第49話 おっさん、方を付ける

 俺はグエルオアシスへ急いだ。

 グエルオアシスの手前でバラムを待ち伏せする事にする。

 双眼鏡を覗き込む事3日。

 バラムがやってきた。

 護衛を引き連れていないのは目立たないようにするためか。


 モンスターもいるのに一人旅とは用心深いのか、間抜けなのか。


「バラム、今度こそ逃がさん」


 バラムが近づいたので俺は隠れていた砂の中から立ち上がり叫んだ。


「ひょひょひょ、魔石爆弾を食らえ」


 魔石爆弾は、はったりじゃないだろうな。

 投げられた魔石を念のため避ける。

 なんとベンケイがその魔石を咥えて、バラムの所に駆け足で戻って行く。


「来るな、来るんじゃない」


 そして、大爆発。


「ベンケイー! いったんアシスタントを解除して。助手アシスタント、来いベンケイ」

「わん」


「良かった。元通りになっている。よしよし、偉いぞ」


 ベンケイの首筋を撫でまわした。

 バラムの最後はベンケイの遊びか。


 俺はサラクオアシスのアズリの下に顔を出す事にした。


「ムニ、お前さんは消えるつもりじゃろ」


 アズリの屋敷に行く途中、アタンに出会った。

 オアシスの入口から情報が行ったのだろう。

 アタンは待ち構えていたようだ。


「俺の役割は終わったと思う」

「そうか、お前さんの人生じゃ。好きにするといい」

「俺の代わりにアズリを頼む」


「わしはサラクに骨を埋めると決めた。任せとけ」

「悪いな。面倒事を押し付けて」

「気にするな」

「じゃまたな」


 生きていればまた会う事もあるだろう。

 アズリの屋敷に入る。


「隊長、来ると思ってたよ」


 ラバル達、小隊の6人とレアルが居た。


「待ってたのか」

「そうさ、護衛任務しながら、待ってたよ」


「重用されているんだな」

「一番、信用できるのが俺達6人らしい。ここ数日、グエルのスパイが自暴自棄になって大変だった」


「そうか。苦労を掛けるな」


「また隊長に戻って下さいよ」

「そうですよ」

「戻ってくれよ」

「改ざんの嫌疑は晴れたんだろう」

「誰も文句は言わないと思う」


「俺は追放された身だから、本来ここには来られない。それに俺の仕事は終わった」

「隊長の決意は固いようですね。仕方ない。ムニ小隊、隊長に向かって敬礼」


 6人が俺に向かって敬礼する。

 こいつらもいっぱしの兵士になったな。


「師匠、行っちゃうの?」


 さっきまで黙っていたレアルが目に涙を浮かべ言った。


「たまには顔を見せるよ」

「絶対だよ」

「男の約束だ」


 皆との別れを済ませ、アズリの部屋の前に立ち扉を叩く。


「エックスだ」

「どうぞ入って」


 俺が扉をくぐると、来る事を予期していたのだろう。

 アズリは驚くこともなく淡々としていた。


「バラムを殺したよ」

「そう、どんな最後だった?」


「これ以上ない、間抜けな死に方だったと思う。遊びだと勘違いして、ベンケイが殺したんだ」

「屈辱的な死に方だったようね。どう、あなたさえ良ければ私に仕えてみない?」


「それはやめとくよ」

「なぜ? 仮面の下の顔がムニだから?」


 気づいていたのか。

 まあ、今更だな。


「それはあるな。追放された俺が戻ると色々と不味いだろ。一度下された罰は取り消せない」


「決戦で大活躍したじゃない。その功績でどうにでもなるわよ」


 アズリが椅子から立ち上がり、涙ながらに土下座した。


「ぐすっ、あの時はごめんなさい」

「立てよ。謝ってほしい訳じゃない」


 俺はアズリに手を貸して立ち上がらせた。


「ではどうしたら」

「元々、そんな柄じゃないのさ。宰相なんてのは俺には合わない」

「意思は固いようね。でも、気が変わったらいつでも言って、待っているわ」


 アズリと別れて、俺はオアシスを回って品物を出す仕事に戻った。

 そろそろ、地球に帰る方策も探らないと。


 分かっている事がある。

 最初に転移した異世界アルリーから地球に帰る事ができたのは、願いのダンジョンをクリアしたからだ。

 きっとこの世界にもそういうのがあるに違いない。

 それをクリアすれば地球に帰れると思う。


 オアシスを回り、情報を集める日々。

 ある日、俺の足元に魔力回路が展開された。

 この回路の形は転移に似てる。

 どこかに飛ばされるのか。

 まあ飛ばされるのは慣れっこだ。

 願わくば、地球が良いな。

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