姿見.
やけに磨かれたぼつぼつの廊下は濡れ光る。障りをも流出する、と私は 途方に暮れる 渡り鳥も そこで尽きようかと、なら先が見えないのだと 嘲笑う、くたびれた草履がぺたぺたと云う。
黙殺されたメトロノームは、足音と貪欲に血に刻む それでも、規則正しく拍を担うものあり 此処が懺悔室のようでもあり、あきらめて病床の透き間に潜る。
私のすみかであるか、皆目わかりはしないのだけれども、
だが胸の札はもう直ぐに七と見合う、だが今は紫陽花小路とうたおう。
少し せきばらいをお願いしたい、憐れにも おもわれたくはない……
体裁を揃えてピアノの傍らへゆく、
乱れた衣服をただしては そこへ向かうのだと、自らの激情に身を預ける
しかし久方ぶりに此処へ戻ってきた、
病変は蛙に反り少しの暇を頂いたのだが。所の角を曲がると雅な垣根が並んでいた。見知った朝顔であったが、今日はもう随分と色めき立つ 我が誉れで充たされよう。
大ぶりで真っ白な手毬達が雁首並べて 私を葬列へ誘う。まま胸に手をおいて 瞼を閉じてゆき、あゝ 眩しくもない。柔らかな光にうちすえられ、笑い愛て、君に巻かれてしまうと。あららあらわ、
しあわせで居った、丸裸の私の中心を注いでいた 点とも血ともつかないともしびが、くろぐろ。陰に揺らいでいて、だからこそ 君も僕もいる世界の仲を描いたのものが 《鍵盤に生まれたのだ》
息を整え打ち直す、何時か誰かの心臓の近い処を、ととんと ハクをうずめて、
遺言書を紐解いては
(指を滑らせて生ける・共に歩む輝石となる)
これが意思だとしても
留まることの無い螺旋を、搦め取れたら仕舞いまで。魂は浄化に迎えられると、世界は言わしめていたのだと、遂に終に思い出す度に。私のたわいもない弾き騙りを、見透かすような……
その金切り声は嗚咽の酔う。寂れたオルゴールは碌でもない音色で鳴いている。
勝手、囀る誰そ彼の薄明を塗替える青い鳥は番い、どこか 薄らまなこの夢の残滓の如く。沁み出して緒として往くものだから、終わらないフィナーレに酔い狂うばかりで。
そうさなぁ、泪がとまらないのだ
姿見
(2020/07/10)
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