第4話 京《ケイ》、野盗と激突し――

「このクソアマ――ッ!」

「よっと……!」

 少女が感情に任せてケイに飛び掛かかるが、すんでのところで京は距離を離し、間合いを計る。

 ――へェ……、やるじゃない。

 京は冷静だった。少女は竹が生い茂る中でその合間を縫って京に迫ってきている。

 複雑な地形を生かし移動する――、という能力は京以上かもしれない。

「ほッ、よッ、ほッ!」

 とはいえ京も熟練の功夫使い、呼吸を整え距離をうまく取る。

「舐めんじゃねェ!」

 少女は加速し勢いを増し、京に迫る。

 そして、拳を振り下ろし爪で京をひっかきに来る。

「ッ!」

 さすがにひっかきまでは予測しておらず、爪は京の道着を掠めてしまう。

「……」

 ――なるほど、動物の動きを真似してんのね……。

 冷や汗が流れた。型にはまっているわけではなく、単純でもない。野生動物に近い動きだ。

「しゃあッ!」

 少女は身体を屈め、そしてその反発を利用し、京に迫る。

「蛇か……!」

「しゃーッ!」

 まさに野生の蛇の動きだ。極陽拳は熊猫拳のように動物の動きを真似た技があるが、ここまで再現はできない。

 ――野生動物と戦ってるみたいね!

 しかし、京の防戦一方かといえばそうではない。

「筋はいい。でも、勢いだけじゃ――」

 京が僅かに距離を離すと、少女は失速し、その勢いが殺される。


「私に勝てない」

 

 ニッと京が笑う。勝利を確信していたのだ。

鉄肘ティエヂョウ!」

 少女の伸びきった腕に勢いのついた肘打ちをくらわす。鉄肘――《氣》を乗せた肘打ちを食らわせる技だ。

「がッ……」

 痛みが走ったようだ。無論、加減はしたが肘打ちは少女の細腕にはかなりの衝撃になるのは当然だ。

「畜生、ちくしょう……!」

 少女が飛びのく、痛みから涙声になっているようだった。

「さて、野盗ちゃん。これに懲りて強盗なんて――」

 京が敗北に打ちひしがれているであろう少女に近づくと、

「油断大敵って言葉、そっくり返すぜ。クソアマ!」

「!」 

 少女は低い姿勢を保ちつつ京に迫ってきた。まるで猪の突進を思わせる動きは京の度肝を抜いた。

「ッッッ!」

 京は受け身を取るが、勢いを殺しきれず。吹き飛ばされる。

「ハハハ、勝ったぜ!」

 少女は悠々と京の荷物を奪い取ろうと近づくのだが、そのままでは京は終わらない。

「残念でした、もうちょい冷静になる事ね」

 すぐに起き上がり、油断した少女に一撃をくれてっやた。

「……」

 堪らず少女は気絶し、その場に倒れた。意識はあるが、動けない。

「んじゃ、腕縛っておくからね、もちろん動けなくしておくから」

 と、手早く少女の手を縄で縛る。

「……おい」

「何よ?」

 縛られた少女が京をにらみつつ、呼びかける。

「……どうやったらアンタみたいに強くなれる?」

「はい?」

 唐突な少女の質問に京は目を丸くした。

「俺、負けたの、初めてなんだよ……。軍の連中も返り討ちにしたのにさ」

 さっきまで京に喰ってかかった勢いが嘘のように少女は気弱になっていた。

「まァ、地の利はアンタにあっただろうからね……」

 軍の兵士とて厳しい訓練を経ているが、足場の悪い場所での戦闘に慣れているわけではない。

「親は俺を置いてさっさとくたばっちまってな……」

「……」

 少女の肩に手を置く京は涙を流している。

「え? なんだよ、いきなり泣き出して……?」

 少女はどぎまぎしてしまっていたが、京は意を決し、顔を真剣な面持ちに変えた。


「どう、私の弟子になってみない?」


「はいィ……?」

 京の唐突すぎる提案に少女の時が一瞬、止まったのだった 

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