第15話 裏組織と爛れた屋敷 後編
――注意:軽い同性愛表現、不倫現場、おねショタシーンがあります――
「お前が暴れないで助かった」
ウェスはため息と共に、そんな事を言った。それほどの事か?
「紳士的……とまでは行かないが、あれくらいなら問題ない。手の内を見せたくはなかったが、依頼になると言って、まさか了承するとは思わなかった。それに以外に子供っぽいんだな」
「あぁ、アレさえなければ若作りの威厳のあるボスなんだが……。だが、ヤバイ奴ほど姿を偽るか。確かにその通りだ。俺なんかじゃ相手にもされない。逸話も何個かあるくらいだ。真っ昼間に堂々と正面から敵地に乗り込み、愛用のナイフ一本だけで百人殺したとかな」
「それはそれは……」
確かに自己責任だわ。
「まぁ、俺も飛竜落としを見れて良かった。確かにアレは普通じゃ見せられねぇな。それと……アレで鎧を着た兵士を並ばせて何人殺せるかが気になる」
「コレで簡単に鎧は抜けるんだ。あんだけでかけりゃ最低二人は殺せるだろ」
俺はいつもの自動拳銃を軽く叩き、何となく外の風景を見た。
馬車での移動中は、基本的に雑談だった。最初に比べたら、ウェスとの会話も増えたな……。
□
「あそこだ」
馬車でしばらく移動し、目的の家の近くに着いたので馬車は止まった。
「ちょっと周囲を確認してくる、帰って良いぞ」
「怪しまれるなよ」
「金を受け取った以上もう仕事だ、心配するな」
それだけ言うと、ウェスは安心した顔で馬車のドアを閉めた。
そして、家の周りをよく確認する。高いレンガの壁に、出入り口の門には兵士。周りに建物はあるが、もの凄く密集している訳でもなし、二軒だけ塀の中を覗ける窓があるが、どう見ても借家ではない……。とりあえず夜中にも偵察だな。
夜中に酔ってるフリをするのに、果実酒の瓶を持ち、少し口に含みつつ、アルコール臭もさせて歩くが、門の前を通っても注意されるわけでもなし。庭が覗ける二軒の窓に明かりなし。しかも門番も別人なので、特に怪しまれなかった。けど、門に行くまでの道のりは少し明るい。防犯のためか篝火が焚いてある。
しかも気をつけて帰って下さいと、優しく注意されたくらいだ。雇い主の事は知らないのか、知ってても雇われてるかだな。
◇
数日間は、特に仕事っぽいことはせず、街の周りのゴブリンや野犬を倒し、夕方には宿屋に戻り風呂に行ってから、麦酒を飲まずに食事を済ませて店の手伝いをする。いつ呼び出されるかわからないので、仕事中と意識して酒は飲まずにいた。
客が捌けて、そろそろ店を閉めるかと言う時に、血色の悪い一人の客が来店した。
「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」
不気味な笑顔にならないように、自然を振る舞い席に案内しようとしたが、客は親指で外をクイクイと指した。
「仕事だ」
その一言だけを言い、ドアを閉めて去っていった。
「いやー、不気味だったわね。はいコレ店の鍵。明日には返してね」
グリチネはタバコをくわえ、火を点けてからカウンターに店の鍵を置いた。
「何も聞かないんだな」
「聞いて欲しいの?」
そんな事を、煙を吐きながら言ってきた。確かに聞いて欲しくないけど……。
「いや、助かる」
俺はカウンターから鍵を取り、店を出た。
□
端末をいじり、黒い服にスカルマスク。四つ目のナイトビジョンゴーグルを装備し、武器は消音器付きの自動拳銃のMaxim9っていう物を選ぶ。
愛用の銃より発砲音が小さいからコレを選んだ。家が広いからな。そして装弾数の多い短機関銃のMP7にサプレッサーと、ホロサイトを付けてもしもに備える。
にしても……アニメに出てくる銃そっくりだよな、この自動拳銃。
そして俺は暗がりを選びながら、小走りで上級区に向かい、門が見える所までやってきた。
門まで十五メートル。ギリギリ暗がりだが、自動拳銃では命中率的に不安がある。
仕方ないので少しだけ音の大きい短機関銃を持ち、一人の頭に狙いを付けセミオートで撃ち、もう一人の胴体を即座に数発撃つ。
辺りに多少発砲音が反響するが、さっさと身を隠す為に急いで門番に駆け寄り、自動拳銃でもう一度頭に二発ずつ撃っておく。こちらの発砲音はペチンとしっぺの様な音がするだけだ。
そして門を少しだけ開けて二人の死体を引きずり、通りの陰に隠し敷地内に進入する。
俺はボスみたいに正面から堂々となんかできないので、月明かりの陰になってる方の壁沿いを中腰で歩いて裏口まで行き、リロードをしてから暗視ゴーグルを装着し、鍵穴にピッキングツールを差し込み鍵を開け、屋敷内に進入するが、廊下は真っ暗だ。
そしてそのまま一階を制圧する為に、頭に叩き込んだ使用人室を家の角から処理をしていく事にする。
