484 雲の最中

 神秘的な青い体から放たれた攻撃は悪夢のように多彩で強烈だった。光弾、炎、水、泡、レールガン。だがひときわ目を引いたのが……。

「何じゃありゃ!? 竜!?」

 巨大な蛇、あるいは龍のような何か。現実的に考えればそんなものが存在するはずがない。

「コッコー。違います。あれはただの幻影――――ゴッ!?」

 言い終える前に龍に触れた機体から投げ出されるカッコウパイロット。え!? あのドラゴンマジで攻撃なのか!?

「コッコー。龍そのものは幻影ですが、幻影の中に攻撃を混ぜているようです」

「解説ありがとう和香! 厄介な小技使いやがって!」

 つまりアベルの民はカッコウが幻影を見抜くことを予測して攻撃を組み立てていることになる。

「守勢に回るわけにもいかないな。ミサイル!」

 ぽっかりとあいた雲の中をミサイルが切り裂く。しかしミサイルは何もない空中で突然爆発した。

「今誰か起爆したか!?」

「してない」

 働き蟻の返答はそっけないが、だからこそ嘘を言ってはいないのだろう。つまり何らかの方法で強引に起爆させられたことになる。

(ユーカリの制御を乗っ取った? いや、それならもう全部起爆させられてるか。さっきの空中機雷みたいなものか、あるいは瞬間的に放電でもしたのか?)

 はっきり言って訳がわからない。奴らの使う魔法と科学を組み合わせた技術は完全にオレの理解の範疇を超えている。

 どうやって対処すればいいのかさっぱりわからない。だったら開き直ってやるまでだ!

「数で押しつぶすぞ! ミサイル、今度は直進させるな!」

 今度は複数のミサイルが複雑な軌道で飛んでいく。ドードーの魔法でコントロールされたミサイルはある程度なら操作できるし、速度も速い。

 すると、今度は空間の外側を飛んでいたミサイルから順に爆発していくことがわかった。

 多分、ぽっかり空あいた空間の外、雷雲に何か仕掛けがしてあるのだろう。

「なら、ケーロイ! 誰でもいいから雲に向かって攻撃と妨害を散布してくれ!」

「おう!」

 まずは敵の守りを崩すところから。だが敵もこのまま座して死を待つわけもない。

 ますます攻撃が激しくなっていく。ほとんどシューティングゲームの弾幕みたいな有様だ。厄介なのはライガーの光魔法みたいな幻影を大量に放出してブラフにしてくることだ。多分ゲームでこれをやったら開発会社に抗議が殺到するだろう。

 こちらも負けじとミサイルを飛ばし、中にはフォークトで特攻し、ぎりぎりで脱出するカッコウもいる。

 謎の防衛能力は雲が晴れるたびに減衰していくようだけど、巨体のくせにわりと素早いアベルの民はぎりぎりで直撃を避けつつ、時にはヒトモドキのようなシールドを展開してミサイルを防いでいる。

 だが気付いているだろうか。徐々に、徐々に、アベルの民が高度を下げていることを。

 空中での戦いはとにかく上を取った方が有利だ。勢いのまま落下して攻撃することも、何かを落として攻撃することもできる。

 だからこそカッコウや鷲は敵の上部に攻撃を集中させ、こちらが上をとり続けられる態勢を整えようとしている。

 その策略に気付いたアベルの民はどうにか浮上しようとするがもう遅い。押し込むように攻撃を続け、アベルの民はぽっかりあいた空間の底に追い込まれた。格闘技で例えるならロープ際に追いつめられたようなものだろうか。

 ケーロイが甲高い叫びと共に鷲を率いてアベルの民の直上に飛行する。そのかぎ爪にはここまで大事に運んできた爆弾をしっかりとつかんでいる。落下する勢いに身を任せようとしたとき、突如天井が崩落した。

 正確には雲から何かが落ちてきたのだが、それを正確に理解できてはいなかった。恐らく雲を固めた雹だろう。いざという時のために空中に仕掛けておいたトラップかもしれない。

 多分、アベルの民が空中で戦うのはこれが初めてではない。

 そうでもなければこんな戦術は練ることができない。ばらばらと雹が降り注ぐ。一粒は小さくとも十分すぎるほど鋭利な凶器となったそれは飛行部隊の体を存分に痛めつける。アベルの民も無傷ではないだろうが、雹の嵐を強引に突っ切り、鷲に攻撃を仕掛ける。

 上と下から挟まれることになった味方は態勢を立て直す余裕さえなく、力を失い……ケーロイの翼にはアベルの民の触手らしきものが絡みついた。

「ケーロイ!」

 力の限りもがくが、離れられない。それどころかアベルの民に引き寄せられ、体の一部がぱくりと割れた。誰がどう見ても捕食するつもりだ。

 あんなでたらめな体をしていても一応生き物であるアベルの民は何かを食べなければならないのだろう。

「ぐ……油断したなあ。ああ、だがよかろうさ」

「ケーロイ、ちょっと待――――」

「いや、よいさ、ちょうどいい。どうせここで代替わりするつもりだったからな。少しばかり予定が早まるだけだ」

 後悔はない、といわんばかりの会心の笑み。

「我が名は石の部族の長、ケーロイ! 空に生き、空に死ぬ! それが我らの定め! だがな! 少しばかり貴様にも痛みを分けてやらねば気が済まぬ!」

 ケーロイはアベルの民から離れようとはせず、むしろ近づきぱくりと割れた穴へ向けて爆弾を放り込もうとし――――その足を切り飛ばされた。

 アベルの民から刃のような何かが剣山のように生えている。反撃の手段を失ったケーロイはそれでも笑みを崩さず、体の中に吸い込まれていった。

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