第86話 おっさん、兵士を雇う

「俺に用だって。早くしてくれ。これでも忙しい」


 スコットは代官邸の中庭で、鍛錬のために剣を振るっている最中だった。


「警備兵を雇いたい。お金はある」

「あんた、分かってないな。暇しているのは老人と子供だけだ」

「働き盛りの人間はどこに消えたんだよ!」


「そんなもの干ばつの起きていない所に、出稼ぎに行ったしかないだろ」

「じゃあ老人を雇用しよう」

「馬鹿か。そんなものが役に立つ訳ないだろ」


「ちっちっちっ、そうでもないんだな」


 俺は指を振った。


「計画があるなら早く話せ。汗に濡れていて気持ちが悪い」

「攻撃の呪符を作るんだよ。一つの魔法陣では小石ぐらいしか飛ばせないが、100個集まれば握り拳ぐらいは飛ばせる」

「ほう、それならゴブリンぐらいは楽勝だ」

「訓練は任せたぞ」


「いいぜ、やってやる」


 ストーンバレットの呪符を作り始めた。

 今ではパソコンとプリンターは50台あまりが作動している。

 呪符を作る生産能力は十分だ。


 数日後、見に行くと老人が的に向かって呪符で小石を飛ばしてた。

 訓練では100個の魔法陣をいっぺんに使うのではなく1個ずつ使っている。

 これなら効率が良いな。


「どうだ、兵士の仕上がりは」

「どうもこうも。老人の体力のなさを舐めてたぜ。走らせたらぽっくり逝きそうなんで、小石を飛ばす訓練しか出来ない」

「それもで良いんじゃないか。よし、実戦だ」


 ゴブリンの出る畑に、スコットが兵士引き連れ行軍となった。

 歩くのが遅い事といったら。

 それに1割が目的地へ行くまでに、リタイヤした。


 想像以上に酷い。

 だが、無い物を言っても仕方ない。


 ゴブリンが出て来た。

 老人の兵士はストーンバレットの呪符を起動した。

 握りこぶしぐらいの石が地中から出てきて、ゴブリンに向かって飛んで行く。

 兵士の数だけはいるので、ゴブリンは滅多打ちされて死んだ。


「じゃ、ゴブリンの死骸を肥料にするぞ。目的地まで運べ」


 俺がそう言うと老人は困った様子で俺とスコットを見ている。


「悪かった。無理を言った。リアカーを出してやるからなんとかしろ」


 予想外の出費だが、まあいいだろ。

 初期投資の一つに過ぎない。


 リアカーを出すと、四人掛かりでゴブリンの死骸が載せられた。

 比較的に元気な老人を輸送係に命じて運用を開始する。

 夕暮れまでに30匹近くのゴブリンが仕留められた。

 嬉しい誤算はレベルアップした者が出た事だ。

 若干体力が増えたようだ。


 夕暮れになった時にそれは起こった。

 オークがやってきたのだ。

 オークは強敵だ。

 俺かスコットがやらないといけないようだ。

 スコットが前に出ようとすると、老人がそれを止めた。


「わしらに任せて下せぇ」

「出来るか」

「へい」

「よし、やってみろ」


「ひゃひゃひゃ、肉、肉、肉ぅ」


 老人が30人ぐらい集まり、一斉に呪符を起動する。

 一抱えはありそうな岩が地中より現れて、オークに向かって飛び激突した。


 オークは一撃で倒れた。

 おー、やればやれるものだな。


「ばあさん、よだれが垂れとるぞ」

「じいさんこそ」

「ひゃひゃひゃ」

「持ち上げるぞい」

「おう」

「ファイトじゃ、肉ぅ」

「「「「「「「「「肉ぅぅぅぅ」」」」」」」」」


 10人掛かりでオークはリヤカーに載せられ、4人に引かれ運ばれていく。

 井戸のそばにくるとオークの解体が始まった。

 老人の目が輝いている。


 打ち上げは焼肉パーティになった。


「老人の底力を舐めてたよ。オークを倒すとはな」


 俺がそう言うと。


「まったくだ。肉が食えると分かったらどいつもこいつも、元気になりやがって」


 そうスコットが返した。


「問題はウルフ系だな」

「ああ、そうだな。なんか良い手がないか」

「呪符だとぬかるみ辺りが良さそうだ」

「早く走れなければ、簡単に仕留められるかもな」

「ストーンウォールを応用して、鉄条網なんかもいいかもな」


「鉄条網は聞いた事がないな」

「針金にトゲが生えているんだ」

「そんなのが役に立つのか」

「鉄のいばらを想像してみろ。安易には突っ込めないだろ」

「それもそうだな」


 老人の兵士は活躍した。

 ウルフ系のモンスターなど恐れないで、多大な戦果を挙げた。


 これで領地の防衛はなんとかなりそうだ。

 段々と上手く回り始めている気がする。

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