ビックリカエルとボーンアント

「さすがに俺が受けた依頼だから同行しないはまずいよな」


 と町を出たところでケントはつぶやいて、鳥の姿に戻ったシロの背に乗る。


「どこからいきますか?」


「好きなところから……この場合はお前が食べたいモンスターの居場所からでいいんじゃないか」


 シロの問いに彼は深く考えずに答えた。


 モンスターの討伐と言うよりは彼女の食事タイムになるなら、彼女が決めていいだろうと思ったのだ。


「じゃあビックリガエルからいきますね」


 シロは羽を動かして空に舞い上がると、東の方向へと進み急降下する。

 ちょうど大きな青いカエルが、歩いていた女性に悲鳴を上げさせたところだった。


 女性がしりもちをついて、落とした荷物にカエルが舌を伸ばしたところをシロが襲い掛かる。


「ちゃんと女性に背を向けろよ」


 乗った状態のケントが指示を出したのは、いくら自分に被害を与えたカエルといえど、捕食されるところを女性は見たくないだろうと配慮したからだ。


 シロは言いつけ通り女性に背を向けてカエルを丸のみにする。


「大丈夫ですか?」


 その間ケントは彼女から降りて、女性に手を差し伸べて助け起こす。


「あ、ありがとうございます」


 まだ若い金髪の女性だったが、腰を抜かしたまま青い瞳をシロにやる。


「あのあなたとあの鳥は……?」


「私のシモベだからご安心ください」


 ケントは優しく微笑んだ。


「え、でも、あれ、ホワイトバードですよね……」


 女性は息を飲み、驚愕を新たにする。


「ええ、まあ」


 ケントはうなずきながらしまったと思う。


(ホワイトバードは伝説だから、シロを連れて誰かを助けたらこういう反応になるんだな)


 そこまで考えておくべきだったと自嘲する。

 もっとも、彼にとってデメリットがあるわけではない。


 むしろシロに乗って積極的に人助けをして名前を売れば、メリットとなるかもしれなかった。


「マスター、終わりました」


 捕食を終えたシロが報告する。


「ああ。少し待っていろ」


 とケントは答えてから女性に問いかけた。


「一人で歩けそうですか?」


「ええ。もう大丈夫です。ありがとうございます」


 女性が元気よく答えたので、彼はうなずいて再びシロにまたがる。


「じゃあ次の場所に行こう」


「ボーンアントですね」


 とケントにシロは言って舞い上がった。


「まさか今の人、ホワイトライダー?」


 伝説と言われている存在を、女性は思い出した。


 

 ケントとシロの主従はさらに右手側に進み、ボーンアントの巣を目指す。


「ビックリガエルってなんでヒューマンを驚かすんだ?」


 空の上でケントが疑問をつぶやくと、シロが答える。


「食べ物をヒューマンを狙い、それを奪うらしいです」


「カエルなのにヒューマンの食べ物をね……そういうモンスターか」


 ケントは無理やり自分を納得させた。


「参ります」


 シロは木の陰にあるボーンアントの巣を見つけて急降下する。

 ボーンアントは木の根元に生き物の骨を使って巣を建築するタイプのアリだ。


「外に作るなら狙われやすい気がするが」


「モンスターの骨に魔力が宿り、それを天敵よけにするみたいですよ。私には関係ありませんが」


 ケントの疑問に答えた後、シロは巣に顔を突っ込む。

 そして忙しく首から上を動かしている。


 ケントはぼんやり空を見上げていたが、一方的な展開になっているのは音からも想像ができた。


「腹がいっぱいになったりしたか?」


 やがてシロが顔をあげたところで彼は問いかける。


「いえ、まだまだ入るので最後にホーンラットといきたいですね」


 彼女は機嫌よさそうに答えた。


 声や人の姿の可憐さからは想像もできないが、彼女は立派に猛禽類だと言えそうである。

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