第29話 おっさん、諭す

「ムニさん、食料の配給はもう少しなんとかならないか。料理がめんどくさくてなぁ」


 オアシスにいる一人が相談に来た。


「給料払っているだろ。その金で買え」


 現在オアシスは給料制になっている。

 魔力の関係で際限なく物資は出せないが、俺の出す物は質がいいので高い。

 働けない子供もいるので食料だけは配給している。


「そうは言うけどよ。欲しい物が多すぎてな」

「分かったよ。すぐに食える奴に切り替えてみる」


 現在の配給は飽きがこないように小麦粉、米、パスタ、野菜、調味料など色々と配給している。

 簡単に食えるのだとパンの耳一袋10円が出せる。

 パンの耳なら色々な物を付けてすぐに食べられる。

 何回かに一回はこれにしてやろう。


「助かるぜ」


「ムニさん、隣の部屋のいびきがうるさいんだ。何とかならないか」


 別の奴が相談を持ち掛けて来た。


「空き家なんて腐るほどある。引っ越せよ」

「そうは言うけど金欠だ」

「防音ボードはあるが高いぞ。そうだなこれぐらいのが銀貨1枚だな」


 俺は両手を30センチぐらい広げた。

 防音ボード一枚が1000円だ。


「そんなの買える訳ない」

「しょうがない。耳栓を出してやる。銅貨10枚だ」


 耳栓は100円だ。


「買った」


 こんな感じで相談事が持ち込まれる。


「盛況なようね」


 アズリが俺の家に来た。


「忙しくて困る」

「最近、皆は私の所には相談に来ないのよね」


「俺に直接言った方が手っ取り早いだけだろ。嫌われたんじゃないと思うぞ」

「分かっているわよ」


「少し不味い事になったぞ」

「アタン、交易から帰って来たのか」

「呑気な事を言っとる場合じゃない。サンドウルフのコロニーができたんじゃ」


「場所はどこだ?」

「ここじゃ」


 アタンは地図の一点を指で指した。


「交易路からは外れているな。これなら損害は出ないんじゃないか」

「そうじゃな。じゃが、わしは討伐したい」


 アタンの考えは分かる人助けって訳だ。


「どんな利がある?」

「近隣のオアシスは金を出すと言っておる」


 なるほどな。

 大規模な討伐だと犠牲者が出る。

 避けて通れないなら仕方ないが。


「俺は反対だ。放っておけばいい」


「私は賛成よ」

「アズリ」


「何よ? 文句があるの。私が族長よ」

「そこまで言うのなら反対はしない」


 アズリが討伐の募集掛けた。

 集まった人数は30人。

 このオアシスにいる大人の男の三分一って所か。


「アズリ、今からでも遅くない撤回しろよ」

「いやよ」


 むきになっているな。

 どうしよう。

 やらせてみるか。

 今回、俺は黒子にてっしよう。


 俺はサンドウルフの弱点のキシリトール飴を10万円分出してやった。


「ありがと。じゃ、行くから」


 俺はアイテムボックスの中の水と食料を確かめ準備。

 モレク二頭も借りて来た。


「モニカ、アズリへのナビを頼む」

「応。闇の痕跡は黒い足跡を残す。道標発動」


 モニカから矢印が出て方向を指し示す。


「よし、追うぞ」

「了解」


 30人も戦闘員がいればモンスターの障害ぐらい屁でもない。

 強敵がいないという条件付きだが。

 道中は一人の犠牲者も出なかったようだ。


 双眼鏡で確認する。

 サンドウルフとの戦闘が始まった。

 毒餌で大半が死滅したようだな。


「ヴォォォン!」


 凄まじい雄叫びが聞こえた。

 みると体高が2メートルはあろうかというサンドウルフが進み出て来た。

 こいつがボスだろう。


 モレク達が方陣を組んで、足並みを揃える。

 アタンが操っているのだろう。


 ボスサンドウルフは大きく息を吸い込むと炎を吐き出した。

 火だるまになるモレク。

 ボウガンを撃ち返すが致命傷にはならない。

 男達の何人かが逃げ出す。


 アズリが槍をもって一人でボスサンドウルフに突撃して行くのが見えた。

 兵士が逃げて、大将が突撃か。

 駄目だな。

 てんでなってない。


 俺はモニカをお姫様だっこすると、最大走力でアズリのもとに駆け出した。

 アズリは炎を迂回して攻撃するようだ。

 だが、ボスサンドウルフは頭の向きを変え、アズリを炎で捉えるべく動く。

 アズリがブレスにやられそうになった時、モレクが盾になった。


 アタンがやったのだろう。

 将としてはアタンの方が強いな。

 ふう、追いついた。

 ボスサンドウルフが俺を火だるまにしようと息を吸った。


 耐火ボードの盾をアイテムボックスから取り出した。

 火を吐くモンスターは多い。

 こんな事もあろうかと作っておいたのだ。

 盾が無くても魔力壁でかなり防げるが保険だ。


 盾を構えて突進する。


「おりゃー」


 炎を吐かれるのをお構いなしに接近。

 アッパーをボスサンドウルフの下顎にかます。

 口を閉じるボスサンドウルフ。


 俺は首に抱き着くと骨をへし折った。

 雑魚のサンドウルフが散って行く。


「ムニ、あんたね。美味しいとこを持っていくんじゃないわよ」

「あれぐらい出来たってか。無理だな。戦士としての能力はアタンの方が上だ。将としてもな」

「何よ。私が無能だって言うの。私は何の為にいるの」

「前線に出る為じゃない事は確かだ」


「私が間違っているって言うの」

「そうだ。討伐を自分でやるのではなく、誰かに命じれば良かったんだよ」

「やだよ。そんな事したら、私の見ていない所で犠牲者が出る」


「その責任を背負うのがトップである族長だ。もし、討伐隊が全滅しても全ての責任を取る。死を背負うんだ。将だって責任を背負ってるんだぞ。族長はもっと重い責任を背負え」

「私はその為にいるのね」

「分かったか。オアシスの人間全員を生かす為にいるんだよ。雑事をする必要などない。決断と責任が仕事だ」

「ずるい。これが分かっていたから、私に押し付けたのね」

「俺は今すぐ故郷に帰る事ができる。とっても遠い所で、グエルの殺し屋も来られない場所だ。だがな、一緒にやってきたから、軌道に乗るまでは力を貸す。その後は故郷に帰る」

「そう」


 アズリの顔は寂しそうだった。

 だが、出会いと別れは慣れっこだ。

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