ってる。で、殺したのはスピナか?」
「パートナーのヘイだ」
そう言って、親指で指す。
「どうもー」
軽く手を挙げて指をヒラヒラと振っている。緊張感なさすぎるのもある意味凄いよなぁ。
「スピナの知り合いか?」
「……凄く古い仲間って感じだ。昨日偶然再会したから、しばらくまた組もうって流れだ」
「そうか……。もしもの時の戦力が増えて助かる」
「その、もしもがないのが一番だよね」
その後はキングを見なかったので、あの森にいるかもしれない事を伝え、退室してから討伐部位の報酬をもらい、ヘイから銀貨五枚を渡された。
「本当に結構な稼ぎだったね。借金は嫌いだから、とりあえず今日の稼ぎから生活に支障のない程度に返しておく」
「あぁ、わかった。けどよ、娼館は行くんだろ?」
色々倒して稼いだ金額を半分にしたが、大銀貨一枚返してくれても問題なさそうな額だったのに、銀貨五枚だったのでそう思っただけだ。
「アレは今の俺の生活の一部だから」
「そんな決め顔で言わないでくれ。ってか向こうではどうだったんだよ」
「クソ真面目なリーマン。こんな世界だからこそ真逆に行きたいし生きたいと思う。普段のボイチャはある意味ストレス発散だったし、スピナに言われてヒャッハープレイはやめておいた。ならどうするか? こうなった」
「不真面目に生きる事を真面目にロールプレイ?」
「そんなところだ。だからこんな感じで過ごしている。スピナだって東郷さんみたいな立ち位置真似してるだろ?」
「まぁ、そうだけどさ」
「それと同じだ。僕はこれから娼館に行く。また今度。何かあったらメッセージを送る」
ヘイはまじめな顔でそう言って、自分の泊まっている宿屋の方に歩いていった。
□
「ただいま戻りましたー」
いつものように帰り、風呂と食事を済ませてから店を手伝い、客足が引いて店の床を拭いている時にウェスが現れた。
「夜分遅くに済まない」
「……本当だよ。何か用か? まぁなけりゃ来ないわな」
俺は掃除の為にテーブルに上げていたイスを下ろし、ウェスの前に出す。
「今日、お前のパートナーと名乗った男の詳細についてだ。アレとはどういう関係だ?」
「いきなり来て、パートナーについて根掘り葉掘りか……。俺が言うと思うか? てめぇで調べろ」
「わかった。何かあったら多少手荒になるかもしれないから聞きに来たんだが、そこまでの仲ではないらしいな。何かがあって、お前が出ないってだけで多少気が楽になる。お前は友人関係が調べられるくらい、影響力があるって自覚しておけ。もう色々憶測とか噂が流れてるぞ」
「……そうか。街が壊滅させられない事を祈っておくわ」
「……本気で言っているのか?」
ウェスは、睨むようにして聞き返してきた。
「横に凄い早さで飛んでいる、飛竜の頭を一発で打ち抜ける腕だぞ? 俺は羽ばたいて空に浮いている奴の、胴に当てて落としただけだ。この意味がわかるか? それに、奴が怒る線引きがドコなんだか俺でもわからない」
戦闘機のキャノピーだかコックピットを撃ってキル取れる変態だし。飛竜に置き換えて説明すればわかりやすいよな?
「それだけで十分だ」
ウェスは少しだけばつが悪い感じで下唇を噛み、店から出ていった。
「公爵の犬も忙しいわねー」
「だなー」
「で、あの性欲の固まりの性格はどうなの?」
「つかみ所がない、温厚で怒っているところを見た事がない、だから何で怒るかわからない」
実際に暴言とか一切聞いた事がなく、キルを取られても、あそこに潜んでたかー、次からあそこも警戒だな。で終わるからな。
「どんな事で人が変わるかわからないのも、質が悪いわねー。侮辱されたりとか、喧嘩売られたりとかってならわかりやすいけど」
グリチネは、タバコを吸いながらそんな事を言っている。まぁ、目の前に侮辱されたら、凄い事になる人がいますけどね……。
「けど、スピナと組めるならそれなりの腕なんだろうねぇ」
「あぁ、ない物ねだりになるが、あいつは本当に遠距離が得意だ。俺が前に出て敵を引きつけ、遠くからしとめる」
「背中を射抜かれた事は?」
「不思議と一度もない。俺の顔のすぐ隣を通して、俺と戦っていた奴を殺した事もある度胸の持ち主だ。俺じゃとても怖くて真似できない」
「確かに凄い自信と腕ね」
グリチネはそう言うと、タバコを灰皿に押しつけて消し、ランプを消し始めたので、俺は外の扉に吊り看板を掛けて鍵をした。
そして夜中に小さな爆発音が聞こえたが、とりあえず無視して眠っておいた。
あ、確かあいつはクレイモア派だったっけ? ウェスが穴あきチーズになってなければいいけど……。
――銃器関係に詳しくない人の為の緩い武器説明――
気になったら自分で調べて下さい。
GSh-20:GSh-18の改良型 グリップが少し長くなって弾が二発多く入るようになっている 架空銃
VSS:消音機付き狙撃銃。有効射程が短いのでヘイは自動小銃として運用
AK-35:AK-47の後継 2035年製のAK 架空銃
OSV-032:OSV-96対物狙撃銃の後継 架空銃
PP-19-3:PP-19-1ヴィチャージの改良型 架空銃
小型レールガン式狙撃銃・シューティングスター:架空銃
消化斧:近接武器で振りは遅いが、ナイフより射程は長い。別名マスターキー
クレイモア:指向性対人地雷 小さな球を爆発を利用して広範囲にばら撒く。
省略
ドラグノフ狙撃銃 G11 UZI ビゾン
ロシアの武器は、製造された(?)年の数字が付く事が多いので、元になった物が本当にわかりやすいですね。
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