Act - 3 「鉄の色」

3 / ⅰ - 躾の責任 -

 蒼歴 █████ 年 一の月




「鎌瀬議員が事故死!?」


 翌日の第一声は、誰もがその話題を口にしていた。


 都市開発事業部との金銭面の癒着問題を背景に、他の議員らと昨晩密会を行った後に


 そこにいた同席者とトラブルがあったものと推測───報道の概要はそのようなものだった。


 この事件を巡り、不当な請求を強いていた責任問題を受け止め、都市開発事業部部長は辞任を表明。


 添氏執行局総督代行は鎌瀬議員と繋がりの深い点糸第一野党第三席に、予算に対する収支差額の説明を要求することを表明した。


「これで第一野党が壊滅する訳じゃないけど、少なくとも第一野党内で点糸議員の派閥は発言力が弱くなるだろう……だっけ」


「あぁ、確か点糸議員ってこの前会ったんだっけ?」


 NLCディスプレイでニュース見る道定が、いつになく神妙な面持ちで有土に声を掛ける。


 柄にもないなどと茶化すこともなく、彼等はこの場には居ないもう一人の仲間、政法科『優等生セレクター』のことを憂いていた。


「ホーケー先生、大丈夫かな……確かアイツの後ろ盾って点糸派じゃなかったっけ」


 点糸が有土に接触してきたのは、法経と一緒に彼も囲い込もうとしていた腹積もりがあってのことだったのだろう。


「流石にまだ学生の『優等生セレクター』まで何かあるとは思えないけど……」


 思想思考は共感出来なくとも、だからこそ本気で語り合えた学友への憂慮は、しかし最悪の形で悪い予感が的中することとなった。


「禾生の内定が取り消された……!?」


 放課後、異例の言葉が部屋に響く。


 急遽召集された『優等生セレクター』の場は、一人足りない状態で始まった。


 空席を埋めるその報告に言葉を失うと共に、もしこの場に彼が居ても投げる言葉が見付からない、そういった意味ではこの状況で助かったと安堵してしまっている自分がいることに気付き、有土は苦虫を噛み潰したような表情で溜息を吐いた。


 四年間の大学課程を経た法経を受け入れる頃には、体制も元通り整うだろう。


 しかし近々、特に金銭面での問題が生じてしまった以上、法経の教育費用に割り当てられるリソースは限りなくゼロに近い。


「……まぁ、この機会に禾生も考えが変わってくれればいいんだけどね」


 ただ、有土が後ろめたさだけでなく純粋に安心した部分があったのも事実であった。


 法経と有土が将来的に議会で討論するかはさて置くとして、法経の言うように現政権の政策に異議を唱える存在は必要である。


 一辺倒に讃えず盲目的に崇めず、多方面の意見を伺い良し悪しを吟味し長短を把握した上で最善の指揮を執る、そういった意味では野党という存在は不可欠といってもいいだろう。


「確かに、今回の一件で随分と叩けば埃の出る政党ってわかっちゃったから」


「わたしは商業区域に店を構えてる身だし、都市開発事業部の次期責任者が、第一野党と繋がりを絶ってお店の賃料も適正価格に引き下げるって言ってたから、悪くない話なんだけど……悪事がわかったとはいえ、禾生くんが『優等生セレクター』取り消しって考えちゃうと複雑な感じね」


 第一野党の実態は、有土が思っていた以上に、法経が焦がれていた以上に粗野な組織だった。


 利己的で、排他的で、強行的な集団。


 無数の夢を叶えているような現実味など無い言葉を掲げ、その陰で手段など選ばずに自己の欲望を満たす団体。


 それはある意味だと人間の本質を体した、とても姿なのかもしれない。


 為政者の全員を聖人君主の公僕だとも思っていない。


 それでも法経の敏腕はそんな場所で腐らせていいものではないと有土は言葉には出さず胸に仕舞う。


「それじゃあ、私は都市開発部の今後についての打ち合わせに呼ばれてるからもう行くね」


 法経が急遽『優等生セレクター』から外れたことによる諸々の調整が終わった後、あかねは有土と道定に別れを告げた。


「あ、そうだ。小郷くんもし時間あったら、真紀奈のこと迎えに行ってあげてくれない?」


「いいよ、確かにこんな暗くなっちゃったし」


 てっきりあかねのお店にいるものとばかり思っていた有土が、だからこそ、あかねから指定された行先は予想だにしなかった。


「あれ、知らなかった? 真紀奈の身柄を受け持ってるのって……」




「───こちらは国防局第一訓練場です。本日はどのような御用でしょうか」

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