第33話 おっさん、迷う

 道案内に先導されアジトを目指す。


「お前、よく夜の樹海で迷わないな」

「方向察知というスキルを盗賊団の人間は殆んど持っていやす。樹海で三年も暮らすと覚えるんでさぁ」


 道案内に連れられてアジトに到着したのは空が白くなり始めた頃だった。


「お返しに来てやったぞ!!」


 俺はアジトの前で叫んだ。


 盗賊が続々と出てくる。


「野郎、裏切りやがったな。みんな、死ぬ気で行くぞ!」


 盗賊の頭が叫ぶ。


「みんな、下がってろ」


 俺は皆を下がらせ、一人メイスを抜き盗賊を叩いて回る。

 盗賊は一人残らず倒せたと思う。


 盗賊の遺体と宝を全部アイテムボックスに入れ、道案内と樹海を出るために歩く。


 かなり歩いたと思った時、突然、豹のモンスターが木から飛び降り道案内の首に噛み付いた。

 あっと言う間の出来事だ。


 慌ててメイスを抜いてモンスターを一撃で殴り殺す。

 道案内の遺体に手を合わせてから収納した。


「秘策のコンパスを買おう」


 魔力通販を使いコンパスを買う。

 針はグルグル回る事もなく、ぴったっと北を指す。

 良かった富士の樹海みたいに磁場が狂っていたら危ない所だった。


「今までの進行方向が東だから、東に進もう」


 良い機会だったので人数分、コンパスを買って使い方を説明する。


「これ、便利やないやろか」


 アルマが感心しきりといった様子で言った。


「樹海から出れたら売り出そう」


 皆でコンパスをチラチラ見ながら進む。


「そろそろ、来た時に通った道に出そうなんだけど?」


 エリナが心配そうな目つきをして言う。


 俺も不安になってきた。このまま一生樹海から出れないなんて事はないよな。


「よし、ここで第二の秘策、ドローンだ。何かに使えないかずっと前に準備した」


 ドローンを飛ばし、モニターでカメラの映像を見る。

 駄目だ木ばっかりで何も分からない。

 森を舐めてたな。

 魔力通販があるから飢え死にはしないけど方向察知スキルを得る為に三年は長すぎる。


 同じ所をグルグル回っているように思えた。

 そう思うと木がみんな同じ形に見える。


「うちはこのまま出れなくともええですわ。ご主人様が居れば」


 俺の不安を察知したのかアルマが俺に話し掛ける。


「私は嫌だなお母さんに会えなくなるのは」


 エリナがかなりネガティブだ。

 対称的にモニカは平静だ。


「姉、平常心」


「帰ったら、魔力通販でスイーツ食い比べをしよう」

「甘味歓迎」


「よし、行こう」


 ドローンを回収し、黙々と先を急ぐ。

 やばい日が暮れてきた。


 薪を出して焚き火をする。

 テントを組み立てご飯を食べていたところ、人が近寄って来た。


「あんたら、盗賊かね。煙が見えたから来たよ。こんな所で野営しているとモンスターに食われちまうぞ」


 おっさんの狩人が油断なく弓を構えながら話しかけてきた。


「冒険者だ。盗賊討伐の帰りだよ。道に迷って難儀している」


 俺は両手を上げながら言う。

 俺の様子を見て皆も両手を上げる。

 矢ぐらい魔力壁で大丈夫だが、この狩人と誤って争いにならないように気をつけた。

 せっかくの道案内候補、失いたくはない。


「なら、ギルドカードを出して、放れ」


 俺は狩人の言葉にしたがってギルドカードを投げた。

 狩人は用心しながらギルドカードを拾い確かめる。


「あんた、Sランクなんだな。三人も女奴隷を連れてるんだから、当然強いのだろうな。疑って悪かった、手を下げても良いぞ」


 狩人の指示に従って村に行く。

 村が見えた時はホッとした。

 目に涙が滲んだくらいだ。


  ◆◆◆


 街に帰りギルドに行き、報告書をエティに出す。

 エティはざっと目を通し。


「ムニさん。大変でしたね」

「ああ、今回は俺も駄目かと思った。まあ死なないから、いつかは帰れるんだけど」


 エティは報告書に付けてあったコンパスを見る。


「これがコンパスですか? 便利ですよね。多分ギルドでも採用されると思います」

「ああ、よろしく」


 今回の反省はレベルのゴリ押しで大抵なんとかなるから、今回も上手くいくと思ってたことだ。

 盗賊は楽勝だったが、樹海には参ったぜ。

 何かビーコンみたいな物が魔力通販で出せれば良かったんだが、そんな物をチェックした記憶は無い。

 かと言って電波を出す機械は自作出来ない。

 方向察知のスキルオーブは絶対手に入れよう。


「ムニさん、コンパスも凄いですが、この前の魔石から吸い取る魔道具、魔法陣の組み合わせの数は尋常じゃないですね。三十を超えてます」

「普通だと思ったがな。説明した時は、誰も驚いてなかったぞ」


「Sランクだから、それぐらい出来て当たり前だと思われたのでは」

「そうか、俺は魔道具作りの才能があったんだな」


 電気回路に比べればなんてことの無い部品数だけど、この世界では異常なのか。


「それと、導線の工夫はよく出来ています。魔石の粉を使ったインクを染み込ませた糸に、塗料を上から塗って立体的に魔法陣が組めるようにしたんですね。どこからこんな発想が」


 電気回路では被覆線なんて当たり前なんだがな。


「まあなんだ。なんとなく思いついた」

「Sランクになる人は常人とは発想が違うのですね」


 魔石の話で思い出した。

 そうだ、上乗せだ。

 魔石を使った上乗せで限度額が無いのって、俺が願ったからだ。

 限度額のないブラックカードみたいな物が欲しいって。

 叶っているな。

 他の夢は追々思い出せばいいか。


 次はそろそろ、封印ダンジョンを攻略したいな。

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