第4話 正月太りとデリカシー

太った?こんなもんか?

長女は鏡に映る自身の腹回りを観察していた。

正月。食っちゃ寝食っちゃ寝の生活。好きなおせちの具は栗きんとんと黒豆。そればかり食べ、父親に怒られた。起きている間はお菓子など何かしらを食べ続け、今思い返しても酷い生活だった。

でも、それを考えるとあまり太ってないようにも感じる。


長女は、思い切って弟に尋ねた。

「私、太った?」


長男は悩んだ。この場合の正しい返答はなにか。

確かに、姉の顔は丸くなった。しかし、太った。と率直に言って、生き延びる自信が無い。だが、細いよ。と、ごまをするマネをするのも癪だ。


「そこまでじゃ無いんじゃない?」

これが長男が考えに考えて出した答えだ。

「そっか!なら、いいや。」

どうやら、正解だったようだ。

長男は息をそっとはいた。




ある日、母親と長女が暖房の前で暖まっていると、母親が急に長女の腹回りを触りながら言った。

「大型犬みたい。小さい頃から飼いたかったんよね。」

長女は問うた。

「どこが?」



「腰の肉付きかな。」



長女は察した。自分の肉づきを。

そして、母のデリカシーのなさと弟の気づかいを。

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