天鵞絨の湿潤

 死んでしまった水母は天地を逆さにして、わかっていたけれど、気づいていたけれどそのまま放っておいたんだ。

そうしたら、そのままの思い出をこの胸に、タプタプと感情を遺して、亡霊みたいにゆらゆらと波間に浮かんでいたんだよ。どんな嵐でも凪でも、声を荒らげた天にすら呑み込まれずに地にも行かず。

 死後硬直した美がいつしか空の器になるように暗示をかけておいたんだって。しっていたの、すっかり干上がった満月は微笑みを凍らせて、云った。

 

「易しい過去の臭った草原に覆い尽された わたしたちの身は ひとつの木に留まったまま」


 わたりどりは、その声を聞き濡れた羽根を安めた。

 楔指された田園のビスクドールは 天に吊されて 少女を待つ。

 隠れんぼの役目を終えない あの日どの陽も 焦げるような垢 錆びた牡丹に返り咲く。

 個々は天鵞絨の海に幽かに揺れ 闇の前の喪が狭っていた。

 

 弔いの鐘が何処からか、耳鳴りを熾し胸に割いた 悼み苦しみをよびおこすと貝殻に祝いを込めた、或るほらふきのMessageは、航海をし続け、真実と舷窓に映し出す。

 脚色道理のロマネスクみたいに、零れた砂の歌を呑んだ瀬戸際のオルゴールたちは 永遠に奏で続ける。お前の心にだけ遺るように、寂びただみ声で黄道を邪魔をしている。

 晴れもしない深淵の底をのぞく時に。

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