第72話 おっさん、施しする

 村に入った瞬間、冒険者からジョブチェンジした盗賊が襲い掛かってきた。

 クラン・ラベレンの奴らだろう。

 いきなりクライマックスかよ。

 手間が省けるから問題は無いが。

 俺はメイスで叩きまくった。

 次々に死んで行く敵ザコ。

 アルマ達も不死身なので問題なく戦えている。


「キシシ、やっぱりFランクでは役に立ちませんか」


 手練れの双剣使いが現れた。


「お前は知っているぞ。クラン・ラベレンの幹部。ラークだろう」

「ヒヒヒッ、それを知っていては生きて帰せませんね。百斬撃ワンハンドレッドスラッシュ


 うおおおっ、魔力壁に双剣の連撃が当たって火花をあげる。

 背景がスローモーションになり、音が止まったような感じがした。

 持ちこたえろ、魔力壁。

 連撃が止まった。


 一時間の様で実際は僅か数秒だったのだろう。

 音が戻ってきた。

 ラークは刃がボロボロになった双剣を持って呆れたような顔を見せた。


「キヒッ、驚きました。あれに耐える人がいるとは」

「お返しだ」


 俺はメイスで思いっ切り殴った。

 ラークは避け距離を取る。


「フヒッ、埒が明きませんね。今回は退きましょう」

「待て! さらうはずだった村人はどこに連れて行く!?」

「キシシ、さあどこでしょうね」


 ラークが逃げて行った。

 やっぱり幹部となると強さが違うな。

 さらわれた村人の行方が分かればよかったのだが。


 周りを見渡すとザコは全て居なくなっていた。

 アルマ達が誇らしげに立っている。


「お疲れさん」

「この体では疲れへんけど」

「肩を揉んで良いわよ」

「鰻丼要求」


「宴会は村を片付けてからだな」


 穴を掘って死骸を埋める。

 死んだ村人も何人か居た。

 村人みんなは、暗くてつらそうな顔をしている。


「助けてもらって、こんな事を言うのは心苦しいのですが、村にはお金がありません」


 村の代表者が俺の前に来て言った。


「やつらの武器を処分すれば費用ぐらい出るさ」

「そんな事でよろしいので」

「ああ、構わない。見たところ、あちこちで家が壊されているじゃないか。修繕費も馬鹿にならないだろう」

「ええ、そうなんです」


「ご主人様、なんか施したったらどないです」

「そうだな。何が良いだろう」


 ええと、金目の物は駄目だな。

 また盗賊を呼び込む原因となるかも知れない。

 盗賊を撃退できる何かの方がいいな。


 俺は村人から魔力をもらい唐辛子スプレーを出してやった。


「これはな。人に有効だが、モンスターにも効果がある。使うも良し、使わなければ、売ってくれても良い」

「こちらがお金を差し上げなくてはならないのに、こんな事をしてもらって。ありがとうございます」


「いや、良いんだ。盗賊がまた来るといけないから、今日はこの村に泊まらせてもらうよ」

「気兼ねなく何日でも泊まって下さい」


「じゃあ、勝利の宴だ」


 さっき使った村人の魔力が、まだ余っているので、鍋の素を出した。

 野菜は村の周りに腐るほどあるからな。


 大鍋で鍋パーティを始めた。

 みんな、こわばっていた顔がほぐれて、笑顔になっている。


「俺、大きくなったら、小父さんみたいな冒険者になる」


 子供がそう言ってきた。


「そうか、頑張れよ」


 宴は夜遅くまで続いて、翌朝はすっきりと目覚めた。

 村人の魔力が回復しただろうから、お別れの品を何か出してやろう。

 何が良いだろうか。

 野菜を加工できたら、特産品が出来るかも知れない。

 塩を出してやるか。


 キロ100円で買えるしな。

 村人が何百人といるから、何百キロの塩が買える。


 特産品が出来ればその金で塩も仕入れる事が出来る。


「みんな集まってくれ。魔力の対価として塩を出してやる。売ってもいいし、野菜を加工するのもよしだ」

「考えたわね。塩なら困る事がないから」

「良策」


 エリナ、モニカがそう言って褒めた。


「うちなら、どないしたやろ」


 考え込むアルマ。


「何か良いアイデアがあれば言ってくれ。もう一日ぐらい、この村を発つのを延期しても良い」

「そうやね。うちなら……あれは駄目やし、あれもあかん。あかん考えつかん。商人失格やな」

「試しに言ってみなよ」

「農具は壊れるし、さほど生産性は上がらん。痩せた土地でも生える野菜は、土地に合って、根付くか分からん。細工物を作る工具は、指導してくれる人がおらんと」

「どれも良いと思うけどね。俺の塩だって、出来た漬物みたいなのが売れるかは、正直言って分からん」

「そうやろか」

「アイデアの良し悪しなんてのは、やってみないと分からない事が多い。何でもアイデアを出す人が偉いんだ。否定しているだけじゃ話は進まない。それに失敗したとして、それは無駄じゃない」


「優しいんやね。そうかも知れんね」

「その通りね」

「卓見」


 何日か村に滞在して色んなアイデアの品物を出した。

 このうちのどれかが当たるだろう。

 盗賊に襲われた痛手が早くなくなるといいな。

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