第31話 一難去って、諍《イサカ》いあり
「座ったままで失礼。老師の京殿ですな、お初にお目にかかります。私は
「こちらこそ、初めまして。
陣は頭を下げると、京は手を合わせて挨拶するのだが、疑問が出てきた。訊ねる。
「現皇帝である
「フェイ皇帝? 現在の帝は今でも兄……。いえ、
京が言う
平和外交を推し進めるきらいがあり、時の帝と対立したのはそれが原因だ。
――でも兄上は、絡繰兵の技術を嫌ってたんだけど。
そして未知の技術への恐れも強かった男でもあった。京には調査部隊設立の許可を出したことが信じられない。
「……。老師殿、別に皇族である事を隠す必要はないのではないですか? 軍の者は皆、老師殿の事を知っていますよ?」
頼が京に嫌味を含んだように言う。何を言いたいのかは予想がついていた。
「頼ッ!」
陣が咎めるのだが、頼は意に介さず、続ける。
「いいえ、言わせてください。妲己から逃げたせいで未だにこの国には薄気味悪い絡繰がうろついている。犠牲者だって少なくない。のうのうと都に顔を出せる身分なのか?」
「頼、もうやめないか! 京殿があの戦役の元凶ではないのはお前も知っているだろう」
「……」
再度陣に咎められた頼は舌打ちし、口をつぐむ。
「頼は、仲間が絡繰兵に重傷を負わされ、気が立っているんです」
頼の治療を終えた凛が釈明する。
「……。ごめんなさい」
京の目に涙が浮かぶ。早く事の究明に動いていれば、頼のような人間を出さずに済んだからだ。
「手前ッ、何も知らないクセに!」
「やめなさい。彼のいう事ももっともだから」
アイシャが頼に掴みかかろうとするが、京が手で制した。
「わかったよ……。すまなかった、ババア」
「ふん」
アイシャとて絡繰兵の被害者だ、頼の気持ちも分からないわけではない。頼は不満そうに鼻を鳴らすばかりだったが。
「怪我人だけで済んだのは幸いでしたが。実は絡繰兵が湧き出たとされる地点への調査に割く人員が足りません。それで――」
「俺は反対です。臆病者に調査を任せるなどと……、それにこの二人は民でしかありません」
陣は京とアイシャに調査を手伝わせようというのだが、頼は当然反対する。個人的な感情がないわけではないが、民間人を調査に赴かせるというのが危険なのだと。
「……」
「まァまァ」
アイシャが拳を思わず握るのだが、京がなだめる。
「京殿とその弟子の娘の実力は確かなものだ」
「隊長殿、絡繰兵が現われたのはその遺跡なのですよね。遺跡内は狭いはず、その熱剣では危なくないですか?」
京が指摘する危険とは遺跡という閉所で戦う事だ。京もアイシャも武器は使わない。殺到しては危険だ。
「無論、それには抜かりありません。遺失叡智の技術を応用した宝貝銃に持ち替えます」
「……変な銃だな、それ」
アイシャの言う通り。その銃は西洋の銃とは違い、やたら角ばっている。
「なんでも、宝貝の技術を試作的に取り入れた銃だとか」
「フン、田舎者にはこの超技術を組み込んだ宝貝銃を理解できないだろうな」
頼が鼻を鳴らしつつ皮肉を飛ばすのだが、今度は凛が咎める。
「やめましょう。今は一人でも協力者が必要な時よ」
「……」
流石にこれに堪えたのか頼は今度こそ黙り込んだ。
「……すまない。頼は悪い男ではないのだが。……それはともかく、集会所で準備を整えたあと、絡繰どもの巣に向かうとしよう」
「わかりました。馬は繋いでおきますね」
「協力、感謝する。では、中に入ろうか」
京が了承すると、陣は集会所の扉を開けるのだった。
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