3 / ⅺ - ソラ -
「これで……終わりだッ!」
その日に立ち会えて幸運だったと、報道記者は後に語る。
その日は歴史的転換の日だったと、社会学者は後に語る。
その日を最後に人生が一変したと、搭乗者は後に語った。
「───え?」
産声を上げた赤子が、初めて目を見開き光を得た時のように、
祭壇に跪く修道士が、神に救世の信託を渡された時のように、
混沌より出でし一筋の
彩に塗り潰された一面はあまりにも眩し過ぎて、けれど釘付けになった眼を瞑るには余りにも惜しい。
一度でも目を閉じてしまえば幻想へと消えそうなその非日常の景色に、脳の処理が追い付かない。
息を呑む、では表現しきれない。
時間が止まる錯覚に陥り、呼吸すらもが意識の外へ持っていかれる。
思考が凍り付くような中で、言葉など出る筈もない。
白昼夢でも見ているのだろうか。
神の国への誘いなのだろうか。
羽根を広げれば、手を伸ばせばそこへ届くのかもしれないと
「……ま、待って、待ってくれ! あれは、あれは───!!」
鮮明に焼付いた色彩を失わんと求めるその声は、最早悲鳴にすら聞こえる。
己が声でようやく脳が覚醒し、その堕つる瞳に映るのは黒が青色を有土から取り上げる様だった。
「うぉぉぉぉおおおおおお!!」
身体を乗り上げ機体に命令する。再度の飛行を試みる操作は反射に近く、
「……
考える間も要らず、考えるまでもなく、彼は小さくそう呟いて
ガゴンと大きく機体が揺れると同時に
『───!? ───……!!』
それはアラートのアナウンスか、有土を心配する通信越しの叫びか。
しかしその一切が彼の耳に届くことはなく、その身体はただ真っ直ぐに上を向いていた。
御するもののない翼は炎を噴き上げ、
「はぁぁぁぁぁああああああ!!」
迷うことなく、惜しむことなく、有土は機体の腰骨にあたる部分を展開させると躊躇いなく無数の
どころか、爆風は立ち込め更に陰を増やす結果となってしまった。
「───だったら、これでッッ!!」
その思考は弛まず、緩まない。
驚きはしたものの、その手を止めることなく柄を持つ。
格好良しを第一にデザインされた機体では可動域に限度があり、歪な体勢になってもお構いなしに彼はむしろ殊更に加速する。
狙いは、ただ一線。
振るうは、ただ一閃。
有りっ丈の力を込めて、彼は大剣で空を裂く。
「……───ッッッ!!」
声にならない叫びで力みながら、彼は暗黒へ一閃を切り込む。
それは遊戯の産物で自称していた鉄塊が、本物の宝剣へ昇華した瞬間だった。
「あぁぁっ……ああ……っ!!」
感嘆が、感涙が、知れず彼の表情を埋め尽くす。
二度目は確かに存在した。
眼前に無限に続くそれは夢幻ではなく確固たる現実だった。
陰の奥には光が満ち溢れ、黒の向こうは確かに目映い光に溢れた青色があった。
《───警告。領空権警告圏内侵入。警告。不時着陸可能圏外接近。警告。
感動に浸る間もなく機体が悲鳴を上げる。
次はないと拘束された彼は、せめて余韻を惜しむように一筋の切り口を見やる。
神話の勇者のように翼をもがれ宙から堕ちる中、有土はただただ蒼を見続けた。
『……嗚呼、私にも見えたよ。君には、それはとてもよく見えたんじゃないかな』
感嘆を混ぜたその声が、静かに彼の耳に響く。
『あれが、
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