自動拳銃を構えたままゆっくりと廊下を歩き、光が漏れているドアノブを回すが、鍵はかかっていなかった。
視界内のMAPを見ると人数は四人ほど。覚悟を決めてドアノブを回し、ドアを素早く開けて目に付いた奴から照準を合わせて二発づつ撃つが、イスに座っていた二人がドサリと音を立てただけで、ベッドに寝転がっていた奴はそのまま一生お休みする事になった。
壁には鎧掛け。多分だが、ここは門番の詰め所だろう。やばい場所は押さえられた。さっさと終わらせよう。
俺は廊下に出て次の部屋に向かう、部屋の中には二人。ゆっくりとドアノブを回してドアを開けて中に入るが、二人は寝ており、俺は二つ並んでいるベッドの真ん中に行き、片方の使用人の口を押さえ、喉にナイフを突き立て、もう片方も同じように処理をする。音は立てない方が安全だ。
似たような部屋をどんどん制圧していくが、廊下からエントランスに続くドアから微かに明かりが漏れている。
あー。家主が会合に行ってるから、一人で一生帰ってこないのに待機してるのか。
ドアを少しだけ開けて覗いてみるが、ランプの明かりは薄暗く、メイドが編み物をしいていた。
俺はそのままゆっくりとドアを自分が通れるくらいだけ開け、足音を立てずにゆっくりと近づき、正面から口を押さえ、目が合うがそのまま喉にナイフを突き立てて手首を捻ってから抜き、床にゆっくりと寝かせた。
「気が付かせて悪かった。撃ち殺しておくべきだったな」
さて……。ここが中央で、今まで殺してきたのが男だから、もう半分は女部屋か。
俺は女部屋側の廊下のドア開け、同じように処理をしていくが、このまま殺すのは可哀想と言う状態に出くわした。
まぁ一つだけ言うなら、ベッドが二つあったのに、二人が一つのベッドで寝ていたって事だな。裸で!
けど、見たくない物を見た時は、本当に一瞬だけ思考が一時停止するんだな。だって同じベッドで寝てる奴が男部屋にもいたし。
衛兵が現場を見に来たら……。本当に申し訳ない気持ちになったので、一人をもう一つのベッドに運ぼうと思ったが、血痕でバレるので下手にいじくるのは止めておいた。
殺してから死体に工作して、アリバイ作ったりとか考える人はマジですげぇな。
□
一階の処理が終わり、一度エントランスに戻ってから二階に行くが、こっちは部屋が少ないが大きかったり書斎だったりで楽だ。多分もう三分の二は仕事が終わっている。
そして書斎のある方も一応ドアを開けて確認をしようとしたが、MAPを見ると二人ほどドアの向こうにいる。
本当に書斎であってるよな?
俺はドアに耳を近づけると、どうも愛し合っている最中らしい。挙げ句に奥様! とか聞こえる。旦那がいない間に不倫ですか。度胸あるね、仮にでも薬を売ってる組織のボスの妻だよ? 任狭映画ですかね?
とりあえず二人は処理をしたが、なんというか……どんどん自分のやる気が下がるのがわかる……。
子供部屋の方に向かうが、こっちからも声が……。既に頭が痛い。むしろ頭痛が痛いって言いたいわー。それくらい酷い。
「ご令息。ベッドに寝転がり、目を瞑ってじっとしているだけでいいのです。怖くありません」
「こんなのダメだよお姉ちゃん……」
もう何も言えない……。子供を殺せるかどうか心配したが、流れ弾を理由に勢いで行けそうだ……。
だらりと伸ばした腕で、少しだけ放心していた俺は正気に戻りマガジンを交換し、無表情のままゆっくりとドアを開け、ベッドに寝ている十歳くらいの男の子に六発ほど弾を撃ち込み、教育係だと思われる胸の発育の良い、まだ少し幼さが残る女性の横っ腹や、頭に残りの弾を全て打ち込んでマガジンを交換する。子供が五歳くらいじゃなくて助かった……。二つの意味で。
そして盛大にため息を吐き出し、手の平でこめかみを二回叩く。
「クソが、爛れすぎだろ……」
ある意味人の事は言えないがそれだけを呟き、復路として辿って来た道順を戻りながら、死体を一応確認する。見たくない部屋もあるけどな!
地下室はあるけどMAPに光点なし。帰ろう……。二階だけで、精神的疲労が一気に来たわ。
ってか俺は爛れてないよな? 不健全じゃないし。けどグリチネはある意味節度がないからな……。わからん! もう帰って寝る!
◇
翌朝目を覚まし、ベッドから体を起こして盛大にため息を吐く。あの屋敷の事は忘れよう。多分屋敷は裏組織の管理下だろうな。だって一族と使用人が虐殺された家なんか誰も住まねぇだろ。
「おはよう」
俺は階段を下り、カウンター席に座って鍵を置く。
「お帰り。はいお茶、今日は蜂蜜にして置いた方が良いわね」
そう言って、グリチネが吸っている煙草と同じエンブレムの入った蜂蜜入りの瓶が出てきた。有名な会社なんだろうか?
