第91話 おっさん、スタンピードに対処する

「今こそ君らの雄姿を見せる時だ。冒険課、出動」


 俺は冒険課の人間を送り出した。

 彼らは自分の家族を守る為に散って行った。


 俺は会社の門の所でモンスターを迎え撃つ事にした。

 街を我が物顔で歩く、中猿鬼の集団。

 ダンジョン外では拳銃の使用は認められていないが。

 良いよな。緊急事態って奴だ。

 俺は拳銃を撃ちまくった。

 しかし、多い。

 門から中に入らせないようにするだけで手一杯だ。


 今のところ中猿鬼は拳銃でなんとかなっている。

 その時ひと際大きな個体が歩いてくるのが見えた。

 大猿鬼という奴だな。

 身長は3メートル近い。


 大猿鬼は電柱を鈍器として携えている。

 俺は一人門から外に出ると静かに門を閉めた。


召喚サモンベンケイ」


 傍らに現れたベンケイが唸り声を上げる。

 大猿鬼を威嚇しているのだろう。


「ベンケイは何時も通りけん制を頼む」

「わん」


 ベンケイは中猿鬼を噛み殺しながら、大猿鬼に迫った。

 大猿鬼は電柱を薙いでから、息を吸い込み火炎放射し始めた。

 飛び退くベンケイ。


 俺は火炎放射の範囲から飛び退き、鉄アレイで作ったボーラを投げた。

 大猿鬼の電柱にからめとられるボーラ。


 接近戦を挑むべきなのか。

 火炎放射に魔力壁で耐えられるだろうか。

 やはり嫁の力を借りないと駄目か。


嫁召喚ワイフサモンモニカ」

「電気自動車用のバッテリーを出すから電撃を頼む」

「承諾」


 けん制をベンケイに任せ、せっせとバッテリーをアイテムボックスから出した。


「やってくれ」

「暗黒の神よ。怨讐の雷を放て。弩砲バリスタ


 電撃が大猿鬼を直撃する。

 大猿鬼は電柱をアスファルトに突き刺し耐える。

 ちくしょう、耐えやがった。


 俺は駆け出しメイスで脛を叩いた。

 大猿鬼は痛がる素振りも見せない。

 それどころか、電柱で反撃してきた。


「モニカ、電線を切れ。そして再度攻撃だ」

「了解。断罪の剣よ罪悪を切り裂けソード


 電撃の刃が電線を切断する。


「今だ」

「暗黒の神よ。怨讐の雷を放て。弩砲バリスタ


 電線に流れている電気を触媒して物凄い電撃が飛んだ。

 今度は大猿鬼も耐えきれなかったようだ。

 仰向けに倒れそして爆発した。


 中猿鬼が散り散りになって逃げていく。

 終わったか。

 俺は会社に戻り自家発電を作動させるように指示。

 テレビをつけた。

 すると、うちがスポンサーをしている番組のアイドル達が映った。

 こいつら、ロケ中だったのか。


 危なげなく中猿鬼を切り捨てたり、撲殺したり、銃殺したりしている。

 番組でアイドルを選ぶ時に武道の有段者を選んだから強いのは分かっていた。


 大猿鬼が出てきた。


「ご覧ください。番組のロケ中にモンスターが襲い掛かってきました。迎え撃つアイドル。どうなってしまうのでしょうか」


 そうアナウンサーが喚く。


 日本刀を持っているアイドルが大猿鬼の足を一閃。

 鉄棒を持っているアイドルがバランスを崩した大猿鬼の頭を激しく打ち据えた。

 やったか。

 火炎放射を吐き出す大猿鬼。

 メリケンサックをつけたアイドルがアッパーを放ち、大猿鬼の口を閉じさせた。


 それからは可哀そうになるほど大猿鬼がタコ殴りだ。

 これにはもちろん秘密がある。

 魔力通販でダンジョンのドロップ品であるブーストポーションを買って渡しておいたのだ。

 危険が迫ったらちゅうちょなく使えと言っておいた。

 たぶん何倍もの力が出ているに違いない。

 俺もドラゴンクラスが出てきたら使うが、大猿鬼クラスではもったいなくって使えない。


 大猿鬼はほどなくして息絶えた。


「モンスター・ハント・ビューティ、略してモンハビをよろしくお願いします」


 おお、番組の宣伝も忘れない。

 良い心がけだ。

 この一件が呼び水になったかは分からないが、番組は盛況になった。

 この事件は第一次スタンピードと呼ばれ、多数の死者を出し、モンスターの危険性を改めて浮き彫りにした。

 死骸買い取り屋チェーンの冒険者ギルドも有名になり、一般人が多数モンスターの死骸を運び込むようになった。


 だが、俺には今回の件は氷山の一角にしか思えない。

 大猿鬼であの大量のゴミから発生した魔力が全て消費されたとは思えないからだ。

 次のスタンピードを起こさない為に魔力の消費を加速させたいところだ。

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