徒浪塡 言魂

 これは歩めぬほど抉られたもの、過去の途はあかくもうすぐに未知は尽きる事だろう、誰が悪いものでもなく強いて言うなら己の天命であろうと諦めもして天を仰いだ。いやそうするほか余力は残らず、些か運も味方したようで、今更睨みつけた空より、とうに嗄れ果てたと思われた雷雲が擁してきたところだ。

 もう遅いというのに、腹が立って仕方ない己の人生を振り返りたくとも、朦朧とした視界にうつるのは、何故であろうか春の嵐で、舞い散るは桜吹雪というから可笑しくて仕方ない。わらいたいのかなきたいのか、わからないまま身は浸っていく。このまま埋もれてしまえればいい。ただらくになりたい。

 月明かりなのかそれとも稲光なのか、妙に小五月蠅いざわめきが頬を撫でるものです。ほんの少しの出来事でしかないこれはきっと青い鳥の尾とした糞であります。これで死に逝くものの、屹度些細な願いが模した死海でございます。ああ、それでもこの陽の雨は燦燦とひりつくような、渇き。それに露わ去れ。

 気付けばこれが夢で有って現で在って、今、ここに、私は要るのだと気づくもの。もう遅いと思います、然し時に逆らわずに眺めみるは天地であった、其処、は己が走馬灯が作り出すただ碌でもない痴情でも。ともいえ、易しいだけの片割れは今ここに、距離を保ちヌメつける瞳を閉じ「おかえり」と告いだ。

 ただ、そこにあるがままの私がいて。他に何もいらなかった。至らなかった、それだけで或る。(徒浪塡)

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