第212話 おっさん、レッサーヴァンパイヤと対決する

 翌朝、雨は上がってからりと晴れ上がっていた。

 馬車は現在、中継地の村の外れで野営中だ。

 ジェマはここからスクーターで移動するつもりらしい。


 馬車は早朝に村を出て行ったので、俺達は村にお邪魔する事にした。

 ジェマが新鮮な野菜を食いたいと言った為だ。

 村に一軒しかない酒場に入った。


「おいひい、おいひいよ。ムニ、ごめん。食べられないんだった」


 そうだな。

 今の俺には食べる楽しみも、寝る楽しみも、風呂に入る楽しみもない。

 風呂に入った所で暑さを感じないのだからな。

 ストレスには無縁なのでなんとかなっている。


『一つ遊びを教えてやろう』


 俺は魔力通販でリバーシを買ってテーブルに置いた。


「なんかシンプルなゲームね」

『交互に駒を置いて、同じ色で挟むと色を変えられる。自分の色が多い方が勝ちだ』

「面白そう」

『じゃやってみよう』


 俺はリバーシをジェマと楽しんだ。


「ああ、負けちゃった」

『角を取るのと。序盤は多く取り過ぎない。これさえ分かれば素人には勝てる』

「なるほどね。もう一回やりましょ」


「大変だ。チャドの奴が病気になっちまった」


 男が駆け込んできた。


「これで何人目だ」

「5人目だ」

「この村は呪われているんだ」


 ダンジョンコアから吸い取った魔力で病気治療のポーションは手に入れられる。

 免疫力を高めるタイプだから、どんな病気にも効くはずだ。


『これを使うように言ってくれ』


 俺は病気用のポーションを出した。


「おじさん、良かったらこれ使って。薬よ。効くかどうか分からないけど」

「ありがとう。村にはろくな薬がないから助かった」


 男はポーションを受け取ると駆け出して行った。

 俺とジェマはリバーシを再開した。


「やった。やっと勝てたわ。コツが分かると楽しいね」

『どうだ。冒険が嫌になったら、このゲームを作ってみると良い。真似されるだろうが、儲かるぞ』

「ええ、その時はね」


「大変だ」


 さっきの男が戻ってきた。

 まさかポーションの副作用で急変したとか。


「どうした真っ青な顔をして」

「ヴァンパイヤだ。病気はヴァンパイヤに噛まれたせいだったんだ」


 ヴァンパイヤね。

 金属支配のアンデッドだと対処し易いのだが。


「大変だ。軍の出動を要請しないと」

「出たのは上位種か」

「いや、チャドの話だと知性が無いようだった」

「なら、レッサーヴァンパイヤだな。チャドが助かったのはそのせいだろう」


『襲われた時の事を聞いてくれ』

「おじさん、襲われた状況を詳しく」


「夜、寝ていたら、突然襲われたそうだ。赤い目の男だったとしか覚えてないみたいだ。相手は唸り声しか話さなかった。噛まれてから目を覚ますまでの記憶はない言っていた」

「村の近くに潜んでいるんだろう」

「困ったな。レッサーでも自警団では歯が立たない」

「残りの4人の病人にもあの薬を飲ませたい。金なら払う。あんた譲ってくれないか」


「ムニ」

『譲ってやるよ。襲撃がある場合に備えて余分もな』


「喜んで譲るわ」

「ありがたい」


 村人は薬を受け取ると散っていって、しばらくして戻って来た。

 顔は一様に暗い。


「やはり、レッサーヴァンパイヤだった」

「こっちもだ」

「相手は金髪だったらしい」

「服は身に着けていなかった」


 どこに潜んでいるのやら。

 退治するなら昼間のうちが良いだろう。

 だが生憎と日は暮れそうだ。


『俺達はどうする』

「見捨てたら、寝覚めが悪いわね」

『じゃあ、ヴァンパイヤ退治しよう』


 幸いな事に俺は噛まれても平気な体だ。

 夜の帳が下り村人は全員、村長宅に集まった。

 襲ってくるかな。


 夜中、扉の固定していた木が吹き飛ばされ、扉が破られた。

 来たな。


『ジェマ、下がっていろ』


 俺は前に出てレッサーヴァンパイヤと対峙した。

 レッサーヴァンパイヤは全裸で真っ赤な目をしてこちらを睨んでいた。

 皮膚が所々黒ずんでいる。

 昼間の時間、太陽に焼かれたと思われる。

 銀を埋め込んだメイスを振りかぶり一閃。

 レッサーヴァンパイヤは唸ると、片手で受け止め、メイスをへし折った。

 ポチが足に噛みつこうとするが蹴りを入れられバラバラになる。


 俺は急いで金属支配を使いメイスを繋げた。

 綺麗に切れてないので上手く繋がらない。

 剣が折れるのとは違うのだな。

 感心している場合じゃない。

 俺はアイテムボックスから新しいメイスを取り出した。


「援護するわ。属性魔導アトリビュートマジック、刃よ回転して切り刻め」


 ダイヤモンドカッターの刃が飛んで来る。

 レッサーヴァンパイヤは素早くかわすとジェマに襲い掛かった。

 くそう、早すぎる。


 ジェマは首筋を噛まれている。

 動きが止まっているので、全力でメイスを叩き込んだ。

 だが、メイスは筋肉で受け止められた。

 銀が当たった所から煙が出る。

 血の臭いが立ち込めた。

 おっ、効いているぞ。

 だが、致命傷には程遠い。


「ならば。属性魔導アトリビュートマジック、刃よ回転して切り刻め」


 ダイヤモンドカッターの刃がレッサーヴァンパイヤに食い込む。

 だが、血が流れないので、効いているようには思えない。

 俺はニンニクドレッシングを掛けた。

 ニンニクは効果無しか。


「ガオォン」


 レッサーヴァンパイヤは叫ぶと逃げて行った。

 完敗だ。

 レッサーヴァンパイヤを舐めてた。


 ジェマ、すぐにポーションを飲ませてやるぞ。

 ポーションを飲ませたが、ジェマは眠ったままだ。

 おかしい。

 慌てて今度はエリクサーを飲ます。

 だが、起きない。

 エリクサーが効かないなんて、どんな毒なんだ。

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