第三章 真実を知る者、《太公望》

第55話 師弟、都へと到る

 京の偽者騒動や錬金術師アルケミストたちに動きがあった頃、京一行は太公望廟に向かう前に準備を整える必要があり、一行は時間をかけ都に向かっていた。

「すげェ……」

 アイシャが街並みを見るなり声を上げる。京が世話になっている街とは比べ物にならないほど都はにぎわっていた。

 その賑わいは大規模な戦役を経て疲弊したとは思えないほどだ、前皇帝である龍ならびに現皇帝フェイの手腕が優れている証左だといえる。

「異常はありません、サーッ!」

「見廻りご苦労。そのまま巡回を続けてほしい」

 巡回をしている兵士がフェイを見て立ち止まり敬礼をするとフェイもそれに合わせるように敬礼を還す。

「はッ、ありがたききお言葉! それでは巡回に戻りますッ!」

 と、再び兵士は巡回に戻っていった。定期的な巡回からも治安の高さもうかがえる。

「さー? 陛下じゃなくて?」

 京が聞いたことのない呼び方にと首を傾げる。

「サーというのは西洋の軍隊では上官を指す言葉だ。今はフェイが帝と軍の総司令兼ねているからな」

 陣が説明してくれた。フェイは軍に入ると西洋式の導入を推し進める改革を行ったという。

 フェイが時の帝の嫡子であったのが大きかったが、平和主義者だった龍も国に巣食う錬金術師アルケミストたちの存在を危惧していたという事だ。

「なるほどね……」

「そういえば、ババアの部屋ってさ残ってんの?」

 京が顎に手を当て、この国の状況を思っていたのだが、アイシャがふと

「貴様ッ、陛下に何て口をッ!」

「落ち着くんだ陣。私は気にしていない」

 陣が怒鳴るのだが、フェイが肩を叩いて諫めた。とはいえ仮にも帝相手に無礼なのは問題ではあるが。

「ごめんなさい」

「いや、叔母上も皇族だ。気にしないでほしい。それにアイシャは叔母上の身内のようなものだからな」

 京はフェイに平謝り、師として責任は感じてるのだろう。フェイはフッと笑っていたが。

「質問の答えだが、叔母上の部屋は残してある、父の部屋も……な」

 そういったフェイの顔が曇った。父である時の帝は戦役を引き起こした重罪人なのだから無理もないかもしれない。

「ババア。どんな生活をしてたか、ちょっと気になってさ」

「なるほどな……。私も同じだった」

 フェイがアイシャの頭を撫でる。フェイが軍に入ったのも己の父のルーツをを知るためだったからだ。

 似ていると思ったのだろう。

「わわッ、急に触んなッ!」

 手を弾いてしまうが、不思議と嫌悪感はなかったが。

「フェイ。さすがにいきなり若い娘の頭を撫でるのは不味いだろう……」

 流石の陣もフェイの擁護に回れなかった。

「確かに礼を欠いていたな……。すまなかった」

「おぉ、初々しいわねェ」

 頭を掻くフェイを見て京は微笑んでいた、いつもの京らしさが戻っているようだ。


「こんのッ……、クソババアッ!」


「あぎゃ~!」

 顔を真っ赤にしたアイシャが油断した急に一撃を食らわせると、京が思わず叫んだ。

 無論、京の腕前からしてわざとではあったたが。

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