「あぁ、助かる。そんなにヒドい顔してるか?」
「そうね、腹痛二日目って感じかしら?」
どんな顔だよ……。少しやつれてて、眉間に皺が寄ってる感じか?
「まぁ、心が疲れてるのは確かだ」
「そんなに酷い仕事だったの?」
グリチネは、朝食を出しながらそんな事を聞いてきた。
「簡単な仕事だった。まぁ後は仕事の事だから言えないが、人の口を完璧に塞ぐことはできない。って事だけは言える。後日の噂を楽しみにしててくれ」
それだけを言い、ベーコンにフォークを突き刺したところで、ドアをいきなり開き、昨日の男が立っていた。
「ボスが呼んでいる」
それだけを言ってドアを閉めた。ボスに注意してもらおう。あいつやべぇよ。夜中でも部屋に入ってきそうで気味が悪い。
「あいつ何者?」
「知らねぇ。伝言しか言えない病気にでもかかってるんだろ」
俺はお茶に蜂蜜を足し、パンにも蜂蜜を塗って食べた。だって朝一から一気に心労が……。
□
「行ってきます」
「気を付けてー」
朝食を凄くゆっくり食べ終わらせ、タバコを吸っているグリチネに送り出され、上級区に向かった。
そして組織の上に建っている家の前に着いたが、どうしたらいいかわからない。気が進まないが、ウェスがノックもなしに入ってたし、覚悟を決めて家に入り、普通に生活している人を無視してクローゼットを開けて地下への階段を下りる。
「おはようございます。奥でボスが待っております。どうぞ」
受付嬢にそう言われたので、この間の部屋にノックをして、返事を聞いてから入った。
「おはよう、昨日はご苦労だった。死体を置きに行った者や、監視をしていた者から報告は受けている。叫び声は一切なく、全員綺麗に始末している。それに明かりを一切使わないのも、部屋を荒らして金目の物を取らないのも高評価だ。どういうからくりかは知らないが、聞くことはしない。もしまた何かあったら、また仕事を頼みたいんだが……。良いかい?」
ボスはニコニコとしながら、コーヒーっぽい物を飲んでいる。
「なるべくなら、罪のない子供を殺したり巻き込むような依頼は勘弁だ。明確な敵や目撃者としてなら問題はないがな」
「……いいだろう、心に留めておく。大人はいいのか?」
これまた答えにくい物を。
「誰か親しい者が殺されれば、憎悪がいずれ敵意になるからな。それとこういう仕事を受けた時の目撃者は殺せ。を信条に動いている」
「ふむ、確かにそうだ。さて本題だ……。言い忘れてたが、大きな仕事には報告書を書いてもらう事になっている」
俺は手で額を抑えて、絶句するしかなかった。なんでそんな事を言い忘れるんだよ……。
「紙をくれ。ここで書く」
ボスは自分の机に戻り、紙と羽ペンを持って来て、俺の前に丁寧に置いた。
「どこまでをどれくらい書けばいい? 早く忘れたい事があるんだが?」
「進入方法、殺した人数、殺し方。どういう状況だったか。このくらいだ。その忘れたい事も書いてくれ。ちなみに報告書は燃やすから安心してくれ」
「最悪だ……。了解」
俺は部屋の数を思い出し、男と女で分け、二階の不倫現場と教育係と息子の関係も書いた。
ってか口頭でよくない? 目の前にいるんだし。
「これはこれは……。早く忘れたいはずだ。同性愛者が二組と不倫、教育係のお手付き。人によっては殺しより記憶に残るな。そして兵士がこの現場を見て噂が広がる。殺す前に不倫してる事を伝えたかったよ。おまえが死んだら、嫁が大喜びだってね。絶望を与えて殺すのは楽しいからね」
ボスは声を殺して笑っている。まったく趣味が悪い。
「おもしろい報告書だった。それに文字も綺麗で読みやすい。皆に見せて見習わせてから燃やそう」
「はぁ……。好きにして下さい、もう帰って良いですか? いやな物を見て疲れてるんですよ」
「あぁ、かまわん」
「あ、そうだ。あの報告係だが、気味が悪いから、もう少し堂々としてて、ノックができて清潔な感じのを使いによこして下さい」
「新人の仕事だからな、許してやってくれ」
「そこまで腹はたてていないですよ。失礼します」
俺は立ち上がり、部屋を出て受付嬢に軽く会釈をして、通りたくもない家の中を通って宿屋に帰った。もう今日は仕事する気になれねぇわ……。
――銃器関係に詳しくない人の為の緩い武器説明――
気になったら自分で調べて下さい。
Maxim9:消音機付き自動拳銃。発砲音がかなり小さい。某アニメの銃に似ている。
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