蘇生

 それでも薄く見開かれたままのときを、切り開いて助け出された、まるでボロい白蛇は、麻紐のように幾重にも崩れていくのだろう、それでは価値はないように思えた。季節は反り咲くようによもすがら、逢引を模様し、すでに凝固した皮膚が腐敗し始めたころに、だ。


 今更に、この処を彩っていった、春はもうすでに現れている。

 割咲かれた躰には、ほど弛緩したまま硬く、よく、ゆくてとともに、さらに無駄に撓る。

 ことに汀線を超えて向こう岸へ誘導する、かいなはだらしなく、ぶらぶらと墜ちているだけだ。婚礼の儀式のように、坂道を下る、その先に朝日が昇るように、共に願っている、ひとりよがりで勝気な夏が導いていくからだ。

 やっと、きみのあなというあなに射し入れる刃。

 叶わぬ願いにこそ、希みを保つ。

 ぬめりも帯びない滴りが、すぅと吸いこまれ、泊を捉えるように、弾けた。何も描けないほどくすんで奥深くに見えて、触れもしない無だった。

 そして自ら声帯を震わせ、そして消えてしまった後悔を留めるように今、外れの裾を零し投げ捨て、吐き気を催すほどに芳しく甘く、山梔子の薫りが爛れそこら中に卵を産み続けている。

 彼女は未だ私を取り込もうと からだをひらいている。

 それだから私も躍起になり幾度も生と死をまたたかせて、この箱庭でも名を叫んでは、この黄泉平坂何処までもともに往きたい、その呪いと祝いを籠めて、胸を裂かせ、とどめてください。

 その願いすら、なにもないからこそ、どこまでも見渡せ、あるがままのようにふるまい続ける。私は、貴方は、ここにいるようでどこにもいない。空白の間際に零した欠片の鋭さと光と闇の眩み、睫に滲んだものの憂鬱。

 彼岸花の首を刈り根を喰らい自ら息を吹き返す、惰弱な餓鬼の体裁を整え、垂らした欲の余りに桜咲き乱れる、ほどよい血を好み、いっぱいに呑み込み続ける悪夢のような、散り際には。 

 きっと紅葉に埋もれていくといい、そして散りと誇りを重ね合わせ凍り付いて、そしてそのうちに白く白く、遺される(ゆき、という)再生で埋め尽くされ、生み出される彩は真実から遠ざかってゆくのだ。


 熟れたくちびるに 苺林檎蜜柑檸檬 それぞれの物語を熨せるように イロを被せている。

その表情は 悦びにも悼みにも 想えるほど 皺を殖やしては 枝分かれしていくは きっと あらたなみち。未来が産まれる時に 泣いたり笑ったり 痕を遺して その凹凸が彼方を形成して。そう信じれば きっと見合う姿は見つかるのだ。



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