第23話 おっさん、雨に備える

助手アシスタント、来いモニカ」


 今日の助手アシスタントはモニカだ。


 モニカは三番目の妻でエリナと二卵性の双子だ。

 妹の方は赤い髪におっとりとした目つきだ。

 特徴はなんと言っても普段は短い台詞で、魔法を唱える時は中二病臭い台詞になる。


 魔法がないとモニカのあの独特の台詞が聞けない。

 魅力半減だ。


「異世界転移。主人公爆誕」

「誰かが主人公という事はない。物語ではないんだ」

「残念」


「説明しておく、その体はスキルが使えない。その代わりに無敵で鑑定が使える。それと俺に翻訳機能が備わる」

「邪眼発動。見える、闇の知識が見える」


 魔法を使わなくて中二臭い台詞を吐くのだな。

 聞いている分には面白いのでオッケーだ。


「大変よ」


 アズリが駆け込んで来た。


「誰?」

「モニカ、このオアシスの族長のアズリだ」

「モニカ、よろしく」


「アズリよ、こちらこそよろしく。そんな事より、雨が降りそうなの、あと何日かで降ると元冒険者の老人が言っているわ」

「何が必要だ」

「何が無くてもヴァンパイヤモスキート対策よ」

「家の補修が出来れば良いんだな。じゃベニヤ板と波板とセメントと釘を出す。それと網戸だな」

「セメントって? それと網戸という事は網で戸を作るのね」

「セメントは砂と水を混ぜると固まる漆喰のような物だ。網戸はこれだ、魔力通販メールオーダー


 俺は30メートルの張り替え用の網を出す。

 金額は一巻き6,480なり。

 アルミの枠は高いから、これだけで窓を塞げば良いだろう。

 窓を完全に閉めると熱中症になるからな。


「丈夫な網ね。これなら役に立つわ」


 みんなから集めた魔力でさっき考えた物を出す。

 ベニヤ板一枚約500円。

 波板一枚約2500円。

 セメント20キロ約1300円。

 これらを必要な分出してやった。


「さあ、補修だ」


 皆が作業に取り掛かった。

 穴が開いている屋根には波板を取り付ける。

 そして、壁の穴にはベニヤ板やセメントだ。

 窓には網戸用の網。


 そして、余っている魔力で電池式蚊取りをありったけ出してやった。

 やれる事は全てやったと思う。


「ムニ、ありがとう。あなたには何度も助けられたわ」

「良いって事よ。それより砂漠にいる奴は、ヴァンパイヤモスキートをどうやって防ぐんだ」

「防護服があるのよ。それを着るの」

「なんとなくイメージできた。養蜂の防護服みたいな奴だな」

「養蜂が何かは分からないけど。たぶん合っていると思う」


「ヴァンパイヤモスキート。拝見要望」

「なんだ。モニカは蚊なんぞに興味があるのか?」

「吸血鬼蚊。語感称賛」


「語感が気に入ったのか。確かに吸血鬼なんて名前は物騒だからな」

「笑い事じゃないのよ。死ぬまで血を吸われたら、洒落にならないんだから」

「たぶん、俺とモニカは平気だぞ」


「なにそれ、ずるい」

「モニカは血が流れていないし。俺は魔力壁がある」

「私達は2週間ぐらい籠の鳥ね」

「2週間もか。じゃ防護服を作らないと。明日はそれだな」


 次の日。


「どのくらいの布だったらヴァンパイヤモスキートの歯が立たない」

「とにかく布目の細かい奴よ」

「じゃ化学繊維なら平気か」


 俺はポリエステルのジャンパーを出してやった。


「凄い、これなら針が刺さらないと思うわ」

「奴らでかいものな。でも、その分突き刺す力は強そうだ。試してみるか。実験の為にペットボトルで育てた奴がいる」


 俺はペットボトルの口からピンセットでヴァンパイヤモスキートを一匹取り出した。

 ジャンパーを着てヴァンパイヤモスキートを近づける。

 うっ、ちくっと来た。

 ヴァンパイヤモスキートの腹が膨れる。


「駄目だ。この服では防げない」


 こうなったら、防水シートを出すしかないか。

 防水シートを出して実験する。

 ヴァンパイヤモスキートは防げたが、こんなの着たら暑くて死にそうになる。

 アプローチがおかしい事に気づいた。

 方向性が間違っているんだ。


「なぁ、アズリ。防護服は誰が作っているんだ?」

「オアシスの権力者ね。彼らが独占してるわ」

「なるほどな。アズリは族長の娘だったんだろ。何か覚えてないか」

「そう言えば、防護服を作る時に、秘密の草を集めるのを手伝わされたわ」


「それだ。その秘密の草がヴァンパイヤモスキートにとって毒なんだよ」

「鑑定。闇の知識が囁く。ヴァンパイヤモスキートの弱点はキラモス草」

「その名前だけ聞いてもな」

「大丈夫。私が草の特徴を覚えているから」


 モニカの鑑定のおかげもあり秘密の草の加工をする方法も分かった。

 服に処理した草の汁を塗る。

 おー、ヴァンパイヤモスキートが刺さない。

 服は安そうで涼しそうなのを用意して、顔部分は網戸の網でいいか。

 ズボンは普通ので良いだろう。


 頭は麦わら帽子だ。

 手は肘まである手袋。

 足は長靴。


 出来たな防護服。

 量産は出来ないが、いくつかは作れる。


「これなら、ヴァンパイヤモスキートが湧いても、外出できるわ」

「腰に付ける蚊取りも出してやろう。これで完璧だ。そう言えば、モンスター達はどうやって難を逃れているんだろう」

「砂を固めて鎧にしたり、砂に潜ったり、皮膚の厚さで対抗したりと色々よ」


 さて、明日から水と食料を貯えないとな。

 2週間も籠もるのだからな。

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