第98話 浮浪街の捜索(前編)
アダムはシンとガッツの話の中に出て来た、地下室にいる司祭の話に、クロウ4号に意識を集中した。話によるとその司祭は目が悪く、ガイの知り合いだと言う。エンドラシル帝国大使館を
アダムは地下室へ食事を運ぶリタにクロウ4号を追わせて、その司祭の顔を見たいと思ったが、走り出そうとしたクロウ4号をシンが押さえたので出来なかった。
シンは預かったクロウ4号を失くす訳には行かないと、慌てて押さえたのだった。
( うっ、中々思い通りに行かないな。俺が操っている事を知られる訳にはいかないか )
アダムはクロウ4号を使うのを諦め、クロウ2号にリンクして、オットーと連絡を取ろうとした。
オットーは警務本部で机の上の地図を拡げて、今日の捜索の結果を記していた。
捜索は約1ヶ月を過ぎて3ヶ所のゴブリンを討伐出来たが、なお2体の母胎が見つかっていない。あの時5箱の荷箱が運び込まれたのを確認していた。あの時使われた荷船もまだ見つかっていなかった。
当然繁殖が上手く行かなかったことも考えられるが、更に奥に運ばれた可能性も捨て切れなかった。現在捜索は、貴族街に掛かろうとしていた。
いつもは放置して、勝手に餌を獲っているクロウ2号が、地図の端に移動して来たのを見て、オットーはアダムから渡されていた文字盤を拡げる。
クロウ2号がその上を動いて言葉を綴った。
『闇の司祭の可能性あり。浮浪街の孤児院に盲目の司祭の情報』
オットーはクロウ2号の綴った文字を見て色めき立った。それが本当なら大きな進展が期待できる。
慌てて聞き直すが、職場の同僚の手前、頭を下げ小声でクロウ2号に話しかけた。
「本当かい、それが事実なら絶対逃がさないぞ」
『明日の朝、第6門のカーターさんの所で待ち合わせしましょう。鐘3つ(10時)で』
オットーは了解と答えると、早速明日に備えて各所に連絡を入れた。
第6警務隊のカーターへは明日の10時にアダムと待ち合わせするので、お前も残って居ること、浮浪街の孤児院について情報を集めて置くことと連絡を入れた。次にザンスへも立ち合いの依頼の連絡を入れたのだった。
◇ ◇ ◇
翌朝、アダムとオットーが第6門の詰所で待ち合わせをしている時間に、ガイは闇の司祭の連絡を受けて、手下を2人連れて孤児院に来ていた。
「おお、すまんね。朝から手間を取らせて」
「この荷物を運び込めばいいのか」
ガイの指示で手下の2人が荷箱を運び出して、外に止めた荷車に載せる。ワイン樽くらいの大きさの箱が2つあった。手下が階下を2往復する間に、闇の司祭とガイが孤児院の前庭で話をしていた。
「宛先はこの紙に書いてある。今夜にでも中庭に置いてくれれば良い」
「おい、この住所なら下水道の
「違う、違う。むしろ、ここを押さえたので、下水道で繋がる暗渠から運び込んだのだ」
最後の言葉にガイが闇の司祭を見る。紙に書いてある住所は、大使館の近くの貴族街の屋敷だった。
「それに、見つかった他の3ヶ所は時間稼ぎの陽動だ。おかげで良く育ってくれたようだ」
「中庭に置いてくるだけで良いのだな。あの時は手下が2人戻って来なかったぞ」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、くれぐれも置いたら直ぐに帰るように、手下にしっかり言っておいたら方が良いぞ。ふぉ、ふぉ」
ガイが闇の司祭を睨みつけるが、闇の司祭は気配では分かっているのだろうが、目が見えないからと知らんぷりを決めて笑っている。
「ロキはどうした。王都にはおらんのか」
「いや、お頭は手ぬるいと、本国の皇子に呼び付けられて戻っているらしい」
「しょうがない皇子じゃな。自分の役割が分かっておらん」
その時、シンとガッツが連れ立って孤児院から出て来た。ガッツはガイと闇の司祭が立ち話をしているのを見ても、知らぬふりをして通り過ぎて、出て行こうとした。
「おい、シン、リタは元気にしているかい。ガッツ、リタに就職が決まっておめでとうと言って置いてくれ」
「ガイ兄ちゃん、自分で言えよ。俺とシンはこれから出るからさ」
「ガイ兄ちゃん、俺たち、昨日預かったハエトリグモを返しに行くんだよ」
シンは大切そうに蜘蛛を入れたカップを両手で持っている。シンはそれを高く持ち上げてガイに見せた。
「俺もこれから帰る所だ。それじゃあ、また会った時に自分で言うよ。お前らもまたな」
ガイはガッツが最近自分を嫌っているのも分かっていたが、そんなものかと笑って返した。手持無沙汰に立つ2人の手下を見て、闇の司祭の方へ振り返った。
「それじゃ、お前も、もう行け。 ”闇の御子はいずこにおわしても見ておられる”」
「ふん、死は慌てることはない。 ”闇の御子はいずこにおわしても見ておられる”」
ガイが手下を連れて馬車で帰って行くのを見送ってから、闇の司祭は孤児院の院長を訪れた。
「院長、お世話になりました。これから神殿に戻ります。必要な荷物はガイに運んで貰ったので、残こりの荷物はいかようにもして下され」
「おお、神殿にお戻りですか。地下室は何時戻って来られても良いように、そのままにしておきますよ」
「ありがたいお心使いですな。それではこれもお渡ししておきます」
闇の司祭は懐から金貨の入った袋を取り出すと、院長へ渡した。
院長は渡された袋を開けて、思いがけず大金が入っているのを見て、どう反応して良いのか分からない。
「こ、このお金はいったい。お貸付け頂けるのですか」
「いえいえ、実はあの話し合いの後にリタが来て、話にあった巫女候補に成りたいと自分から申し出て来ましてな。その支度金です」
「えっ、そんな、私は聞いていないですよ。それは本当の事ですか」
驚く院長に闇の司祭は、昨日リタがサインした誓約書を出して見せた。院長が見ると間違いなくリタの自筆のサインがあるのが見えた。
「そう言えば、みんなが自分の就職が決まった事を喜んでくれているのも知っているので、善意の申し出といいながら、皆さんと顔を合わせるのは辛いと申しておりました。私の方は後から国教神殿の方へ来るように言っておきましたから、どうぞ皆さんでお話合いをなさってください。また来ます」
闇の司祭はそう言うと、今にもリタを探しに行こうと慌てる院長を置いて、門を出て行ったのだった。
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