3 / ⅵ - 巨兵、発つ -







「いくよ───JB!!」


 下を見渡せば人が、街が、世界がみるみる小さく見える。


 立ち込める雲から降る雪は歓迎の証にすら見え、飛ぶこととはこんなにも胸が躍るものなのかと操縦者が空に魅せられながら、大気を震わせる爆音を立てて空へ躍進したJBは、一度ホバリングしながら体勢を整える。


『これより、小郷有土、及び相為道定による両名製作の『機動装甲アルカディア』模擬戦を開始致します』


 響くアナウンスの声は道定の後ろで光皆の隣に立っている添氏のものだった。


 澄み渡るその声を合図として、第一訓練場から幾つもの航空機が飛び立ち、目標を迎撃せんと出動していく様子を、有土はJBの中から見ていた。


『これらはAIによって動いている無人迎撃機《権天使アルヒャイ》の最新作、N.V.11と称するものです。乗員は居ませんので、どうぞ遠慮せず破壊していただいでも構いません』


 添氏の言葉を聞いてか、有土は落ち着いた様子で深呼吸を一つしてから道定との通信を繋ぐ。


「道定、標的ターゲットの数は?」


『んー、ざっと五十くらいかな』


「ご───っ!?」


 道定が送ってきたJBの動体検知モーションセンサーでスキャンした結果に、思わず冷や汗が出る。


 今でこそ視界にはまだ入ってきていないが、眼前に広がる表示装置グラフィック・デバイスからは、航空機の大凡おおよその位置を示すターゲットマークと、「Enemy」の文字に包囲されているのが窺える。


『対10機をワンセットって思うと、それを五回分ってとこさね』


「おーらい……っ!」


 状況は明らかに恵まれてはいない。


 しかし、かと言って愚痴を零すままでは、あっという間に迎撃されてしまう。


 大きなターゲットマーク……即ち、近くにいる敵から攻めていこうと、有土はJBの右手で旧世ではカノン砲として使われていた大きさとほぼ同等の、ビーム型対物狙撃銃アンチマテリアルライフルを腰から取り出す。


 先記の通り、JBは神経接続ニューラルリンゲージによって操作しているので有土が頭で想像した通りに動いてくれる。


 今は、有土がJBと一体になっていると言っても過言ではない。


『巳、戌、未、寅、酉、辰、亥、申、午、子って感じかな』


 アナログ時計を使わない昨今では、クロックボジション「何時方向」は意味を成さなくなっている。


 そこで彼等が方角を示す際には、北の子を起源とした十二支を使っているのだ。


 有土はビームライフルを構え南南東の方角を見る。


 こちらに向かって来る航空機の姿を捉えると、表示装置グラフィック・デバイスに映し出された風向、風速、目標までの距離を確認し、フルオートにロックオンまでされているのを確かめてからトリガーを引いた。


 銃口から一筋の青白いビームレーザーが放たれると、数秒の間の後に遠方で爆発が聞こえる。


 それは、JBの攻撃が狙い通りに航空機に当たった事を意味する。


「まず一機……」


 その爆発音を耳にした有土は、すぐに西北西の方角を見ながら、


「道定、残り九機の射程圏内到達予想時間は?」


『さっきの順に、14、25、37、51、62、76、109、117、118秒後ってとこかな』


「さんきゅー」


 JBの向きを変え、銃を構え、ターゲットを照合し、トリガーを引くまでに、早くても9秒。


「さて……」


 百発百中を前提にしてしまうが、7機まではとどこおり無く相手にすることが出来そうであろう。


 だが、その後に続く八、九、十機が到達する時間の間隔が狭く、最後の二機に至っては同時に来ると言ってもいい。


 射程圏内ということは、それは逆に言えば向こうからも撃たれる可能性がある。


 完全な操縦の上でも、二、三発は被弾する可能性も頭に入れなければならない。


 無論、JBはそれだけの被弾だけで壊れる程度の強度ではないのだが、今はまだ残りの航空機の数の方が圧倒的に多い。


 今後の事も考えると、やはりダメージはゼロに抑えたいが……。


『有土、来るよ!』


 その調子で二機目から七機目の航空機の迎撃に成功し、問題の三機が画面上に確認出来る。


 八機目を撃ち、九機目を相手にしようする間に、十機目に撃たれる事は避けられないだろう。


 と言って、南方から来る九機目から距離を置こうとすれば、それは北方から向かう十機目にみすみす近付くという形になってしまい、格好の的となるのがオチだ。


「───ッ!!」


 有土は八機目が来る西南西に構えビームレーザーを撃つ。


 そして北方、つまり九機目を無視するように一〇機目が来る方向に銃を向けて───、


「……ほう、二丁拳銃とは洒落たことをする」


 南北の二方向からビームレーザーを放ったそのスナイパーの姿を見て、最初の十機の迎撃───第1セットとでも言おうか───が終わった時に、光皆は思わず笑みを零していた。


「なかなかどうして、見せ筋だけのボディビルダーとは言ってくれる」


 これでデザイン性しか考えていないだなんてよくも言ったものだと、光皆は賛辞の代わりに皮肉を零す。


 片手だけで迎撃するのは無理だと判断した有土は十機目に構える一方で、左手で腰からJBの背丈から半分ほどの狙撃銃スナイパーライフルを取り出したのだ。


「……さて、次はどんな面白いものを見せてくれるのかな?」


 そうしている間にも次の機体がJBに向かって来ているのが、あらゆる画面から確認出来る。


「もっとも、『機動装甲アルカディア』の迎撃なんて計算外のAIが相手では、簡単過ぎるかもしれないがな」


 《権天使アルヒャイ》がどこまで太刀打ち出来るのか、それに対しどのように対応していくのか、プロモーションと解説を交える光皆の言葉を隣で聞いた添氏は、しかし何も語りはしない。


 先程の1セットで恐らくJBの射程範囲は演算に組み込まれたことだろう。


 次からは更に遠く離れた場所から一層複雑な動きになると考えていい。次の十機はどんな動きになるのか。


 いや───、

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