Epi81 婚約の意志は固まった

 後輩に迫られて明穂は見てるだけ。

 ビシッと言ってもらえれば諦めるかもしれないのに。俺、後輩に食われちゃうよ?


「えっと、津島さんだっけ?」

えみですってば。咲ちゃんとか咲たんとか、呼んで欲しいです」


 それはない。苗字でしか呼んであげない。それでなくても萌香だの結菜とか、次々名前呼びして欲しいとか言ってる状態だし。


「教えるのはいいんだけど、まじめに聞くんだよ」

「大丈夫です。教えてもらったらお礼もします」

「お礼は要らないんだけど?」

「体を好きにできるお礼ですよ? 男子たるもの、据え膳は食べるべきです」


 明穂を見ると目が笑ってない。すごく怖い。


「あの、据え膳にもなってないし、お礼は要らないから」


 ぶーぶー文句言ってるけど、お礼とか受け取ったら明穂に殺される。

 それにしても、こんなに懐かれるなんて。他の男子部員が哀れになってきた。


 部活動が終わって家に帰るんだけど、今日は強制的に明穂の家に連れ込まれた。


「昨日は大貴の家。今日はあたしの家。婚約するんだから、お父さんとお母さんに言っとく」


 問答無用で引き摺られて両親に改めて挨拶。

 コンクールの結果を伝えると早々にお祝いとなって、お義父さんも感心しててものすごい褒めてるし、お義母さんに至っては一夜を共に、とか言って、お義父さんを困らせてたし。明穂も絶対駄目だってすごい抵抗してた。

 当然だけど婚約なんか好きにすればいいって。


「こっちに住むか?」


 お義父さん、気が早いです。それは卒業してからにしたいです。


「ここで一緒に住めば夜這いもできるのに」


 お義母さん。マジでそれだけは絶対ないです。悪いんですけど。


 その後、明穂の部屋で貪られながら、この家で一緒にとか言い出した。


「大貴、住まないの?」

「卒業まで待とうよ。母さんが悲しがるし」


 でも、なんでか明穂の家に住むことが前提。俺、婿入りで決定してるの?


「あの、ところで俺、婿入り?」

「どっちでもいい」

「じゃあ、明穂が嫁もある」

「大貴に任せる」


 母さんは婚約すらまだ結論出してない。三菅家では好きにすればいいとなってる。

 俺の父さんは……明穂と初顔合わせでもらってくれ、だったから問題無い。やっぱ母さん次第ってことか。


「母さんがまだ踏ん切り付いてないけど」

「大貴のお母さん、ムスコンだね」

「えっと、なんで?」

「婚約が現実になって、急に大貴を異性として認識したんじゃないの?」


 だから俺の股間を欲しがるとか言ってる。欲しがってたのかな? 見たがってるのは確かだろうけど。


「可愛い大貴が結果を出した。優秀な遺伝子を持ってる。欲しがると思うけどなあ」

「無いでしょ。見たがってはいたけど」

「試してみれば?」

「えっと、なにを?」


 丸出しで誘ってみればいいとか言ってる。だからそれは無いんだってば。本当に食われたらどうするの?


「身内なら許す」

「いや、そういう問題じゃないと思う」

「いいじゃん。お母さん相手に経験するのも、他人で経験するのもどっちも経験だし」


 明穂は変態行為に対して寛大なのかな。自分が変態だから。

 自分の母親となんて普通に考えても無いし、もしそうならマザコンでもあるわけで、女性が一番気持ち悪がるタイプじゃないのかと。


「性行為だけなら気にしないから、遠慮なくしていいよ」

「しないんだってば」

「なんで?」

「母さんだから。じゃ駄目なの?」


 仮に明穂のお義母さんが相手なら、絶対許さないだろうし。明穂の場合に置き換えればお義父さんと行為に及ぶと、言ってみた。


「お母さんは駄目。お父さんとは論外。魅力がないから」

「でも経験だとしたら?」

「大貴のお母さん、見た目は愛らしいんだよ。大貴のお母さんなだけあって。魅力の有無って大きな要素だから、手当たり次第じゃ無いんだって」


 魅力とはそもそもなにか、と言えば、単純な外見だけに留まらない。例えば一流のアスリート。少々顔面が破綻してても、女性にモテるのは突出した才あってのこと。それこそが魅力なのだとか。そして俺にもそれがあって、筆頭が文才なのだと。


「お父さんにはそんなのない。ただのサラリーマンだし」

「いや、あの、文学の知識すごいじゃん」

「あんなの本読んでれば身に付くし」


 ディベートすると全然勝てないと言ったら。


「年の功だってば。本読んで知識を得て、その上で社会に出たら口達者になる」


 そんなものなんでしょうか?

