第156話 旅の仲間 その2
「どうした、アダム。ザクトから俺らの後を付けて来た奴らの事が何か分かったのか?」
会話の最中に意識を飛ばし、黙って視線を外していたアダムを見てドムトルが聞いた。暫く前からアダムたちを
「今、ゲールが聞いた話だと、ヘルヴァチアの傭兵団『銀の翼竜』の団員らしいな。団長の指示で俺たちと親しくなるように言われて来たらしい」
「大丈夫そうなの、アダム」
「ああ、アン。ヘルヴァチア共和国はワルテル教授の授業だと、神聖ラウム帝国から独立して比較的新しい国だったはずだ。貧しい国民の大半が傭兵として他国へ出稼ぎに出ていると言っていたな」
「何でそんな傭兵団が俺たちに近づくんだ?」
「ドムトル、俺たちはプレゼ皇女のご学友でもあるから、親しくなってオーロレアン王国の王室やその関りでエンドラシル帝国との外交情報なんかが知りたいのじゃないか」
「ビクトールの言う通りだと思う。今回のプレゼ皇女の留学はエンドラシル帝国と姻戚関係を結ぼうとする動きじゃないかと世間では思われているからな。ご学友として近くにいる俺たちの情報が欲しいのだろう」
アダムたちは王都に出て来た時から光真教急進派の騒動に巻き込まれて、身近に色々な勢力の動きを見ているので、それを不思議には思わなかった。アダムは闇の司祭の戦いの時に、最後に耳元で聞いた闇の御子の言葉を忘れては居ない。4、5年はゆっくりすれば良いよと言われたのだ。
アダムたちはあれから5年を過ぎ、王立学園の生活も後半に入るところで、プレゼ皇女と共にエンドラシル帝国に留学することになった。そろそろ次の動きがあっても可笑しくないとアダムは考えていた。
「でも、随分吞気な話じゃないか。
「仕方が無いよ。旅の途中も空から神の目が見張っていて、蜘蛛のゲールが近くに忍んでいるなんて、普通じゃ考えられないからね」
ビクトールの言う通り、アダムが魔素鷹の神の目やメンフクロウのククロウとリンクすることや、蜘蛛を操って情報を仕入れている事は、オーロレアン王国の中でも主要な人物しか知らない事だ。王配であるオルセーヌ公や警務総監のパリス・ヒュウ伯爵、騎士団長のアラン・ゾイターク伯爵など、彼らはアダムの少年とは思えない不思議な力を知って利用しながらも、世間には厳重に秘匿して来たのだ。
「ヘルヴァチアの傭兵は中々面白いよ。傭兵ギルドは国際的に中立を標ぼうしていて、傘下の傭兵団は色々な国やその勢力に雇われている。例えば敵対的な関係にある双方に傭兵を出している事もあるんだ」
「ビクトール、でもさ、そんなの信じられないよな。戦っているように見せて、その実裏で繋がっていることもあるんじゃないか? 適当に戦って見せて両方から金をとるとかさ」
「いや、傭兵団は信義を売りにしているんだよ。戦いが不利になっても雇い主を裏切らない。下手すると雇い主の臣下が逃げ出しても、盾になって雇い主を守ろうとして全滅した傭兵団もあるらしいよ。だから神聖ラウム帝国も属国だった時代から傭兵を利用していて、独立後も傭兵としては利用している」
「そうね、ワルテル教授の話では、オーロレアン王国も傭兵ギルドと継続的な傭兵契約を交わしていて、状況に応じて6000人から1万6000人の派遣を受けることで契約をしていると話していたわ。我が国の王国騎士団が2600人だと考えると、非常に強力な兵力だって」
アンが言う通り、自国の騎士団よりも多い傭兵と契約して大丈夫かとアンが質問した時、ワルテル教授は、ヘルヴァチアは山岳地帯の貧しい国で、傭兵は生活のために出稼ぎに出ている。決して国に忠誠を誓っている訳ではなく、金のためならお互いでも戦う。しかし一方で、傭兵としての信義を貫き、雇い主のためには命を懸ける事で高い信用を誇っていると言っていた。
ヘルヴァチア共和国は有力氏族を代表する傭兵団長が議員となって治める国だ。議長である傭兵ギルド長が契約に応じて派遣する傭兵団を募ったり、調整したりしていると聞いた。
「そう言えば、傭兵団『金の翼竜』の団長は傭兵ギルド長だと言っていたな」
「えー、アダム、そりゃこっちとしても知り合いになったら面白い話が聞けるんじゃないか?」
「はは、ドムトルの言う通りかも知れないな。向こうが近づき難いと感じているようなら、こっちから切っ掛けを作ってやっても面白いかもな」
アダムたちはその後、これからの行動について話し合った。ザクトに里帰りしたついでに、幼馴染のジョシューに会おうとヨルムントまで出かけて来たが、肝心のジョシューが帆船の書記見習いとして航海中だと言う。
ジョシューは王立学園に入学が決まったアダム達と、故郷のセト村で一緒にユミル先生の補講を受けた仲だった。アダムたちが王立学園に入学するのとは別に、ヨルムントの商業学校に入学した。そこで5年間勉強して卒業し、今年の春にヨルムントのヘラー商会へ徒弟として入ったのだった。
ヘラー商会は、アダムたちがザクトで知り合い、王都オーロンへ向かう旅に同行した商人のヘラーの叔父が経営する商会だった。不思議な因縁が繋がって行くようだ。
ジョシューはそこで書記見習いとして働いて、今はその商会が所有する帆船に乗ってデーン王国の王都ヨークとヨルムントを結ぶ交易船に乗り組んでいると言う。
「ジョシューが戻って来るのは明後日なんだろう? ヨルムントの市内観光も飽きたし、明日は郊外の森へ狩りにでも行かないか。確か冒険者ギルドで近くの村の狼狩りの依頼があったよな」
「ドムトル、群れが大きかったら危険じゃない?」
「アン、魔素狼でもなければ大丈夫さ。なあ、アダム。10匹を超えるような群れたったら、少し様子を見て帰るだけさ」
この世界では、平民は10歳から就業する。15歳で成人である。だからアダム達も王立学園に通いながら、10歳から王都の冒険者ギルドに登録して、休日を中心に活動して来た。最初は貴族子弟の冒険者に奇異の目を向けられたが、ゴブリン騒動で知り合ったB級冒険者のザンスの紹介もあって、王都の冒険者ギルドでは認知されて来ている。今回もヨルムントの市内観光ついでに、王都の冒険者ギルド長の紹介状を持って挨拶に行っていた。
アダムたちは騎士団見習いとして毎日厳しく訓練されている。しかも、セト村の赤狼退治や、ゴブリン退治、荒れ熊騒動から王都のゴブリン騒動まで、大人の剣士に混じって実践を積み重ねて来た。王都の冒険者ギルドでは実力も認められてC級冒険者として登録されている。そしてアンも周りの反対を押し切って冒険者登録に参加して、ヒール兼魔法要員として実戦に参加して来たのだった。
「もしかしたら、奴らも出て来るんじゃないか?」
「よし、行って見るか」
「もう、ビクトールも、いつもはドムトルの止め役のはずなのに」
「はは、アン。俺たちも退屈して来た所なんだよ」
アダムもザクトから
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