第25話 おっさん、黒い霧の中で交易する

 俺達は交易する為に移動中だった。


「俺達はヴァンパイヤモスキートなんざ怖くない。サンドシャークキラーだからな」

「そうだ。そうだ」


 黒い霧渦巻く草原を俺達のキャラバンが行く。

 黒い霧はもちろんヴァンパイヤモスキートだ。


 モレクは何故かヴァンパイヤモスキートに刺されない。

 皮膚が厚いのだろうな。

 砂漠で生き残って来た事だけはある。


「おっ、ちくっときたぜ」

「背中を刺されているぞ」


「スプレーの効果が薄くなったんだ。すまんな、そこまで試験してなかった」


 俺はそう原因を指摘した。

 虫除けスプレーと殺虫剤を掛けてやる。


「良いって事よ。グエルオアシスにいた頃はこんなもんじゃなかった。ぼろ屋だったんでな」

「とにかく急ぐぞ」


 虫除けスプレーの効果時間が意外に短いのが判明した。

 何時間かおきに掛ければ良いだけだが。


 イゼゼオアシスに着いた。

 道中、一回もモンスターには遭わなかった。

 ヴァンパイヤモスキートの大群がいる中を、うろついている酔狂な奴は居なかったらしい。


 俺達は露店を始めた。

 こんな日に露店をやる奴はいない。

 物凄く目立った。

 蚊取りグッズを稼働させると俺達のいる所がヴァンパイヤモスキートの空白地帯になる。

 防護服を着た通行人が何事かと寄ってきた。


「この魔道具、魔力を入れなくても90日持つ。魔力はすでに充填済みだ」


 電池式蚊取りは魔道具ではないが、そう嘘をついた。


「ヴァンパイヤモスキートが入ってくるのはしょうがないが。寝てる時にこられると腹が立つんだ」

「夜間だけでも魔道具を作動させれば良い」

「これ高いんだろう」

「金貨1枚だ」


「意外に安いな」


 防護服は権力者の専売だから、値段も高い。

 防護服を買えるのは富裕層だ。

 金持ちが多いので、ぼったくりでも買って行く。


 ヴァンパイヤモスキートの集られて逃げ回っている男がいる。


「こっちだ」

「ふう、助かったぜ。防護服を持ってないんだ。食料が尽きてもう命がけさ」


「食料なら売ってやるよ。ヴァンパイヤモスキートが寄って来ない薬もな」

「高いんだろ」

「虫除けの薬が銀貨50枚。食料は銀貨4枚だな」

「買えないな」


「じゃ、こうしよう。この露店の看板を作るからそれを持ってねり歩け。一日働いたら、ただで食料と薬を提供しよう」

「悪い取引じゃないな」

「やってくれるか」


 同じような境遇の男は何人かいた。

 彼らはただという言葉に釣られて宣伝を担ってくれた。

 宣伝のおかげで、続々と人が集まってくる。


 一緒に来た男達は何をやっていたかというと、ヴァンパイヤモスキートに刺されて死にそうな奴を助けて回ってもらってた。

 もちろんオアシスに勧誘するためだ。


「うわっ、本当にこの一角だけ、奴らがいない」

「本当だ」

「天国ぅ」


 来たのは子供の集団だった。


「おい、人を集めろとは言ったが、なんで子供なんだよ」

「決まっているじゃないか。こいつらは口減らしされたんだ」


 人集めの男がやり切れなさそうにそう言った。


「どういう事だ」

「食料の備蓄が十分でなけりゃ、人数を減らすしかないだろ」


 事情は呑み込めたが、世知辛いな。

 面白い事実を発見した。

 ヴァンパイヤモスキートはモンスターなんだ。

 これは分かっている。

 だが、スライム並みに経験値が高い。

 中には何十倍もの経験値をもったすぐ逃げる銀色の奴みたいなのもいる。


 どうしてこうなっているかの推測だが、ヴァンパイヤモスキートが生き物を殺してレベルアップしたと思われる。

 こうなれば、後の話は簡単だ。


「電撃殺虫ラケットだ。こいつで叩けばヴァンパイヤモスキートが簡単に死ぬ。盗んで逃げようと、考えるなよ。すぐに入れてた力の素がなくなって、使えなくなるからな」

「ちぇ」


 そういう事を考えていた奴がいるらしい。

 子供達に虫除けスプレーをしてやると、電撃殺虫ラケットを片手に走り回った。


「うはははっ、面白れぇ」

「このバチッっていうのが快感よね」

「ほんと、ほんと」

「俺はもう100匹を超えたぜ」


 ゲーム感覚なのだろうな。

 レベルの台帳を作り、レベルアップした子供には、お菓子を支給する事にした。

 ヴァンパイヤモスキートは腐るほどいる。

 子供達にはレベルアップに勤しんでもらおう。


 そして、一週間が経ち、緑の絨毯も無くなり、ヴァンパイヤモスキートは卵を砂漠中に産み付けて死んだ。

 人々の生活が正常に戻ったので前のダンジョンで仕入れたマヨネーズ、香辛料、そして、ガラス製品を売りまくった。

 やっぱりガラス製品は利幅が大きいな。

 ただ、ある程度の数が売れると売り上げは落ちた。

 そんな物だよな。


 俺達は交易で得た金で沢山のモレクを仕入れて帰った。

 子供達は皆レベル10を超えたので魔力タンクとして非常に役に立った。

 失敗したな。

 サラクオアシスに残してきた子供達にもヴァンパイヤモスキート退治をさせれば良かった。

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