第157話 サンフェル村の森 その1
「なあ、アダム。この跡おかしくないか?」
狼の襲撃の跡と言われて村人から連れて来られた場所を見てドムトルが言った。
狼の討伐依頼があった村はヨルムントから北東へ伸びる街道沿いにあった。騎馬で30分も走るとつける距離で、サンフェル村と言った。ヨルムント近郊の自由農家の村だ。街道の北方は海岸線まで続く森が広がっていた。
村へ着くと、アダムたちは村長に挨拶をして、冒険者ギルドから派遣されて来た事を告げ、依頼内容の詳細を聞いた。その話によると、村人が街道で襲われている商人の馬車を見たと言う話しだった。
村長から目撃した村人を紹介され、その人の案内で襲撃場所にやって来ると、確かに付近には争った跡があった。馬車の轍を追って行くと、街道を暫く走った後に脇道に入っている。怪我人でも出て、近くに停めて手当をしているのかと追って行くと、凄惨な現場に出たのだった。
打ち壊された馬車を背にして戦って倒れたと思われる警護の剣士の死体が3体、逃げ惑う所を後ろから襲われて倒れた召使と小間使いの死体が2体あり、剣士の反撃に殺されたと思われる2匹の狼の死骸があった。狼の群れは7、8頭はいるらしく、乱れた足跡は森の
「ほら、確かに狼の死骸もあるけど、狼の足跡とは別に、周りに騎馬が走り回った跡がある。これは最初に騎馬の襲撃を受けた後で、残された怪我人や使用人を見付けて襲って来た狼と戦ったんじゃないか? 剣士が3人もいて、狼の死骸が2匹っていくら何でも少な過ぎないか?」
「ドムトルの言う通りだわ。死体の怪我の様子を見ると、狼に食い荒らされているけれど、それ以外に切り傷や打ち身の痕があるわ」
アンは国教神殿の施術院に手伝いに行っているので、無残に荒らされた死体を見て表情を青くしたが、傷の見立てはしっかりとしたようだ。
アダムが案内して来た村人を改めて見ると、叫び声を聞いて群がる狼を見たら恐ろしくて、慌てて逃げて村の役場に届け出たのだと言う。要するに良く分からないという事だ。
「この脇道の先は何があるのですか?」
「うーん、この先は確か森の番小屋があるけど、壊れかけて今は誰も住んでいないよ。昔は密猟者や密輸業者が使っていたと言う話だ。そこから更に少し行くと北の海岸線にでるからね」
アダムが聞くと村人が答えてくれた。
村人は死体の山を見て怖くなったのか、もう帰っても良いかと言った。何日がして狼騒動が落ち着いたら、村人たちで死体は片付けるからと言う。アダムが了解すると、村人はほっとした顔になり、村長へはちゃんと報告しておくからと言って帰って行った。
「どうする、アダム。狼を探すか?」
ドムトルはそう言いながらも、脇道に続く蹄の跡を見ている。
「うーん、襲撃した騎馬の方が俺も気になるよ、アダム」
「ビクトールもそう言うなら、先に脇道の方を探って見るか」
アダムがそう言ってアンの方を見ると、アンも頷いて見せた。
「神の目 ”Oculi Dei” 」
アダムは神文を唱え、神の目とリンクした。
上空から俯瞰して見ると、サンフェル村の森は街道沿いに北に拡がっており、意外と近くに海岸線が見えた。村人の証言の通り、脇道の先に壊れかけた森の番小屋が見え、4、5頭の馬が繋がれている。もしかすると襲撃者の一味かも知れない。更に辺りを旋回して状況を探っていると、アダム達を
「道の奥の森小屋に騎馬が停まっている。もしかすると襲撃者がまだいるのかも知れないな。近くに寄って探って見よう」
アダムはそう言うと、先頭に立って脇道を進んで行ったのだった。
◇ ◇ ◇
「あの子たち、本当に怖いもの知らずなのね」
街道の脇道を森の奥に向かって歩いて行くアダム達を見て、アメデーナは呟いた。
スニックが冒険者ギルドから聞いて来た情報では、七柱の聖女とその仲間はサンフェル村から出ていた狼討伐の依頼を受けたらしい。村人を連れて現場を検証している様子も堂に入ったものに見えた。案内した村人が逃げるように帰って行った後で、脇道に入って行くアダム達を
「あいつら先に何があるか分かっているようだな。こりゃ、狼よりやばくないか」
「トニオ、私たちより少し先行して、様子を探って来てくれない?」
「分かった、お嬢。スニック、お嬢を頼むぞ」
トニオは姿勢を低くすると、左手で細身の大剣を抑えて音を立てないようにして、足早に先行して行ったのだった。
「何を狙ったのかしらね、スニック」
「
「許せないわね。あたい、そんな卑劣な奴ら許せないわ」
「お嬢、分かったから興奮しないでくださいよ。それより、これは七柱の聖女の仲間たちと知り合いになる好機かも知れませんよ」
「スニック、あなた何を言っているの。あの子たちがどう動くか分からないけど、あたいはこんな事見逃さないから!」
「あぅ、えー、分ってますって、僕も兄貴もお嬢と同じ気持ちです」
あやすように機嫌を取ってくるスニックを見ながら、疑わしそうにアメデータは睨むのだった。
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