「久しぶりに、会わない?」


 カフェで待っていた先輩はすっかり大人っぽくなっていた。


 キラキラと綺麗だけれども、どこか浮ついた感じを受けた。高校生のときのイメージはもうどこにもない。私もこんな風になるのだろうか、それはそれで悩ましいと、他人事のように思った。


「受験勉強、がんばってる?」


 先輩は去年、私の志望校に合格していた。


「これ、部屋に置いておけなくなって。……よかったらつかって。はかどるよ」


 紙袋の中を覗き込むと、折り畳まれたぶらんケットが入っていた。その存在は知っていたが、特に何の感情も湧いてこなかった。


「ありがとうございます」


 そのあと、何一つ共感できない先輩の話を延々と聞かされ、やっと解放された。


 部屋に戻ると、ベッドに転がり、ため息をついた。勉強しなきゃ、天井を眺めながらつぶやいてみる。心がざわざわとして、そんな気分にはなかなかなれない。


 ……だけど。


 顔を両手でぱちんと叩き、無理矢理机に向かわせる。


 とはいえ、始めたもののやっぱり調子が出ない。時計をちらりと見る。足先も冷えて、身体が強張ってきた。


 部屋の隅に置いた紙袋が、実はずっと気になっていた。……つかってみる? そう思ったら、もう立ち上がっていた。ぶらんケットを膝にかけ、起動する。


 先輩からバグについては聞かされていた。混線すると言われても、どこかぴんとこない。しかし、突然他人のプールと繋がってしまうのは困る。どんな人がつかっているかわからないし、誰かの足に触れてしまったら、やっぱり気持ちが悪い。


「そんなこと、なかったけど……」


 先輩がそう言っているのなら、きっと大丈夫か。


 私はプールの上を漂いながら、孤独な勉強を続けることにした。


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