Epi82 お祝いは乱痴気騒ぎ

 家に着くと明穂以外の女子が居て、かなり面食らう母さんが居る。


「あ、お邪魔します。田坂結菜です」

「えっと、長山萌香です。あーちゃ、大貴君とよろしくお願いしたいです」

「あの、挨拶おかしくないかな?」

「言ったもの勝ちだと思う」


 驚きを隠せないのか俺の顔を見て「どういうこと?」とか言ってるし。


「大貴とセックスしたいそうです」


 明穂ってば! その言い方は変だし母さん固まってる。

 長山さんは「本音はそうだけど」じゃないって。田坂さんは照れてるのか、顔赤いし。そこは否定して欲しかった。

 正気に返った母さんだけど「もしかして写真に写ってた子?」とか言ってる。

 玄関先が煩かったのか、陽和も見に来てやっぱり絶句。


「こっちの可愛らしい子は?」

「妹」

「名前はなんて言うの?」

「陽和」


 妹居たんだ、とか言ってるけど、確かに明穂以外はその存在すら知らない。話もしてこなかったんだから、知らないのも当然だよね。


「へー。なんかお兄さんに似てるし、可愛いね」

「陽和ちゃんかあ。可愛い妹居るんだ」


 俺としては特に可愛いとか思わない。ただの身内で妹でそれ以上でも以下でも無い。

 二人から可愛いと言われて狼狽え気味の陽和だけど。

 急に女子を連れて来てやっぱ驚くんだ。明穂だけでも、ものすごい驚きようだったから、当然と言えば当然なんだろうな。


「お兄ちゃん。この人たちって」

「写真に写ってた人」

「腕組んでた人居るんだ」

「あ、あたし? よろしくね!」


 玄関先でコートとか脱ぐと一人を見て、母さんも陽和も目を丸くしてるし。


「なにあれ」

「すごっ」


 それに気付いた長山さんは、自慢げにぶるんぶるん言わせて「大貴君のおしゃぶりでーす」とか言ってるし! 違うからね。明穂はともかく長山さんとは一度も無いから。明穂のは散々口に押し込まれてます。

 陽和が俺の傍に来て「ほんとに?」とか聞いてるけど、はっきり「無い」って言っておいた。


 とりあえず俺の部屋に行き、コートとかの上着を置いて、明穂と田坂さんがキッチンへ。長山さんは部屋の中を興味深げに見てる。


「大貴。おっぱい触るのまでは許すけど、それ以上は無いから」

「あーちゃん。頑張って美味しいもの作るね」


 触らないから。田坂さんの手料理かあ。少し期待しちゃおうかな。

 で、長山さんを見ると、やっぱ目立つんだよね。巨大な山が。


「あーちゃん。触っていいんだよ。許可出てるし」

「無いから」

「少しは思わないの?」

「思わないから」


 ベッドに腰掛けながら「やせ我慢しなくていいのに」じゃないってば。

 それにしてもハーフネックニットで、やたら強調された感じの胸元。やせ我慢してるつもりは無いけど、あのボリュームは明穂でさえも敵わない。すごすぎる。

 で、やっぱ気付くんだよね。男の視線に敏感なのは女子特有のものなのか。


「見てるだけじゃなくて直にいいんだけど」

「いや、それやったら明穂に殺される」

「許可してたでしょ」

「あれは許可じゃなくて、暗に触るなよって警告だから」


 絶対そうだ。あれは警告だと思ってないと、あとでなにされるか。

 なんか、会話が続かない。リビングに行った方が二人きりよりいいかも。


「あ、どこ行くの?」

「リビング」

「サービスが足りないんだ」

「じゃなくて」


 リビングに行くと当然だけど長山さんも付いて来て、ソファに座るとその隣に遠慮なく座るし。

 近いんだってば。しな垂れかかってくるし、胸押し付けてくるし、ちょっと。


「あの」

「気にしない」

「母さんが見てる」

「ほんとだ」


 こっちを見て少し呆れ気味だけど、ついでに明穂の視線が刺さる。田坂さん、指咥えてるのはなんで? この状態が羨ましいとか?


「結菜が悔しがってる」


 言いながらさらに体を寄せてくるし、ぐいぐい押し付けて、その感触にノックアウトされそうです。

 柔らかいのが伝わってくるし、体温も伝わってくるし、息遣いまでがー!


