3 / ⅸ - 闇より出ずる -
『あらあら、随分とヤンチャしてるのね』
小郷有土への通信が遮断された筈のコックピット内に女性の声が静かに響く。
その声はこの場に似付かわしくないほど慈しみを込めたもので、
『それにしても、らしくない格好じゃないの。そんな姿は見たくないわ』
だから、と。
その声は静かに、その声は艶やかに、魔性の響きで言の葉を奏でる。
『あれは悪よ、許されざる悪なのよ』
「……違う。あれは光皆社長が用意してくださった、この国の財産だ」
絵本を読み聞かせるように、その言葉はやわらかく続く。
『あれは悪よ、貴方を傷付け苦しめている悪なのよ』
「……違う、あれは添氏さんの計算が俺の立ち回りを上回ってるだけだ」
我儘を言い聞かせるように、その言葉はあたたかく続く。
『あれは悪よ、本当の貴方の姿を出さないうちに押さえ込もうとする、卑怯な悪なのよ』
「それ、は……そう、なのかな───」
遂に、否定は返って来なかった。
『えぇ。だから私が、貴方の翼を広げてあげる』
それは、一つのおまじない。
『大丈夫、悪を罰せんとする貴方は間違っていないわ。もしその手が血に染まるのが恐いなら、私が穢れない方法を差し出してあげる。もしも世界がその在り様を侮蔑しても、私達は貴方を評価する。例え世界が否定しようと、私だけは貴方を肯定し続けるわ』
だから───と。
『だから私に、貴方の正義を見せて』
その言葉を最後に、小郷有土の意識は漆黒の中へ溶けて消える。
「───あぁ、闇を
『えぇ、貴方に死神の加護が在りますように』
そこにあるのは、悪を餌とし闇を
『天使を堕とす一撃必殺を、私に見せてちょうだい』
───
「……小郷、くん?」
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