【完結】『ファム・ファタール–宿命の女–』〜ドラゴンの巫女にして、運命の相手がエルフの血を引く男だった、普通の少女の奇跡〜

雨 杜和orアメたぬき

第1章 現代と異世界

[プロローグ]エルフの男



 その日、私は銀杏並木の街路を大学へと向かっていた。


 たまに立ち寄るスターバックスの前で、運悪く雨が降り出したから、あわてて店に飛び込んだ。

 そこにはいつもの老女が座っていた。

 朝のスタバは常連客が多く、ドアの正面は老女の指定席だ。

 彼女は誰かがドアを開けるたびに視線を上げ、ふぅっとため息をついてはうつむく。その繰り返しに飽きることがない。


 シワの寄った顔は硬く、無表情で、孤独の影に埋没している。


 おそらく、老女は人生の大半を待つことで費やし、そして、待つ相手がいなくなった今も、残りの人生をそれで、やり過ごしているのだろう。


 しかし、その日に限って老女は顔を下げなかった。私を見るとふいに恐怖に顔を歪め、こちらに骨ばった指をあげた。


「そ、そなたの運命が動き出す」


 老婆は、それだけ言うと頭をがっくり落とし、再び顔をあげたときには夢から冷めたように表情が消えていた。


 いったい何なのだろう。

 私は馴染みの店員の顔をみた。彼女は何事もなかったように穏やかな職業スマイルを浮かべている。


「カフェミストを」

「サイズはどうなさいますか?」

「Mサイズで」


 注文を終え、テーブルでコーヒーを飲む。

 奇妙なことはそれだけだった。私は肩をすくめ、そのままスタバをあとにした。




 その夏の日に運命が動き出した。

 私の前に美しい男があらわれ、突拍子とっぴょうしもない物語を伝えた。それは、あまりにも馬鹿げた話で、思わず吹き出してしまいそうな内容だったけど。


 私は異世界で生まれ、殺戮さつりくの限りをつくした姉がいたというのだ。確かに、彼の話に嘘はなかった。しかし、多くの事実を意図的に隠してもいた。



 さて、ここから私の長い冒険物語を語ろうと思う。しかし、その前に、まず姉の話からはじめなければ。それは残酷で美しく、そして、悲劇的で、多くの人が気にいらない物語だとは思うけれど。


(つづく)


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