第94話 降伏
「……霧が?」
「はい」
クロウリーはブレットから聞いた報告を聞いて頭を抱えさせられていた。
不帰の森を漂っていた霧が薄くなっているというのだ。
「確認します」
手に持った機械のスイッチを入れる。これも古代遺跡から発掘した気象を把握できるものらしい。
クロウリーがいた西洋の国ではフェイが発掘し利用している超兵器よりも、戦場を把握しやする機器、近代兵器に近い構造をした兵器が発掘される傾向にあるようだ。
当然、戦術における思想の違いがここにも表れる。これは兵器の性能に左右されすぎない戦術をとれるということの証左だ。
「……確かに霧は薄くなっていますね。原因が排除された?」
計器に表示された周辺の水蒸気量が徐々に減り続けていた。
「あと、ソロネが降伏したようですね」
「なんと……」
召喚した召喚獣の様子は召喚者が知ることが可能だ。ソロネが降伏したのはすぐに伝わった。
ブレットは肩を落とす。ソロネたちは空戦に乏しいこの時代においてまさに強力な切り札だ。しかし――。
「皆、優しい性根ですからね」
クロウリーはソロネが降伏した理由を察し、慮る。それが一番の問題だったからだ。
ソロネを含め、あくまで武力を用いるのは異能を悪用する異能者を止めるためだ。それはソロネが指揮していた天使も悪魔も変わらない。
「……」
当然、それはクロウリーとて同じだ。
「異能者である皆を守るためと思っていましたが……。ここが潮時でしょうね」
善戦はしているし、偽装魔術を用いた集団戦の練度も高い。しかし相手は物量で勝っているし、哪吒を斃したフェイたちがいる。
ゆえに選択は――。
「降伏しましょう」
降伏――、その二文字の決断を下すしかなかった。あくまで安住の地を得る為だ、命を失うわけにはいかないし、
「わかりました。兵に伝えます。降伏する、と」
と、ブレットは通信機を取り出し、兵士たちに伝えたのだが、
「降伏か、意外と大したことなかったんだね」
「!」
背後から声がしたのを聞き、クロウリーは身構える。
「やァ」
手を上げて卑下た笑みを浮かべるアーサーだった。なぜか腰に剣の鞘を付けている。剣を用いないはずだ、それが奇妙ではあったが、今はそんな場合ではない。
「本当に人を見る目がないですよね。お互いに……」
クロウリーも皮肉を飛ばすのが精いっぱいだ。
脂汗がにじみ出るのを感じていた。クロウリーもまた只人ではないが、どうにもこのアーサーという人物
「我々をここで殺すのか?」
「まさか」
ブレットが警戒し、サイドアームとして携帯している拳銃を構えるのだが、アーサーはフッと笑い。
「まァ、時間稼ぎにはなったから。問題はないよ」
「最初から我々を捨て駒として使うつもりだったのか?」
ブレットが引き金に手を掛ける、どうにか理性で押しとどめているといった状況だ。
「僕たちの目的は人の再定義だからね。そのための礎になってもらうだけさ」
「やはりお互い、人を見る目がなかったですね」
と、アーサーがそう言った瞬間、クロウリーは拳銃を取り出し、その引き金を引いた。
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