 明穂のお義父さんもそうだけど、明穂にも口では敵わない俺って。


「だからね、大貴のお母さんとならいい。一度でいいから試してみるといいよ」

「無理」

「無理じゃないって。できると思えばできる。やる気の問題だから」


 そんなに母さんと繋がらせたいの? ちょっと思い起こすだけで。


「あ、萎えた」

「母さんを思い起こしたらこうなった」

「使えないじゃん!」


 肉親は無理だってば。明穂のお義母さんなら、間違ってあるかもしれないけど。

 明穂のお義母さんだって明穂の親だけあって、本来は魅力に溢れる人なんだろうし。と言ってみた。


「大貴」

「なに?」

「わかった。大貴がそこまで言うなら、お母さんとしてもいい。代わりに一週間大貴はあたしの性奴隷」


 怖すぎるんです。「冬休み中貪り続けるから」とかじゃないってば。それだと一週間以上にならないの? じゃなくて、マジで死んじゃうし、捥げるかもしれない。


「無いけど」

「無いの? いいんだよ遠慮しなくて」

「無いから。一週間の性奴隷も」

「つまんない」


 ずっといじり続けて元気になると、また蹂躙される俺だった。


 そして、土曜日になりお祝いと称して我が家に集合となった。

 自宅最寄り駅まで明穂と長山さん、田坂さんを迎えに行くと、すでに三人とも居て待ってたみたい。


「大貴、遅い」

「まだ五分前だけど?」

「女子を待たせるのはNGだからね」


 まだそういうのあるんだ。男女平等って日本じゃ形だけだね。


「あ、田坂さん。荷物持とうか?」

「あーちゃん。田坂じゃなくて結菜」

「えっと、ゆ、ゆいにゃ」


 噛んだ。


「ゆいにゃじゃないんだけど、それはそれで可愛らしいからいいかな」


 田坂さんが持参してるの、たぶん食材だと思うけど、それを持って自宅へ向かう。

 荷物を下げてることもあって、明穂が絡み付くと腕に空きが無い。長山さんがじっと俺の手元を見て、にゅっと手を出して荷物を持つ手を取った。


「あの」

「半分こ」

「これ、半分じゃなくて」

「気にしない」


 明穂の腕に力が籠ってるんだってば。焼きもち焼いてるのかな?

 田坂さんは付かず離れずの距離で、時々俺の顔を見てにこにこしてる。なんか可愛い。なんて思ってたら痛いんですけど。明穂に抓られてるし。


「大貴。田坂を可愛いとか思ったでしょ」

「いや、その」

「あーちゃん、嬉しい」

「ほら、かまととってこういうの言うんだよ」


 そうなのかな。でもそんな感じには見えないし。


「結菜って猫被ってるから」

「そんなことないよ」

「あーでも、俗説で胸が大きい女性は性欲強いとか」

「じゃあ、萌香だよね」


 俺にはわからない話が続いてます。


「否定はしないけど、結菜も相当だと思う」


 その根拠は男に媚びるからだって。俺に媚びてるのはやりたいから、だとかで、常に狙ってるから注意した方がいいとも。


「狙ってるわけじゃないんだよ。ただ、あーちゃんいいなって」

「じゃあ、プラトニックでいいんだ」

「それは……」

「やっぱやる気満々じゃん!」


 俯いて赤くなるのもなんか可愛い。


「明穂、痛い」

「大貴が田坂に惹かれてる」

「いや、ちょっと可愛いって思っただけだし」

「それが田坂の狡猾なところなんだってば」


 明穂曰く、かまととぶってる女子は、性欲の旺盛さを隠して清純そうに見せる。その清純さに惹かれた男を手玉に取る、あざとい傾向が強いんだと力説してるし。

 八方美人の気もあるから、多くの男子に粉かけて、適当にあしらうのも得意だとか。


「三菅さん。あたしそんなあざとくないから」

「大貴を落とそうとしてる。それだけであざとい」

「あーちゃんは可愛いから好きになっただけ」

「ほーら、大貴。落とす気満々だから、見え透いた手口に乗っちゃ駄目なんだよ」


 見え透いてるかどうかなんてわからないし。可愛いと思うのは事実だし。

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