呪符作成ざまぁ編

第82話 おっさん、現状が分からない

「ステータス」


 何は無くともまずはステータスだ。


――――――――――――――

名前:ジャック・ディランディ(山田 無二) LV519

魔力:51900/51900


スキル:

収納箱

魔力通販

次元移動

助手

呪符作成

――――――――――――――


 何だか中途半端なステータスだな。

 スキルがリセットされて、レベルが高い。

 このレベルには覚えがある。

 異世界アルリーの物だ。

 野次馬の会話もアルリーの言語だったから、そうに違いない。


 また何で剣で殴り合っているんだ。

 おまけに剣を見ると刃引きして切れないようになっている。


「ジャック、大丈夫だった? 心配したのよ」


 親し気に話掛けてくるこの女は誰だ。

 傷から察するに、殴られたみたいだし、記憶喪失を装うとするか。


「あんた誰? 殴られて記憶がはっきりしない」

「私の事を忘れちゃったの。幼馴染のバルバラよ」


 バルバラは黒髪を束ねたポニーテールのような髪型で、目つきは鋭く、体つきは豊満だ。

 顔は整っている。

 但し、目つきが悪いので絶世の美女とは言い難い。

 妻がいるから手を出そうとは欠片も思わないが、十人に九人ぐらいは色香に迷わされるそんな印象を持った。


「俺の名前はジャックというのは分かる。だが、家も家族も思い出せない」

「冗談言ってないわよね。まあ、大変」


 俺はバルバラにある家に連れて行かれた。

 家は家と言うより大邸宅だった。

 ジャックの家は金持ちなんだな。

 手厚く治療されて休んでいると男がやってきた。


「よう、兄貴。記憶が無いんだって、そいつは大変だ。しばらく静養したら良い」

「ポーションを飲んで傷も治ったし、記憶がない以外はどこも悪くない」


 ちっ、厄介なと弟と思われる男が呟いた。

 こいつの態度からみるに敵というところだろう。

 分かりやすい敵は大歓迎だ。

 ぶちのめす相手が分かっている方が良い。


「お前の名前は何だっけ?」

「ブレッドだよ。とぼけやがって、どうせ記憶喪失も嘘なんだろ。騒動を起こしたものだから、父に合わせる顔がないからな」


 突然、荒々しくドアが開けられ中年の男が入ってきた。


「この馬鹿者が。決闘騒ぎなぞ起こしやがって。お前はいつもそうだ。ごく潰しで役立たずの厄介者。弟のブレッドを少しは見習ったらどうだ。ディランディ伯爵家の面汚しが」

「はいはい」

「返事は一回にしろ」


 お小言は一時間にも及んだ。


「父上、兄貴も反省しているみたいだし、ここは罰を与えて終わりにしてみては?」

「罰とは?」

「静養を兼ねて、飛び地の領地の代官をやらせたらどうです? たしか、今は空きがあるはずです」

「ロビト地方の飛び地の事を言っているのか。ふむ、確かにあそこなら丁度いい。上がって来る税収も平均的だし、土地も悪くない」


 どうやら静養に出されるようだ。

 俺としてはどっちでも良い。

 管理者が事態をなんとかするまでのつなぎだからな。


「これで兄貴が持っている役立たずの呪符作成スキルの活用法が見つかると良いですね」

「そうだな」


 俺は相槌を打っておいた。

 きょとんとした顔のブレッド。

 何かおかしな事を言ったか。


「どうやら兄貴は本当に記憶喪失らしい。スキルの話をしても微塵も嫌な顔をしない。前なら傷に触ったごとく騒ぎ立てるのに」


 ええとスキルっていうと呪符作成の事だな。

 何が不味いんだ。

 呪符が作れるんだよな。

 有意義なスキルだと思うが。

 まあいい、魔力通販と高いレベルがあるんだ。

 なんとかなるだろう。


「頭が痛いので出て行ってくれ」

「親に向かって命令口調とは。反省の色が見えん。静養には一人で行け。人のありがたみを噛み締めて反省するんだな」

「じゃ兄貴、お大事に」


 本棚に呪符作成スキルの本があったので読み始める。

 ふーん、役立たずスキルか。

 確かに今の状態ならそうかもな。

 他の本にも一応、目を通して、片っ端からアイテムボックスに放り込む。


 呪符作成スキルの使用方法は、どんなインクでもいいので魔法陣を書く。

 それにスキルを使うと使い捨ての魔道具みたいな物が出来る。

 デメリットはほとんど無い。

 スキルの発動にも魔力は要らない。


 ただ、現実問題として役立たずにしている面があるだけだ。

 問題は魔法陣を書くのにミスがあるといけないという事だ。

 ジャックは印鑑で魔法陣を書こうとしていたが、印鑑を大きくすると、どうしても線が途切れる所とか、潰れる所とかが出来る。

 印鑑の彫り方の本も一緒にあって、本の余白の所々に失敗談が色々と書いてあった。

 だから、ジャックは手書きで呪符を書いていた。


 そして、第二の問題だ。

 使い捨てなのに、呪符は威力が低い。

 まあ、魔力を一切食わないのだから、当たり前と言えば、当たり前の事だ。

 呪符を書くのに、人を雇うのも効率が悪い。

 コップ一杯の水を出すのに、何十分も魔法陣を書くのに費やすのは、馬鹿げている。

 井戸から汲んで来た方がかなり早い。

 現状は分かった。

 改善の方法は簡単だ。

 静養先で色々と試そう。

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