第82話 おっさん、スピード野郎と対峙する

 今日もノルマのダンジョン攻略だ。

 4階層の通路を歩いていた時、首に二度の衝撃がきた。


「何だ」


 モンスターなのか。

 魔力壁を突破できないのなら、心配は要らないな。


「驚いたな。首を切り裂いたと思ったのに」


 男がナイフを両手に持って佇んでいた。

 殺し屋だな。

 たぶん認識阻害だろう。

 俺はロープを鞭のように使った。

 男が消えて、再び首に衝撃がきた。


 ロープに当たらなかっただと。

 認識阻害ではないのか。

 転移か。

 だが男は見えない。

 俺は小麦粉を撒いた。

 小麦粉が落ちるまでに渦を巻いた。

 そして、首に衝撃が。


 分かったぞ。

 ベンケイにも取得させた俊足スキルだな。

 こいつはベンケイの手に余るだろう。

 ベンケイに待てと命じた。


「種は分かった。俊足スキルだろう」

「分かったから、どうした」


 声だけが聞こえた。

 俺はパチンコ玉をばらまいた。

 異世界ではこれのお世話になったから、地球でもアイテムボックスに常備している。


「くそっ」


 男が転がって壁にぶち当たった。

 チャンスだ。

 浮遊の靴を履き、男に迫る。

 男は焦ったのか立ち上がろうとして転がった。

 俺はトイレのすっぽんで男を打ちのめす。

 ふう、間抜けで良かった。

 すり足で来られたら危ないところだった。

 少し考えたらパチンコ玉の攻略なんて分かりそうなものだ。

 男をダンジョンの外に引きずって係員に渡した。


「もしもし、社長だが、少し遅くなる。急な来客があったんでな」


 社員に連絡して、ダンジョン攻略の再開だ。

 ベンケイは今、3階層にチャレンジ中。

 今日はどんな敵かな。


 3階層の部屋に入る。

 いたのは火炎の吐息を漏らす二足歩行の猿だった。

 火炎猿だな。


「よし、ベンケイやってみろ」


 ベンケイがステップを踏みながら火炎猿に近づく。

 火炎猿は火の玉を盛んに吐いた。

 着弾は全て床だ。

 ベンケイの遠距離対応は見事なもので、安心してみてられる。


 噛みつきにきた火炎猿を残像を残しかわして反撃。

 首筋に飛び掛かり仕留めた。


「ベンケイ待て。今度は俺がやる」


 リポップした火炎猿を前に盾を構えた。

 これはポリカーボネイト製ではなくミスリル製だ。

 前にプロテクターを燃やされたから、ミスリルの物に切り替えた。

 魔力通販ばんざいだ。


 ちなみにミスリルだが、地球の分析機械で調べたところ、銀だった。

 銀に魔力が溶け込むというか定着するとできるものらしい。

 地球では産出されていないが、今後は産出されるかもしれない。

 余剰魔力がどうなるか分からないからだ。


 構えた盾に火の玉が当たりまくるがなんのその。

 問題なく近づきメイスで一閃。

 火炎猿は魔石になった。


 それから、ベンケイにモンスターを狩らせ、切りの良い所で俺と選手交代。

 ラスボスを目指すぞと言う前にレベルチェックの魔力回路。


「おっ、ベンケイはレベル5か頑張ったな。よし、よし」


 ひとしきりベンケイを撫でてから、ラスボスを目指した。

 嫁召喚をしてラスボスに挑む。


 ラスボスは牙矢大猪だった。

 足はぬらぬらと光っている。

 何だろな。

 予想では酸だけど、もしかして油か。

 どっちにしろワイヤーロープ対策はしてきたって事だろう。


 俺は撃ち出される牙をメイスで叩き落としながら近づいた。

 牙をつかみひねって転がす。


 アルマが金属魔法で後ろ脚を拘束に掛かったが滑って無理だった。

 やっぱりな。

 じゃあ、こうしようか。


 俺は牙矢大猪の首にロープを巻き締め上げた。

 ジタバタするが段々と抵抗は弱まり、最後には魔石になった。

 次は首に油かな。

 そしたら、燃やすだけだが。


 そろそろ違うのともやってみたい。

 このパターンには飽きた。

 ノルマを終えダンジョンの外に出ると秋穂が待っていた。


「よう、親父が何か馬鹿な事をしでかしたか」

「いいえ、兄さんから手紙が来ました。裏社会を牛耳ってボスを目指すそうです。影の総理になると書いてありました」

「馬鹿な奴だな。救いようがない。俺の事は諦めたのか」

「こんな境遇になったのも叔父さんのせいらしいです」

「俺は火の粉を払っただけなんだかな」

「和解は無理なのですね」

「そうだな。あいつの尻を思いっ切り叩くのは俺の役目らしい」

「叔父さんは心配要らないようですね」


 秋穂と別れて、考えた。

 破滅を回避したら管理者が虎時とらときに呪いを掛けてくれないだろうか。

 他力本願は駄目だが、言うだけは無料だ。

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