第83話 おっさん、代官になる

 次の日、出発となった。

 庭に出ると馬丁らしき人が馬を引いてくる。


「坊ちゃん、注意した方が良いです。あの決闘騒ぎは仕組まれたものに違いありませんぜ」


 こいつ誰?

 忠告してくれるから味方だと思うのだけども、人間関係が分からん。


「そうなのか。でも生きているんだから、問題ないだろう」


 敵でも味方でも大丈夫な無難な言葉を吐く。


「とにかく、お気をつけて」


 俺は馬に乗る事が出来ない。

 仕方ないの馬を引いて徒歩で出発した。

 途中、最寄りの村に立ち寄る。

 馬を処分するためだ。


「お前さん良い馬だが、嫌がらせか、悪戯かね」

「んっ、何の事だ?」

「鞍に座るとイガが馬を刺すようになっている。確実に落馬だな」

「えっ!?」


「その様子だったら、知らなかったみたいだな。恨まれる心当たりは?」

「あいつ、俺を殺そうとしたな」


 ブレッドの仕業に違いない。

 馬に乗れなくて良かったよ。

 ここからは自転車でいこう。


 今、俺は5万1千900円までの物が買える。

 自転車は1万円ぐらいからある。

 十分、予算内だ。


 馬を売った金で食料を仕入れ、アイテムボックスに放り込む。

 自転車の旅となった。

 ジャックは若いし、高いレベルに後押しされたパワーがある。

 旅程はあっと言う間に消化された。

 旅の間は魔力が余ったので色々と仕入れる事も出来た。


 道中でこれと言った問題はない。


 ずいぶん、予定より早く到着する事が出来た。

 領地に到着してまず感じたのは、ロビト地方の飛び地は酷い有り様だという事


 田畑は荒れ果て、人は老人と子供だけ。

 税収が平均的で、悪くない土地のはずなんだがな。


 陰謀の臭いがぷんぷんする。

 代官屋敷に入ると3人の男達が出迎えてくれた。


「あんたに言っておくが搾り取る金なんざない。代官の座をいくらで買ったか知らないが、ババを引かされたな」

「すまないな。自己紹介してくれ」


「俺は警備兵の隊長のスコットだ」

「私は文官長のディーンです」

「おらは庭師のチャドだ」


「ところで他の者は?」

「いる訳ないだろう。目ぼしい物を盗んでみんな逃亡した」


 とスコット。


「酷い状況だと分かったが、まず何をしたら良い?」

「水路を引いて干ばつをなんとかして下さい」


 そうディーンが言う。

 水路は無理だな。


「水路を引く予算はあるのか」

「ある訳ないだろ」

「ありませんね」

「あの、おらの未払いの給料を」


「給料を払う金すらないのか?」

「ありませんね。でなければ物を盗んで逃亡などしません」


 うん、酷い状況だというのは分かった。

 人手が欲しいな。


「今からスキルで助手を呼ぶ。驚かないように」

「驚く心なんざ、もう残って無いぜ」

「どうぞ好きになさって下さい」

「おらの給料は?」


助手アシスタント、来いアルマ、エリナ、モニカ」


 アルマ達3人が現れた。


「代官様よ。女を侍らかして良いご身分だな」

「あれっ、ご主人様は」

「いないわね」

「闇の知識が魂の痕跡を捉えた。あなたがムニでしょう」


 モニカが俺をすばっと指差した。


「何で分かった?」

「雰囲気」


「なんやえろう変わりましたな」

「見た目が変わるとなんか新鮮ね」

「見た目の事は後で説明する。やってもらいたい事がある。呪符を売って来て貰いたい」

「ええよ。商売はうちらの専門やし」


「金策のあてがあるようで安心致しました」

「ただの情婦って訳じゃないのか」

「べっぴんさんだな」


「3人は俺の妻だ。そのつもりで応対するように」

「分かったぜ」

「かしこまりました」

「ちぇ、楽しみが増えたと思ったのに」


「一日待ってくれ。水の問題をなんとかしよう」


 まずは干ばつ対策からだ。

 それを解決する秘策がある。

 それはパソコンとプリンターだ。

 2日も掛ければ5万1千900円の予算でパソコンとプリンターは揃う。

 道中10セットのパソコンとプリンターを用意する事が出来た。

 発電機も辛うじて買えた。


 安い最低限のパソコンだが、呪符の魔法陣をデザインしてプリントするぐらいは出来る。

 プリンターは1万円ぐらいでもそこそこは使える。


 さて初めての呪符作成だ。


呪符作成アミュレットメイク


 ただの黒い色だった魔法陣が、DVDの裏みたいに7色へ変化した。

 A4の用紙に100個の魔法陣を印刷したが、一度のスキルで100個の魔法陣全部が呪符化したな。

 なんだ呪符作成は使えるスキルじゃないか。


 俺はコップ一杯の水を出す呪符を一日で1万枚用意した。

 しかも、A4の用紙に100個の魔法陣が印刷してあるので、コップ100万杯の水を出せる計算だ。


 プリンターに仕事させるのはほとんど疲れない。

 インク交換が少し手間なだけだ。


 スキルの行使の手間は掛からない。

 A4の用紙を重ねてスキルを使っても1回で事足りたのだ。


 さあ、後は呪符を配るだけだ。

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