第140話 おっさん、学園都市に着く

 学園都市フォルドゥに着いた。

 学園都市はビル群が立ち並ぶ大都市だ。

 平屋の家屋は一軒も建っていない。

 このビルの遺跡群に学園はもちろんの事、店舗、住宅が全て入っている。

 城壁がなければ普通の地球の大都市だ。

 街灯とネオンがあって本当にそっくりに見える。


「俺はこの街のギルドに顔を出してくる。パティはどうする」

「学生相手に情報収集は辛いわね。店も沢山あり過ぎて何かに的を絞った方がよさそう」

「そうだな。本を出すから。本屋を回ってくれ。学生なら本は好きだろ。ただ、ダカードが本屋に顔を出すとは考えられないがな」

「本屋で学生に人相書きを配ってみるわ」

「その辺が無難だな。それと酒を出すから酒場をめぐってみてくれ」

「ええ、任せて」


 俺はパティと別れて、冒険者ギルドに顔を出した。

 ギルドは閑散としていて活気がない。


「いつもこんなのなのか」

「はい、いつもこんな感じです。依頼も学生相手の雑用しかないですし」

「じゃ、変わった人が来たらすぐに気づくよな」

「そうですね」


「この男なんだが」


 そう言って人相書きと銀貨3枚をカウンターの上に置いた。


「困ります」

「なにみんなで茶菓子でも買って食ってくれりゃいい。差し入れだと思って取っておけよ」

「それなら」


 ギルドは望み薄だな。

 ここは大都市だ。

 人も多い。

 見つけ出すのは容易ではないな。


 学園の数学を扱う所に行っても話を聞いてもらえるかどうか。

 門前払いされるのが落ちだな。


 まあ、こういう時に魔力通販があるんですけどもね。


 俺は学園の数学科を訪ねた。


「発掘品で良いのがあるので見てくれないか」

「ここは数学を教える所だ。押し売りは御免だ。しつこいと警備を呼ぶぞ」

「まあまあ、数学と関係ある品を持ってきたんだよ」

「ほう、数学とね」


 よし、食いついた。


「ここに出した電卓は計算ができる優れもの。なんと光さえあれば魔力は要らない。お値段はたったの銀貨1枚」

「ほう、触ってみても」

「数字と記号の翻訳したのを書いて来たから見てくれ」


 男は電卓をパチパチやり始めた。


「素晴らしい。発掘品に計算機はあるが高くて気軽には買えない。これは購入に値する品物だな。生徒全員に持たせても良いぐらいだ」

「まだ、数はあるのでちょくちょくと寄らせてもらうけどいいか」

「ああ、大歓迎だ」


 よし、切っ掛けは掴めたぞ。


「じつは人を探している。ルート7を10桁辿れという数学の問題を持ってくるはずだ。来たら知らせてくれ」

「おお、良いよ。お安い御用だ」


 後は古代文字の部署だな。

 あった、古代文字科だ。

 中に入ると男が俺を胡散臭げな目でみた。


「こんな寂れた部署になんの用だ」

「なんで寂れているんだ」

「聞いてくれるか。遺跡の物を翻訳しようにも、紙の類で残っているものは少ない。古代魔法文明は粘土版や石板を使わなかったらしい。金属の板が残されているのが幸いだな。だが、サンプルが少なすぎて成果が上がらないんだよ」

「こんな、金属の板を持ってくる奴を探している」


 俺は例の管理者パスワードのヒントを取り出した。


「これは発掘品か。これを譲ってくれ」

「いいよ。俺には不要な物だ。ただし条件がある。これの存在は秘密にしてくれ。それと同じ物を持ってくる奴がいたら知らせてほしい」

「うんうん、承諾する。その金属板を早く寄越せ」

「ほらよ」


 なにも、頬ずりしなくてもいいのに。

 これで学園の方はなんとかなったな。


 パティと合流した。


「どうだった」

「本屋は協力してくれたけど、酒場は数が多すぎて回り切れないわ」

「そうだろ。大都市だもんな。情報屋にでもあたるか」

「それは私が既にあたったわ。駄目だった」

「ところでパティは何でそんなに必死なんだ。金一封だけが目当てではないだろ」

「護衛失敗の責任を取らされて、物理的に首が飛ぶところだったのよ。仇討ちができれば不問にすると言われたわ」

「命が掛かっているにしてはあっさりしているな」

「元から達成可能だとは思っていないわ。仇討ちができなかったら逃げるつもり」

「それなら、実家に迷惑が掛かるんじゃないか」

「手紙で知らせたけど、気にするなと返事があったわ。逃亡者生活も良いんじゃないかと思っているところよ」


 パティの現状は分かった。

 仇討ちは絶対成功させる。

 パティに同情した訳ではない。

 俺の為だ。

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