第111話 皓に潜みし《ナニカ》
「確かにこの男は強い。しかし、只人が簡単に応龍が取り込める訳がなかろうて……」
その女の老獪な声はまだ続く。
「何者だ……!」
様子のおかしい皓に《ハオ》にフェイが剣を突き付けるのだが、
「くっくっく……。あえてこやつに応龍を取り込ませてやったのじゃ」
と、苦しむ皓から抜けて出て現れたのは鮮やかな長い黒髪をたなびかせ、豪奢な正装を見に纏った垂髪の少女だ。
その見た目から受ける年齢はアイシャや京に近い。
「ぐ……。クソッ……」
皓はその場に倒れる。幸い、限界を迎えて気絶しただけのようだったが。
「おい、女。お前は、いったい何者だ?」
起き上がったアーサーが現れた少女を睨みつけると、少女は大仰に肩をすくめ、笑い飛ばす。
「鞘の加護を失った痴れ者が生意気にも何か言うておるわ」
「しッ、質問に答えろ……!」
アーサ―が気力を振り絞りが少女に銃を突き付けるが、これだけでも体力を消耗させられている。
少女が放つ気迫に気おされているのだ。
「おい、アーサー、馬鹿を言ってないで逃げろ! 俺の予想が正しけりゃその娘は――」
太公望が怒鳴る。太公望はこの少女が何者であるかわかっているようだ。
「お前が太公望かえ? 歴史書で知っているより老けてるのう……」
少女は太公望に視線を向けると、ニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべている。
「おい、太公望。この女は何者なんだ?」
「恐らくだが、こいつは
アーサーに尋ねられた太公望が名前を口にしようとしたが、少女は待てという風に手でで制す。
「
少女は神龍の一体だと名乗る。九は永遠を意味する
「ちッ……。話には聞いていたが、まさか
太公望は舌打ち。太公望廟で語っていた謎多き龍だったのだが、それが邪なる邪龍だったのが厄介だった。
「ヒトの価値観と尺度で妾を推し図られてものう。妾はかつての大地の覇者の一人ぞ?」
「恐竜のことをいってるのか? あれは巨大な爬虫類だろ? お前はただの小娘だろうが」
大地の覇者という言葉にアーサーは思い当たるところがあった。太公望が語っていた大地の覇者であった恐竜が思い出させるが、この少女とは似ても似つかない存在ではある。
「鞘の加護を過信した痴れ者め……。神龍はお前たちのいう恐竜が進化した種。ゆえに神と龍の名を冠しておる」
九龍が嘲笑を向けた。
「九龍! 何が目的かは知らんが、再び大地に眠ってもらうぞッ」
太公望が構え拳を握る。生者に取り憑き、人に仇なす者は斃さねばならない敵だ。
「やれやれ、軍師であるのに短気な奴じゃのう……」
「何を企んでいるかは知らんが――」
九龍は肩をすくめ大きく溜息をするのだが、太公望は姿を消している。
「その
太公望の縮地だ。それは特殊な足運びにより、相手の視覚を混乱させる。
「行くぜ、
熊猫拳がパンダの荒ぶる拳ならば、熊猫蹴は文字通り大岩を砕かんとするパンダの蹴りだ。
太公望が修めている古代の極陽の功夫、それが九龍に迫る――。
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