第64話 おっさん、経験値を買う

 魔力通販で買い物をする。

 それを売る。

 魔力銀行で魔力を買う。

 その魔力で魔力通販する。


 このサイクルはすぐに思いついた。

 しかし、大抵の物は数を持ち込むと値段が下がる。

 美味しくなくなる。


 それに目立つ。

 特にドロップ品の売買は駄目だ。

 どこの品か説明ができない。

 植物なら未開の地から採って来たと言い訳が出来る。

 しばらくは様子見しようと思う。


 製薬会社との取引は絶望的になったのは痛かった。

 というか今だ訴えられていないのが、奇跡だ。

 御手洗みてらいさんには悪い事をしたと思う。


 仕方ないので魔力を計るのと水を出す魔力回路の特許を売り払った。

 回路を描くインクの材料は俺しか調達できないので、二束三文でも良かったが、合わせて3千万円ほどで売れた。


 それと思いついた事がある。

 稼いだ金で経験値を買うのだ。

 俺はレベルアップの経験値が常に固定されている。

 レベルが上がりまくっても常に同じだ。

 だから野生動物が変異したモンスターを生け捕りにしてもらってそれを買うのだ。

 そしてそれを殺して経験値を得る。

 田舎のモンスターも減るし俺も得をするし良い事尽くめだ。


 俺は青汁の販売所に張り紙した。


「へぇー、鋼毛鼠を買い取ってくれるのかい」

「ええ、生きたままですけどね」

「一匹1000円か。鋼毛鼠に食い破られない罠が1万円だから、10匹捕れば元がとれるな」

「期待してますよ」


 俺も罠をそこら中に仕掛けた。


  ◆◆◆


 翌朝、罠を掛けた所を巡ると大量だった。

 もっと前にこれをすればよかった。

 前は罠を買う金がなかったのだから仕方がない。


 大きい漬物樽に水を張りざぶんと罠ごと沈める。

 なんせレベル1だからな。

 罠の入口を開けて噛みつかれたりしたら、目も当てられない。


 何分か沈めると鋼毛鼠は動かなくなっていた。

 死体は解体屋にもって行く。

 皮は溶かすと屑鉄に身からは魔石が出る。

 すずめの涙ほどの金額なので、鋼毛鼠を捕る人はいない。


「ここで、鋼毛鼠を買い取ってくれるって本当かね」


 見ると罠一杯に鋼毛鼠が入っている。


「これはまた大量ですね。どうやったんです」

「芋をすりおろした餌を使ったんだ」

「なるほどね。10匹で1万円です」

「へへっ、儲かった。これで一杯酒が飲める」


 噂を聞きつけたのか近隣の家から次々に鋼毛鼠が運び込まれて、俺は畑の世話もできないほど忙しくなった。

 気がかりの殺し屋はやってこない。

 この間の襲撃が失敗したのが堪えているのかな。


  ◆◆◆


「やった、遂にレベル2になったぞ」


 退治した鋼毛鼠の数1万匹あまり。

 買い取った値段1千万。

 高いがこの作戦はいけるんじゃないか。

 だが、近隣の鋼毛鼠は底をついた。

 次に狙うのは小猿鬼だ。

 こいつらは生意気な事に二足歩行する。

 言葉らしき物も喋る。


 といっても人間の腰の辺りまでの身長しかない。

 元が日本猿だからな。


 道具を使う知能まである。

 だがこん棒程度だ。

 異世界のゴブリンとどっちが強いかと言ったらゴブリンだろう。


 1匹1万円の張り紙を出した。

 こいつらを捕まえるのにもっとも適した物はスタンガンだ。

 冒険者なら楽勝だ。


 俺の所には手足を縛られた小猿鬼が運び込まれるようになった。

 容赦なく漬物樽に沈める。


 千匹ぐらいでレベルアップしてくれると嬉しいのだが。

 廃業した農家の人に村の外から鋼毛鼠を運んでもらう仕事も頼んだ。

 レベルアップの速度がさらに加速した。

 よし、県内の鋼毛鼠を絶滅させよう。


 計算したところ小猿鬼では3千匹でレベルアップのようだ。

 3千万で1レベルアップはきつい。

 もっとも近隣に3千匹は生息していない。

 そして、魔力が増えて生産力が上がった青汁という名のポーションは大人気になった。

 現在、畑も追加で借りて栽培している。

 薬事法で訴えられても困るので成分分析に出したところ、違法な物質は検出されなかった。


「これ、青汁の無料サンプルです。良かったら飲んで下さい」


 俺はお盆にポーションの入った紙コップを乗せ、鋼毛鼠を売りに来た客一人一人に声を掛ける。


「悪いわね、貰うわ。あら、飲みやすいのね。苦味がなくてほのかに甘みもあるわ」


 ほのかに甘みがあるのは砂糖を少し入れたからだ。

 もっと苦ければジュースで割ってフルーツ青汁にした。


 新しい木の香りのする、一坪ぐらいの店を開ける。


「早く青汁を売っておくれ。神経痛にはこれが一番だよ」

「嬉しいね。青汁もう1本サービスでつけるから近所の人に飲ませてあげて」


 俺は無理に愛想笑いを作り客になるべくやさしげに声を掛けた。


「わたしゃ、サンプルの青汁飲んでから凄く調子が良いだよ」


 お婆さんがしわしわの顔で笑って言った。

 これでポーションから離れられない人を一人、確保だ。


 最初の一日は5人しか、お客さんはこなかった。

 一日経つごとにお客さんは増え、今では列が出来るまでに。

 一日、2百人ぐらいは平均して来ている。

 一日、40万の売り上げだ。

 材料費はほとんど無料みたいなものなので、ぼったくりもいいところだ。


 畑の栽培は人に任せるようになった。

 ポーションの販売もだ。

 俺がするのはポーションの制作とモンスターの屠殺。

 レベルはついに5まで上がり、魔力壁のスキルも覚えた。

 だが、金が底をつきそうだ。

 そろそろ次のステップに行こう。

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