第7話

 質問しようとする僕を制するように、彼女は言いました。

「ここは夢の園です。あの夢織り人の館にこの園の主がいるのです。」

彼女は上の方の灰色の館を指さしました。

 「ここで私は、新しくこの世に生まれでる子供達のために、最初の夢を織っているのです。それは、生きることの喜びと、愛ヘの憧れです。

 みんな、生きていくにしたがって、一人一人思い思いに自分の夢を羽織っていきます。そして現実の中で夢がこわれるたびに、羽織った夢も一枚ずつ破れていくのです。普通なら、破れても破れても、自分でまた新しい夢を羽織り直すので、夢がなくなることはありません。私が着せかけてあげた最後の夢まで破れてしまうことは、めったにないのです。でも、あなたはそれさえなくしてしまったのですね。だから、この夢の園が、灰色の冬の景色にみえたのです。あなたが羽織っているのが、その夢です。さあ、これをもって早くお帰りなさい。」

 彼女は僕の背中をおしやりました。

 「主が目をさましてしまいます。さあ、早く帰るのです。ここに来ることのできるのは、最後の夢までなくしてしまった者だけなのです。早くしないと、あなたもつかまってしまいます。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る