「なにしてんの!」

「キスしようと思ったんだけど」

「駄目だってば」

「三菅さんとは毎日四六時中なのに」


 付き合ってるのは明穂で、長山さんとは付き合って無いから。

 ヤバいです。この人も肉食です。もしかしなくても性獣の片りんを見せてます。なんでこんなに好かれたのか、今も不明だし。小説書ける、その程度でこんなになるわけ無いよね。明穂じゃ無いんだし。

 キッチンからすごい睨みが利いてるんだけど。


「大貴! キスは許さないからね」


 そんな気は一切ありません。っていうかそれは長山さんに言って欲しい。


「あのさ、あたしからのお祝いって、マジで体くらいしか無いんだけど」

「無理だから」

「無理とか言われると傷付くなあ」

「いや、その無理じゃなくて、明穂が居るから無理の無理」


 無理、この言葉一つ取っても、意味合いが異なる。生理的に無理。この意味で使うと相手が傷付く。状況からの無理は、場合によっては。実現性からの無理は今。

 体だけの関係とは言っても、明穂がそんなの許すわけ無いし。家族なら好きなだけやればとか、わけわかんないこと言うけど、赤の他人だと嫉妬がすごいんだよね。

 当たり前だけど。


 二時間もすると食卓はなにやら祝いの御膳に彩られてます。


「準備できたけど、どこで食べようか」


 リビングテーブルを使っても最大四人。ダイニングテーブルでも最大四人。

 今居るのは六人。二人あぶれるわけで。無理すればリビングテーブルは六人いけるかも。


「こっちで」

「じゃあ持って行くから上だけ片して」


 長山さんと俺で上に乗っている花瓶や、リモコンとかをどかして、そこにテーブルランナーを敷いて花瓶を真ん中にセット。ダイニングテーブルにあるものを、片っ端からリビングテーブルに。


「ぎゅうぎゅうだ」

「お祝いしようか」

「席順は?」

「大貴の隣はあたしだから」


 テーブル長辺に明穂と俺、向かい側に長山さんと田坂さん。短辺には母さんと向かいに陽和となったけど。それほど大きくないテーブルだから、結構みんなと距離近い。


「じゃあ、大貴の最優秀賞を祝して」


 母さんを除けば全員未成年。ってことでジンジャーエールで乾杯。


「母さんのはなに?」

「スパークリングワイン」


 アルコール飲料でした。まあ少しくらい飲んでも支障無いだろうし、大人だから。


「あーちゃん。これあたしが作ったの」


 正面に座る田坂さんがアピールして「どうぞ」とか言いながら、その態勢は「あーん」ではないですか。明穂の白い目をよそに食べさせられて、「美味しい?」とか聞かれ「うん」と答えると嬉しそうだし。すかさず明穂も「あーん」とかやるし。「あたしは作って無いけど「あーんして」って、長山さんまで。


「久しぶりのアルコール」


 母さんは気分が良さそうだ。


「いつも飲んでないの?」

「飲まないって。それなりに高いんだから」


 夏は普段麦茶だもんなあ。甘い飲み物ってうちじゃあんまり縁がない。

 貧乏なのかな。父さん単身赴任してるくらいだし。


 ささやかながらも宴開始から二時間もすると、母さんが酔っ払いだ。


「大貴はねえ、もう小さい頃、可愛くて食べちゃいたいくらいだったんだから」


 追加で「お〇んちんも食べちゃおうかと」とか言ってるし。

 明穂は「毎日美味しく頂いてます」じゃないってば。それを聞いた長山さんとか、田坂さんが羨ましがるし、陽和は恥ずかしがって顔真っ赤だし。


「赤ちゃんの頃に起ってて、もう吸いたくなったんだから」

「やめて」

「なによ? 明穂ちゃんに写真あげちゃったから、代わりが無いんだからね」


 挙句、大貴の成長具合を確かめさせろとか、やめて! 母さんが絡み付いて来て、マジで酔っ払いだこれ。下半身剥こうとしてるし! なにしてんの!


「大貴。いいんだよ。お母さんなら」

「いいわけ無いでしょ!」

「あーちゃん。お母さんじゃなくて、あたしならいいんだよ」

「だからどっちも無いんだってば」


 長山さんも調子に乗ってるし。襲われてるのは俺。

 二人で剥こうとしてるよ、明穂は見て無いでなんとかしようよ!


「お兄ちゃん」

「なに? 今大変なんだけど」

「諦めたら?」


 陽和! 唯一の純情派がそんなことを言ってはいけません。

 あー、ズボン脱がされる! ヤバい! なんで女性ってこんな時だけ、やたら力強いの?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る