第106話 ※性的な表現あり。

 外に出ると、日が落ち始めていた。あまり帰宅が遅くなりすぎてしまうと、千鶴が不平不満を言うのが目に見えていたので、恭弥は後1、2箇所回ったら帰ろうと言った。文月も元々そのつもりだったのか、ダーツバーを出ると駐車場に停めてある車を回収する予定だと答えた。


 二人で観光がてら街並みを楽しみながら駐車場へと向かった。店の中に入る事はせず、本当に眺めるだけだったので15分もすれば駐車場に到着した。


「次はどこに行くんだ?」

 車に乗り込んだ恭弥がシートベルトを締めながら尋ねる。すると、


「それは着いてのお楽しみです」

 と、文月にしては珍しく答えを先延ばしにされてしまった。すっぽんの件があったので、なんとなく彼女がどこに行こうとしているのか予想はついたが、可愛らしくウィンクしながらそう言われてしまっては追求する事は出来なかった。


(すげームラムラしてるからヤりたい気持ちはあるけど……光輝さんの顔がチラつくから文月は手を出しづらいんだよなあ……何かの間違いで健全な店行かないかな……)


 果たしてその思いとは裏腹に、恭弥の予想は外れる事はなかった。


 今二人の眼前にはお城のような外観を持つ宿泊施設、いわゆるラブホテルがあった。


「オシロミタイナトコダナー」

 などと現実逃避をしている場合ではない。恭弥は頭を振って真剣な表情を繕った。そして、文月に「俺でいいのか?」と問うた。


「はい。むしろ、恭弥様がいいんです。ここまで来たのだから、断らないですよね……?」


 自信なさげにそう問い返す文月に、恭弥も覚悟を決めたようだった。頷き、車を降りる二人。不安げに揺れている文月の左手を握った恭弥は、彼女を伴ってホテルへと入っていった。


 せっかくの初体験なのだからせめて良い思い出を作ってあげたい。そう思った恭弥は最上級の部屋を取った。オーシャンビューの展望風呂付きの部屋だ。この部屋であれば、少なくともみすぼらしいという事はないだろう。


 エレベーターで最上階である7階に到着するまでの間も、二人はずっと手を握ったままだった。緊張しているのか、しっとりと文月の手が汗ばんでいる。恭弥はそれがなんだか酷く愛おしくて、彼女にバレないようにひっそりと微笑んだ。


 ランプが点滅している部屋に入室すると、そこには外界から隔絶された空間が広がっていた。


 室内はアジアンテイストで構築されており、朱色の壁紙と窓の向こうに薄っすらと見える海のコントラストが得も言われぬ特別な一時を演出していた。


 部屋の奥にはここがそういう目的で利用されるための部屋である事を強く主張するようにキングサイズのベッドが鎮座していた。


「なかなか良い部屋みたいで安心した。文月をがっかりさせたくなかったからな」


「私のためにこんな部屋を取っていただいて……本当にありがとうございます」


「いーっていーって、気にすんな。支払いしてるから先に準備しててくれ」


「は、はいっ」


 いかにも緊張していますといった様子でパタパタと浴室へと向かっていく文月を見送ってから、玄関の自動精算機で料金の支払いをする。手持ちにはまだ余裕があったが、この後の事を考えるとあまり使いたくなかったので恭弥はカードで支払う事にした。


 財布から無造作に取り出したクレジットカードは黒く反射していた。いわゆるブラックカードだ。本来彼の年齢では持つ事など許されないが、退魔師という身分がそれを可能にしていた。これ一枚で安いものならマンションすら一括で購入する事が出来る。


 支払いを終えた恭弥は、ソファに座って文月が準備を終えるのを待っていた。浴槽にお湯を張るがてら、髪型を整えたり髪を結んだりしているのだろう。


「女の子をしっかり待てるのは良い男の条件ってね」

 とは言ったものの、やはりただ待っているのは暇だったので、意味もなく冷蔵庫を開けて中身を確認してみたり窓の外の景色眺めてみたりと、室内をチョロチョロしていた。


 やがて準備を終えたらしい文月が「お待たせしました」とトイレから出てきた。彼女は長い髪をポニーテールで一つに結い上げていた。普段隠されているうなじが露わになり、そこはかとない色気を醸し出していた。


「その髪型も可愛いね。お湯が貯まるまでちょっと話そうか」


「は、はい……」


 そう言って恭弥の隣に腰を下ろした文月。やはり緊張しているのだろう、小さな手をぎゅっと握って何かに耐えるかのような姿勢を見せている。だが同時に、絶対に行為に及ぶという不退転の決意のようなものも感じられた。それを察した恭弥は可能な限り彼女の緊張をほぐしてあげようと楽しい話題を提供する事にした。


「展望風呂どんな感じだった? そこの窓から見える海が結構綺麗だからさ、風呂に入りながら見たらもっと綺麗に映るんだろうなあ」


「え、と……すみません、余裕がなくてそこまで見ていませんでした」


「ははっ、文月でもそんな余裕なくなる事あるんだな」


「私だって、緊張する時は緊張するんですよ? 一生に一度しかない初めてなんですから」

 怒ったように言う文月の様子に、手応えを感じた恭弥は更に踏み込む。


「こんな美人さんの初めての相手ってのは光栄だな」


「天上院の家で房中術の練習はしていましたが、本番は本当の本当に初めてなんです。だから……もし下手でも許してくださいね? 私、頑張りますから」


 潤んだ瞳で上目遣い気味にそう言う文月の姿は、おそらく狙ってのものではないのだろうが、男の本能を強烈にくすぐった。


「……今のはグラっときた。なぜだかさっきからすげームラムラしてたんだよね。だからあんまり優しく出来ないかも。先に謝っとく」


「いえ、私は恭弥様が気持ちよくなっていただければそれが一番嬉しいですから……。それに、ムラムラしているのは私が原因なんです」


「文月が? なんかしたのか?」


「実はお昼の生き血に媚薬を混ぜたんです」


「おい、マジかよ……。道理でムラムラしてた訳だ。おかしいと思ったんだ。すっぽん食ったからってあんなにすぐ元気になる訳がない。文月がそんな事をする子だなんて思わなかった……」


