第105話 おっさん、罠にはまる

「リーダー、情報屋の話ではここに落とし穴があって、落ちた先にお宝があるってさ」


 ダカードがダンジョンの中で床を指差してそう言った。

 こいつ、情報屋に伝手なんかあったのか。

 下層の階の情報なんてよく買えたな。

 いつも飲んだくれているから、貯金なんてないと思ってた。


「よし、降りてみるか」


 落とし穴のスイッチに細工して穴を開いたままにする。

 俺は鉤縄を取り出しスルスルと降りていった。

 二番手はダカードだ。

 軽い身のこなしで降りてきた。


「ブライム、落ちるなよ」


 ロープは軋んだがブライムも問題なく着地。


「行くよ」


 ヴィスが銃を背負い位置を確認すると軽々と降りてきた。


「ロープ下で固定してて。揺れると嫌だから」


 ブライムがロープを持ってピンと引っ張ると、ジェリはゆっくりと時間をかけて降りてきた。


「ここは何階層なんだろう」

「情報では10階層らしい」

「じゃあ、案外ここが最下層かも。モンスターが出てきたら全滅する可能性があるな」

「ぶるっちまったか。情けねぇなぁ」


「計画ってのは大事だ。作戦によって生還の可能性が左右される」

「訳ないよ。宝箱の中身を取ったら、いそいで縄を登るのさ」


「縄が駄目だったら」

「心配性だね。帰り道の安全な近道を情報屋から教えてもらったから楽勝だ」

「よし、宝を取って祝杯を上げよう」


 目の前に開いた扉があって、部屋の中央には宝箱。

 なんか怪しいな。

 そうでもないか。

 行き止まりに宝箱なんて事もあるからな。


 俺達は辺りを警戒しながら宝箱の近くに寄る。

 トラップのたぐいはないみたいだ。


「アクセサリーだったら欲しいな」


 ジェリがそう言った。


「駄目だ」

「ええっ、リーダーのけち」

「ダンジョン探索は実入りが少ないんだ」

「その割にはうちのパーティは裕福だけど」

「やりくりには苦労しているんだよ。わかれよ」

「はい、はい」


 宝箱を見る。

 宝箱にはこれ見よがしに鉄板の飾りがある。

 怪しいな。

 飾りを少しずつずらす。


 穴が開いているのが見える。

 ペンライトで照らすと穴の奥にはきらりと光る針があった。

 これが出てくるのだろうな。

 スイッチはどこだ。

 宝箱の蓋のを開けやすいように窪みがあり、そこにスイッチがあった。

 一応、分解しておくか。


分解ディサセムブル


 ドライバーとニッパを握りスキルを発動。

 スイッチは分解出来た。

 作動しないように細工してと。


「宝箱を開けるぞ」

「流石リーダーね。トラップの解除は一流だわ」

「おだてても、銃は新調してやらないぞ」


 ギイと軋む音がして蓋が開いていく。

 中にはエリクサーが一本と金属の板が入っていた。


 ごくりと唾を飲む音がした。

 無理もないエリクサーは一財産する。

 一生遊んで暮らせる額だ。


 ダカードが金属の板を取る。

 不用心だぞ、ダカード。

 トラップはないのか。

 俺は何の気なしにエリクサーを取った。


 カチッと音がしてトラップが作動する。

 俺の足首に鉄の鎖が巻き付いた。

 しまった、トラップに引っかかった。

 三段構えだったのか。


 箱のトラップ解除で安心させて、鉄の板でまた安心させる。

 そしてエリクサーでジエンドだ。


「エリクサーを早く渡して。鎖を外す時に壊したら、もったいないよ」

「アイテムボックスに収納するから良い」

「そうだね。やっぱり馬鹿じゃないか。みんな、とっとと逃げるよ」

「おう」

「ええ」

「そうね」


「おい、おまえら、何のつもりだ」

「俺達はさ、遺跡探索がしたいんだよ。さらばだ」


 ちくしょう、裏切られた。

 確かにさ。不満は溜まっていたさ。

 ダンジョン探索は遺跡探索と違って実入りも少ないし危険だ。

 遺跡探索もさせてやれば良かったのか。

 今となっては済んだことだな。


分解ディサセムブル


 やすりを出してスキルを発動。

 鎖を分解した。

 そして、扉が閉まる。

 ちくしょう、鎖を解くと扉が閉まるのかよ。

 お次は何だ。


 モンスターが召喚されてくる。

 何がきても死ねる自信がある。


 現れたのは金属の光沢を持つスケルトン。

 メタルスケルトンだろうか。

 物理攻撃や下手な魔法攻撃も効かなさそうだ。


 紫外線ライトの安いのなら買ってある。

 俺は紫外線ライトのスイッチを入れてスケルトンを照らした。

 駄目だ。効いてない。

 農薬入りの水鉄砲を使うが、やはり効いてない。

 万事休すか。

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