483 空の宝石
数回攻撃を繰り返すうちに、敵のレールガンの命中精度が明らかに低下してきた。
「よし! 空の奴がやってくれた! 攻撃の時だな!」
念のためにクワイの位置を確認するが、まだまだ距離がある。
「ほほう! それでは遂に我らもあの雲に突入する時かな!?」
「だな! ケーロイ! 出し惜しみ無しでいくぞ!」
可能な限りの航空機が積乱雲に向かい、それに追随して鷲も飛び立つ。
レールガンが射出される方角は南西から徐々に近づいており、現在はほぼ真南から攻撃されている。恐らくそこにアベルの民はいるはずだ。
「本日の天気、大雨、雷、時々レールガンか。一発でも食らったら死ぬぞ!」
地上からの観測がなくなったとはいえレールガンの脅威はいまだ健在。直撃しなくても弾丸が掠めた衝撃波だけでひっくり返りそうになる。
攪乱用のチャフもどき、フレアモドキをばら撒きつつ上へ上へと飛び上がる。
そしてその勢いのまま、黒い積乱雲へと潜り込んだ。
暴風と滝のような濁流。さらには夜の闇よりもどす黒い暗黒を湛えた雲の中は上下の感覚すらなくなってしまいそうだった。
かろうじて目を開けながら雲の中を突っ切る。
だが、そこで何かが弾けた。暴風さえもかき消すような猛烈な爆風。
「被害報告!」
「コッコー。航空機二機破損。パイロット脱出」
被害そのものは軽微。しかし何が起こった?
「ううむ、どうやら宙に浮く泡のようなものがあってなあ。それに触れると破裂するらしい」
「何だそりゃ? 機雷かなんかか?」
見たことも聞いたこともないけれど、空中機雷とでも呼ぶべき兵器をアベルの民が開発していたらしい。確かに無策で待ち構えているわけないか。
「でも触れただけで爆発するならぶっ飛ばせる。ミサイル撃て。道を切り開け!」
ミサイルといっても結局のところ蟻ジャドラムの応用だ。
ドードーの魔法で勢いをつけたダイナマイトを空中に飛ばし、適切なタイミングで起爆する。銃弾よりもこっちの方が使い捨て航空機としては有用だ。
フォークトから放たれたミサイルは距離が開いてから爆発し、それに誘爆した泡が一気に道を作った。
そして雲の中にできた道の向こうに、木の洞のようにぽっかりと不自然に開けた空間が広がっていた。そこに奴はいた。
この暗闇でさえ見える青い体。ただし以前のようにずんぐりむっくりしていない。体はほっそりとしており、腕や足のような扇形をした何かが、あるいは広がった羽のようなものが細長くなった体から伸びている。
雲のさなかに佇み、ゆったりと浮かぶ青い宝石のような体は神々しささえ感じさせる。まるで伝説の竜のようだ。
だが違う。あれはそんなものじゃない。神話のようだが、あれは立派に地球に住む生き物だ。
「ふん。初めからその姿で現れてくれればオレもすぐに正体がわかったんだけどな」
さて疑問だが。
果たして地球に他の生物の能力を盗み、わがものにする生物がいるのだろうか。
というよりもむしろ、ほとんどの動物はそうだ。食事とは結局のところ自分で作れない何かを他から取り入れる行為に他ならない。
例えば河豚は海中の微生物や貝に含まれる毒を摂食して自らも毒を蓄える。青虫なども植物の毒を体に保存できる。
捕食して敵の能力を盗むということは、決してフィクションの話ではない。
だが他の生物の細胞そのものを取り入れるような生物はいるのだろうか。やはり、いるのだ。
ある時は発光生物の光を盗み、葉緑体を盗み光合成を行う。さらにクラゲの持つ、毒針を射出する刺胞細胞を盗み、わがものとする。
あくまでも研究途上だけれど、遺伝子さえも取り込むという可能性さえ浮上しているらしい。
奴らが群体であるのはそれらの能力をクラゲから盗んだのではないだろうか。
高い再生能力、青い体、何より他の生物から能力を盗む能力。
もうお前たちが誰かはわかっている。
「お前たちはウミウシ。その青い体はきっとアオミノウミウシだ」
アベルの民、地球での名前はアオミノウミウシ――――その体から万華鏡のような光が溢れ出す。その色の数だけ魔法を使えるというのか。
雲の中の決戦が始まった。
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