- Ⅱ -
Act - 6.9 「籠の都」
6.9 / ⅰ - ひらひら、ゆらゆら -
「ねぇ、マスター。この
天も地も、その場所から見ることは
小さくも甘美な花の香りも、生命の鼓動が紡ぐ小鳥の
ましてや、月の明かりなど───否、それを阻む暗雲すらも、その少女は知らなかった。
「私はあくまでマスター代理ですよ、お嬢様」
埃一つ侵入を逃さぬ清廉潔白な空間、塵一つ誤算を許さぬ必然を算出する演算舞台。
無機質のパイプは少女の
その身を包むエメラルドグリーンの水溶液が少女の躯体を包み込む羊水ならば、それを覆う透明な筒は人工物の子宮と呼べよう。
「ふふっ、そうだったわね」
大の男が見上げる程の高さまで伸びたアクリルガラスの円柱を満たす蛍光色は、しかし彼女の裸眼を傷付けることはない。
口元こそ医療用フェイスマスクで覆われているものの、大きな宝石のように輝く瞳はガラスケースに浮かぶディスプレイを視認している。
少女に寄り添うように電子の海を
『私の願いはただ一つ───』
その少年は真には無知なのだろう。
人の醜い欲、世の不条理を全ては理解していないだろう。
自分の言葉や行動の先により良い未来が必ずあると信じ、真っ直ぐ前を向いた祈りの言葉は、無垢な赤子の産声のようにも聞こえたかもしれない。
「また彼の映像ですか」
しかし、少女はその姿勢を決して
純粋だから故にその価値を理解し、誠実だからこそ世界を前に進ませる原動力になると微笑む。
そして───、
「えぇ、彼は歴史の変革者よ。私達は世界の特異点に立っていて、そして未来への岐路には、私達は必ず彼と対峙することになる」
そして何よりも、その空が、その翼が、その自由が彼女にとっては眩しかったのだ。
「これはきっと運命なのよ」
それは善なるものか、
『
籠の鳥は静かに
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