第44話 緑鬼の正体
「……」
龍脈の供給が立たれ、京によって絶命させられた緑鬼の皮膚の色が変化する。
「たべたい……肉を……お腹、空いた……。何も食べてない……、あ……」
「に……、人間!?」
緑鬼の変化にアイシャが思わず叫ぶ。
飢えでやせ細り、目は血走っていたが、それは確かに人間だった。
「……予想はしてたけど。本当に人に龍脈を注ぎ込むなんてえげつないわね……」
倒れている緑鬼だったヒトの最期を看取った京は顔を顰めていた。
「……。これは、日誌のようだな」
陣は二人同様にこの施設のおぞましさに怒りを覚えていたが、己の使命は忘れてはいない。寒村における調査および祟神の討伐がそもそもの目的だ。
「……これは」
しかし、内容は軍である陣ですら、感情的になってしまうモノだった。
「――この村は祟神を恐れており定期的に村民を生贄にしているようだ。都に近い土地ながらやせ細った土地は満足に都への税も払えない。
調べてみれば、その祟神とやらははたいしたことはなかった」
日誌を読み上げる陣の顔がますます険しくなる。
「――祟神の正体は飢えによりウェンディゴと化した人間だ」
「うぇんでぃご……? なんだよそれ」
アイシャが陣に尋ねる。聞きなれない西洋の言葉がまた出てきたからだ。
「ウェンディゴというのは妖怪や精霊の一種だとされている妖怪でな。だが、実際は栄養失調により思考が鈍化した人間なのだ。どうやらこの村の祟神とやらは元は人間だったようだな」
「嘘だろ、じゃあ行商人から聞いた人食い妖怪って、コイツかよ……」
行商人から聞いた話を思い起こす。それが異常な進化を遂げたというわけだ。
「この大陸にいる妖怪がそうではないと思うが、コイツはその一種だと考えていいかもしれん。……続きを読むぞ」
陣は日誌を読み進める。
「この村は我々の拠点にするには都合が良かった。ラボとして使える古代文明の遺跡も存在し、村はただの飢えた人間を異常に恐れている。人間を見捨てた事が都に露見するのを恐れているのだろう」
村民たちを脅迫し自分たちの研究拠点にしていた集団がいるということだ。
「ある日、研究員の一人が面白い発案をした。熊だけでなく、この飢えたウェンディゴにレイラインを注ぎ込み、本物の祟神を造りだしてやろうと」
人を怪物とさせるとうのは狂気としか言いようのない発想だった。
「しかし、奴らは村長が軍に依頼したのは知らなかったようだな。だから突然やってきた我々に対応できなかった」
村民たちにも罪の意識はあったということだろう。
「……陣さん」
京が陣に視線を向ける。
「うむ、この村を脅迫していた集団が何者なのかを知る必要があるし。この村もこの国も抱えていた闇に向き合わねばなるまい……」
「村に帰りましょう」
三人の足取りは重かったが、まず村に向かわねばならない。
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