第152話 おっさん、活動を開始する

 スラムに再びもぐりこんだ俺はホワイトボードの助けもあって日常会話なら問題なくなった。


「ムニ、今日も紙を売るの」


 話し掛けて来たのはスラムの住人のアニータ。

 前に飴をやったら懐かれた。


「まあな、今のところできるのはこれぐらいだし」


 研究所から逃げた後、魔力通販でいくらか商材を仕入れて、余った魔力はチタン板になった。

 今は魔力100だから、こんな物しか出せない。


「そんな事ない。属性魔導が無くても、物を産み出せるってすごい事よ」


 俺は門の所へ行きゴザを敷き、100均のコピー用紙を置いた。


「紙売りさん、1枚いくら?」

「銅貨1枚」

「じゃ5枚」

「はいよ」


 一日に銅貨100枚。

 これが俺の収入で、裕福ではないが暮らしていける金額だ。


 言葉も覚えたし、そろそろ動き出さないと。

 アルマ達の顔も恋しくなった。


 腐ったこの国を変えるのは属性魔導の属性がみんなにあると、はっきり分からせる事だ。

 俺の想像だが、素質なしと言われた人の触媒はどこにあるか分からない元素の可能性がある。

 例えばヘリウム。

 風船に使うのは俺でも知っているが、どこで採れるのかは知らない。

 百科事典を見ると天然ガスに含まれるらしい。


 ひとつ分かった事がある。

 属性魔導は微量に含まれる場合反応しない。

 だってチタンは土に含まれている。

 土に反応しないのはおかしい。

 骨なんかも微量の元素を幾つも含んでいる。

 たぶん10パーセントぐらいがボーダーラインだと思う。


 ヘリウムは微量だから天然ガスでも反応しないだろう。

 そういう人達を俺の魔力通販で救ってやる。

 そう決めた。


「アニータ、手伝ってくれた褒美に宝石をやろう」

「本当」

「ほらよ、ジルコニアだ」


「なんて綺麗なの。これで私も宝石魔導士。属性魔導アトリビュートマジック、雪よ降れ」


 雪が舞い落ちる。

 おい、こんな偶然があるかよ。


「宝石消えちゃった。うわーん」

「泣くなよ。新しいのをやる。今度は魔導を使うなよ」

「うん」


 アニータの属性はジルコニウムだったのだな。

 その酸化物の結晶であるジルコニアは模造宝石として知られる。

 ジルコニアは安いので魔力通販で商材として仕入れた。


「アニータ、スラムの皆を集めてくれ」

「うん、いいよ」


 アニータがスラムの顔役に繋ぎを取る。

 対価としてジルコニアを三粒支払った。


 程なくしてスラムの広場にみんな集まった。


「よく聞け。属性魔導の素質は全員にある。アニータやってくれ」

属性魔導アトリビュートマジック、雪よ降れ」


 皆はぽかんと空を眺めていた。


「このようにアニータにも属性があった。みんなにもあるはずだ」

「本当か」

「ああ、本当だ。しかし、属性を突き止めるのは容易ではない。俺に力を貸してくれ」

「何だ。詐欺かよ。期待して損した」


 大半の人間が去り、5人の人間が残った。

 まあ、最初はこんな物だろう。


「俺達に何をやらせるつもりだ」

「魔力が欲しい。魔石も手に入れたい」

「何だそんな事か。魔石は安いから手に入り易い。魔力は俺のでよかったら使ってくれ」


 これで一日700円の物まで買える。

 後は元素のサンプルをどうやって手にいれるかだ。

 鉱物だけじゃなくて気体もだとするとかなりめんどくさいな。


「よし、俺を信頼してくれた証を渡そう。売るなり自由に使ってくれ」


 俺はジルコニアを一粒ずつ渡した。


「俺はよ。あんたの詐欺の手口を盗んでやろうと思った」

「それで」

「詐欺でもいい。この宝石を売った金が無くなるまで騙されてやる」

「なら、金が無くなったら言ってくれ。新しいのを渡すから」


 なんせ一粒190円だからな。

 全然惜しくない。


「こいつは大物だ。俺には真似できない」

「不満があったら遠慮なく言ってくれ。対処できればする」

「おう、任せろ」


 活動するには3級市民ではなかなか難しい。


「1級市民を仲間に引き入れたい。誰か知らないか」

「アニータ、知ってるよ。よく花を買ってくれる親切な宝石魔導士さんがいるんだ。その人なら話を聞いてくれると思う」

「よし、案内してくれ」


 街に入る門の列に並ぶ。

 俺達の番だ。


「1級市民でなければ銅貨5枚だ」

「はいよ。二人分だ」


「市民証を」

「持ってない」

「3級市民だな。なんの目的で街に入る」

「親切なご婦人に花を売りに行く」

「いいだろう。入れ。用事済んだら街から出て行けよ」

「分かったよ」


 銅貨を払い街の中に入る事ができた。

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