「恭弥様もいけないんですよ? 他の方にはすぐ手を出すのに、私にはいつまで経っても手を出していただけないから……」


「いやー、光輝さんに悪いかなあって……」


「もう! 兄は関係ありませんよ。いつもアピールしているのに、恭弥様、気づいてて知らないふりをしてらっしゃいましたよね?」


「俺としては文月を大切に思っていたからこそ手は出さなかったんだけどなあ」


「本当に、しょうがない方ですね。いいですよ、天上院の技で骨抜きにして差し上げます。もう私以外としたくないって思わせます」


「あれー? なんか性格変わってません、文月さん?」


「気のせいです。ほら、もうお湯も貯まった頃でしょうし二人で入りましょう」


「さっきまでの借りてきた猫みたいな文月はどこに行ったんだ……」


「恭弥様のおかげですっかり緊張がほぐれちゃいました」


「ったく、なんだかなあ……」


 口ではそう言いつつも、文月の顔に笑みが戻った事が恭弥は嬉しかった。


 上着から始まって下を脱ぐ。お互いに下着だけの姿になると雰囲気が出来上がってきた。恭弥は文月に断わって優しくブラを脱がせた。ツンと上向いた形のよい乳房が露わになる。


 次いで、恭弥はパンツの両端に手をかけ、軽く引っ張って下ろしていく。ふくらはぎの地点まで下ろすと、脱がしやすいように文月が片足を上げる。


 これで隠すところがなくなった。完全に生まれたままの姿となった文月は恥ずかしそうに手で恥部を隠すが、恭弥がそれを許さなかった。自身のパンツを脱がせるよう文月に命令したからだ。


 仁王立ちする恭弥に隷属するかのように跪いた文月は、僅かに顔を背けながらパンツをずり下ろしていく。だが、勃起した怒張途中で引っかかってしまい、スムーズに脱がせる事が出来なかった。


 初々しい彼女の一挙手一投足が可愛らしく、恭弥はつい意地悪をしたくなった。


「ちゃんと見ながらじゃないと脱がせられないぞ」


「は、はい……」


 スウっと小さく息を吸った文月は真正面から恭弥の「ソレ」と向き合った。そして、しっかりとパンツのヒモを伸ばしきってパンツを脱がせた。


 文月が驚きから小さく息を飲む。膝をついていたせいでパンツが脱げると同時に、至近距離で怒張が飛び込んできたからだ。


「お、大きい、のですね……」


「他人と比べた事ないから知らないけど、これがこれから文月の中に入るんだぞ」


「頑張ります……」


 再び借りてきた猫モードになってしまった文月を伴って展望風呂へと向かう。シャワーで軽く身体を流した二人は浴槽へと身体を沈めた。


「天上院の房中術で俺を骨抜きにするんじゃなかったのか?」


 すっかり黙りこくって俯くばかりになってしまった文月に、恭弥の中の責めっ気がムクムクと顔を出していた。


「そ、そうでしたね……では、ご奉仕させていただきます」


 水面から怒張だけを出す姿勢を取った恭弥は、文月がどんな風に奉仕するのか楽しみで仕方なかった。


 ペタペタと、まるで形を確かめるように恭弥の分身に優しく触れた文月は、やがて根本からその赤くヌメる舌を這わせていった。


 レロレロと、あるいはペロペロと、緩急つけた奉仕はなるほど確かに技といって差し支えなかった。達しそうで達しない絶妙な甘い刺激を恭弥に与え続ける。


「いい感じだ。上手いぞ」


「あひがほうごはいます」


 竿を咥えたまま文月が喋った。「ありがとうございます」と言ったのだろうが、快感というのは得てして想定外のところからくるものである。ここまで甘い刺激に慣れていた恭弥に、唐突に訪れた唇による柔らかな咬合は思わず声を上げてしまうものだった。


 しまった、と思った時にはもう遅かった。唇による甘噛みが効果的である事を理解した文月はあらゆる方向をはみはみし始めたのだ。


 それまで余裕そうな態度を取っていた恭弥が、なんとしても気持ちよくなってほしいと考える文月の思いが勝った瞬間だった。


 それからはもう文月のやりたい放題だった。亀頭責めに丸呑み、唇で輪っかを作って上下運動と、およそ口で出来る事の全てをやったのではないかというほどだった。だがそれでも、絶妙なペース配分で生かさず殺さずをやってくるのだ。恭弥としてはたまったものではない。


「イキたいですか……?」


 もう言葉を発する余裕もなかった。切なげな表情で恭弥が頷いた事を確認すると、文月は今までとは打って変わって激しく責め立ててきた。


 当然微塵も耐える事など出来ず、恭弥は一瞬の内に果てた。文月の口内におびただしい量の精が吐き出される。


「ん……! ん…………ん」


 無限にも思われた長い吐精が終わると、文月は音が鳴るほどに怒張を吸い上げ、尿道に残った僅かな精すらも吸い上げた。そして、ようやく恭弥の分身を魔性の口から開放すると、口の中に溜めた白濁液をわざわざ恭弥に見せてからゴクリと飲み込んだ。


「死ぬほど気持ちよかった……」


「そう言っていただけると頑張ったかいがあります」


 そう微笑む彼女の笑みは、なぜだか捕食者のものに見えてならなかった。

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