第228話 おっさん、人探し依頼を受ける

 ソーセージ店で買い物をしたらメモを渡された。

 メモにはこの場所にいる人物に会えと記されている。

 それと合言葉と地図が添えてあった。


 俺はその場所に向かった。

 地図ではここだな。

 勝手知ったるスラムだ。

 なんとなく懐かしい。


「おい、冒険者の兄ちゃん、金を恵んでくれないか」


 こういう輩に銅貨一枚でも渡すと同類が群がってきて、仕舞いには身ぐるみはがされる。


「顔役の所へ連れて行け。いるんだろそういう奴が」

「ちぇ、カモだと思ったが、スラムに詳しい奴か。良いだろ、ついて来い」


 暗がりに誘い込まれるかと思ったが、建付けの悪い家の前に連れて来られた。


「案内ご苦労。銅貨5枚だ」

「しけてやがんな」


 俺は家に入って声を張り上げる。


「スラムに用があって来た」

「変な兜を被っているな。面白い。気に入ったぜ。その形はまるであれだな。びんびんだな」


 あれに関しては追及しないでおこう。


「スラムにいる人間に会うように言われたんだ。地図を持っている」

「こりゃ、ジェフとステア兄弟の住処だな」

「案内してくれ」

「いいとも」


 兄弟の家に案内された。

 板を打ち付けて作った小屋みたいな家だ。


「誰かいるか」


 少年が一人出て来た。

 少年は最初が歓喜の顔で、次第に落胆の顔に、そして険しい表情になった。


「顔役じゃないか。今、忙しいんだ。帰ってくれ」

「白いカラスが鳴く」


「そうか、あんたが。ここではなんだ。入ってくれ」


 家に入り話の続きを促す。


「弟が帰って来ないんだ」

「なるほど、探してほしいって訳か」

「無理だな」


 顔役が頭から否定した。


「やってみないと分からないだろう」

「スラムで姿を消す奴が何人いると思っている。見つかったなんて話はとんと聞かない。まず無理だ」

「顔役は黙っててくれ。俺は弟をどうしても探したい」

「俺はお呼びじゃないようだ。帰る」

「おう、世話になった」


 俺は銀貨を投げ渡した。


「用があればいつでも呼べ。金額に応じてやってやる」


 顔役は上機嫌で去って行った。


「手がかりは無いのか」


 ジェフはうつむいたまま何も言わなくなった。


「黙っていたら分からない」

「無いんだ。誰に聞いてもさらわれた現場が分からない」


「困ったな」


 ヴァンパイヤの能力に頼ってみるか。

 まずは匂いだ。

 ヴァンパイヤは人間よりは鼻が利く。


「弟の衣類を貸してくれ。匂いを追う」

「今、持ってくる」


 持ってこられた衣類は少ない。

 そうだよな。

 スラム暮らしじゃ着る物は少ない。

 衣類の中に俺は血の匂いを嗅ぎ取った。


「これは」

「それは行方不明になる何日か前に、弟が転んでひざを擦りむいた。それでズボンに血の染みができたんだ」


 なるほど、行方不明になる原因が殺傷なら、現場が分かるかもな。


「よし、匂いは覚えた。追跡にかかる」


 弟のステアの血の匂いが微かにする。

 それを俺は追った。

 そして道端に汚い布切れが落ちているのを見つけた。


「ステアの手ぬぐいだ。間違いない」


 手ぬぐいには血で『助けて』と書かれていた。


「弟は良く字が書けたな」

「俺と弟はレジスタンスの工作員の修行をしてた。さっきは顔役がいたので言えなかった」

「じゃあ、捕まったのはそのせいかな」

「いや、任務はまだやった事がない。俺と弟が工作員だと知っているのはレジスタンスでも一部の人だけだ」

「そうか、偶然か。手がかりはまだ落ちているかもな」


 俺は追跡を再開した。

 微かな血の匂いは街道に向かっている。


「遠くに連れていかれたらしい」

「どこまでも付き合うよ。弟の為だ」

「よし、このまま痕跡を追って街道を行こう」


 俺はスクーターを出した。


「何これ恰好良い」

「乗り物だ。早いぞ。馬車より数段早い」

「ヘルメットだ。被っておけ」

「変な兜。でも丈夫そうだ」


 ガソリンの匂いがあっても血の匂いは誤魔化されない。

 ヴァンパイヤの血を嗅ぎ分ける能力は半端じゃないな。

 この分だとさらった奴に追いつけるかもな。

 無事でいると良いが。

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