第94話 おっさん、王族に恩を売る

 俺は禁書がもっと欲しくなった。

 それに地球では使える知識が載っているかもしれない。

 それを使えば魔力の消費がもっと多くなるはずだ。


 その為には知識をため込んでいる奴らに吐き出させる必要がある。

 異世界に飛び、知り合いの貴族と面会の約束を取り付けた。


「久しぶりだなムニ」

「おう、そうだな」


 侯爵はゆったりとした椅子に座り、若い時はさぞかしもてたと思われる容姿は健在だった。


「そうだな、最後会ったのは二年もっと前か? 今日は儲け話か? それなら、大歓迎だが」

「儲け話とも言えなくもない。偉い人の寿命を簡単に伸ばせる方法を編み出した」


 この国で禁書をもっとも持っているのが王族だ。


「それは凄いな。王にこの方法を献上すれば凄い事になる。ムニ、でかした」


 この方法を喋ると最悪死刑になる恐れもある。

 勝負だな。

 駄目な時は地球にひきこもろう。


「それでな、その方法なんだがダンジョンコアを討伐しないで魔力を吸い取る。限界まで吸い取るとダンジョンが仮死状態になって経験値が入る」

「なるほど、それで魔力を吸い取られたダンジョンはどうなる?」

「一日間、機能を止めて復活する」


「そのくらいのデメリットは許容範囲だろう。褒美は何が良い?」

「珍しいポーションと魔法陣の本が欲しい。なるべくなら禁書が良い」


「まあ、いいだろう」


 ダンジョンコアから魔力を吸い取る方法を細かく教えた。


「王都まではそれなりに掛かる。今回はワイバーン便を頼もうと思う。一週間ぐらい待ってくれ」

「朗報を待ってるよ」


 それから俺は嫁達といちゃいちゃしながら侯爵の帰りを待つ。


 侯爵は満面の笑みで帰ってきた。

 そのワイバーンの背中から降りる様子を見て話を聞かなくても結果は分かる。

 俺は褒美にポーションと魔法陣の本を貰い、新たな知識を得た。


 その中に精神魔法について書かれた本があった。

 認識阻害などの精神魔法は妨害電波ならぬ妨害魔力で防げるらしい。

 なんと魔力壁も波長を変えれば防げるとの事。

 その方法も載っていた。

 流石、王族ともなると精神魔法対策は重要なのだろう。

 禁書になっているのは手口を教えると攻撃側が違う手法を編み出すからだと思う。

 ポーションについては拷問などに使うのが載っていた。

 尋問の時に使えるはずだ覚えておこう。


 魔力壁の方法を試すと、ダンジョンに行きたくなる欲求がきれいさっぱりなくなった。

 あれは呪いではなく精神魔法だったのだな。


「ちょっと、ちょっとぉ。何、呪いを解いちゃってくれてるの」


 管理者から念話で文句が来た。


「呪いじゃなくて精神魔法だろう」

「ふん、良いもんね。スキルを解けば精神魔法は復活。せいぜい苦しみなさい」

「魔力壁は解けないんだが」

「えっ、なんでそんなにレベル高いのよ。げげっ、経験値が固定されている」

「今頃、気づいたのか」

「ちょっとぉ。いい加減にしなさいよ」


「モンスター討伐は続けるから一緒だろう」

「そりゃそうだけど、なんかしゃくなのよね」

「俺は魔力消費を推進していると思うぞ。お前は地球を破滅させたいのか、それとも救いたいのか、どっちだ」

「人類としての立場は破滅から救いたいわね。でも、環境問題で人類が図に乗っているのも確か」

「お前、人類だったのか」

「失礼ね。これでも元は人間よ」

「そうか悪かったな」


「素直なあなたに教えてあげる。魔力通販で出した物を食べても魔力に戻って死ぬ事はないわ」

「ありがと、胸のつかえがとれたよ。気になっていたんだ。俺の死に盛大に巻き込むのじゃ、可哀そうだからな」

「とにかくモンスターを討伐するのよ」

「分かったよ」


 よし、モンスターを討伐しますかね。

 今日は山田ダンジョンのラスボスを退治するぞ。


 ラスボスは大鷲だった。

 これは苦戦するかもな。

 俺は鉄アレイで作ったボーラを投げまくった。

 ボーラはかわされて、突如、大鷲が大音響で叫び声を上げる。

 耳が痛い。

 何も聞こえない。

 頭がくらくらする。

 こいつの名前は絶叫大鷲だな。

 アルマ達とベンケイを連れて来なくてよかった。

 こいつは命がけだ。


 絶叫大鷲は激しく羽ばたくと羽の雨を降らせる。

 くそっ、手も足も出ない。

 羽がいくつも体に当たる。

 プロテクターがハリネズミの様になった。

 魔力壁があるので肉体の損傷はないが、やられっぱなしだ。


 俺はやぶれかぶれで、混乱の魔力回路を作動させた。

 これは戦場で乱戦に持ち込みたい時に使う自爆技の精神魔法の魔道具だ。

 もらった禁書に載っていた。

 絶叫大鷲は混乱すると床に落ちた。

 しめたチャンスだ。

 メイスでタコ殴りにして止めをさした。

 俺が混乱しなかったのは強固な魔力壁のおかげだ。

 この次はこれとやりたくない。

 確実に対策はされているだろうからな。


 ちなみにこれを戦場で使う時、自軍に妨害魔力の魔力回路を装備させれば楽勝だと思うが、妨害魔力の魔力回路は秘中の秘なので一兵卒には使えないそうだ。

 俺がもらった本にも妨害魔力の魔力回路は載っていなかった。

 もう、ラスボス戦は当分やらないぞ。

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