番外編 勇者の帰還その3

番外編 勇者の帰還その2の続きです。前話120話との直接的な続きでは有りませんので悪しからず。


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「まさか勇者式剣技の連続技、とはな……己の技術を極限まで高め……神気を高めたお前にしか出来ない技か、見事だ、快利」


「あんがとセリーナ、いや……師匠」


 俺とセリーナの本気の死闘は俺の編み出した勇者絶技によって決着した。勇者絶技は俺がモニカ達と特訓して編み出した技で勇者式剣技と俺が名付けた技を三連撃で放つものだ。


「だが、なぜ私にトドメを刺さなかった」


「ああ、それな……俺の魔力も神気も今は、すっからかんなんだ……」


 そういうと聖剣を掴む力すら無くなって俺は膝から崩れ落ちた。実は英雄化は怖くて使えなかったから本気を出して無いと言われるかも知れないがセリーナとの戦いに死力を尽くしたのは事実だ。


「そうか……そういうことにしておく……引き分けか」


「ああ、これで修行は完了?」


 それに頷くと同時に両者の魔力が尽きて強制的に結界が解除される。慌ててモニカ達とセリーナの部下たちが入って来て救助された俺たちは残りの話は翌日に持ち越しとなって、その日は別れた。


「まだ課題が有るってどう言うことなんだ?」


 翌日の王族とセリーナそして王直属の護衛以外は入るのを禁止された会議室でセリーナと王から告げられた言葉に俺は驚かされた。


「この世界には裏側が有り世界樹が世界を支えているという話はしたな?」


「ああデカイ樹が生えてるのは聞いた」


 そこからはセリーナ達の魔族の話となった。どうやらセリーナたち魔族の一部は最初はその裏側の世界にいたそうで今も時空の狭間に存在している時空宮殿と限定的に繋がっているらしい。


「そこで快利よ、お前にはそこに行ってセリーナ殿たちと今回の戦を終結させるためのある物を取って来てもらいたい」


「ある物?」


「うむ詳しくはセリーナ殿たちから聞いてくれ」


 そしてセリーナ達から説明を聞くとそれは世界樹と呼ばれる木の根元に在るらしい。だから彼女の案内で俺は世界の裏側に行かなければいけない。そしてメンバーはいつものケニーとセリカ、モニカ三人に決まった。


「だが王や殿下たちの護衛は? 王城の兵だけで敵の魔族は止められないだろうし……元勇者パーティーも前線で今は誰も居ないんだろ?」


「それなら心配無用だネミラークをここへ」


 王が言うと会議室のドアが開いて誰かが入って来た。黒いローブをすっぽり被り顔には白い仮面、目と鼻の穴それと口の部分だけが空いたフルマスクでホラー映画とかに出て来そうな大男が入室し王にかしずいた。


『何者でしょうか……確認しますか? スキルの使用を』


(止めておけ、迂闊に調べて向こうの交渉材料にされかねないし王様が護衛に置いてんだ、一定の信頼は有るのだろう)


 所作は丁寧で同時に武人のような風格、それに喋らないなら大体の出自は予想が付く。王様が自ら玉座まで近付けている時点で相当な信頼を寄せているのは理解したしケニーの視線の動きで調べる必要も無いのは分かった。


(恐らく貴族戦争時に俺の処刑を逃れた貴族の誰かだ、俺との勇者コールや守護が繋がってないからな)


『なるほど、正体を知って処罰しなければならなくなるのが恐いのですか?』


(ああ……もう、人は殺めたくない、姉さん達やルリに顔向けできない、あの三人はそれを絶対に望まないから)


『……魔族ならば構わないのですか?』


 俺の矛盾を鋭く突いて来るガイドに俺は何も言い返せずいると目の前の白仮面の男が立ち上がり俺の方を見た。そして会釈する。


「スマンな快利、その者は昔の戦いで一部声帯をやられ掠れた醜い声しか出せぬ身、どうか許して欲しい」


「王様がそこまで言うのなら喜んで……ですが本当に大丈夫なんですか?」


 俺が聖剣をカチッと鳴らすと向こうが一瞬で腰の剣に手をかけ戦闘態勢に入ったのが分かる。この反応速度は相当な手練れだ。この世界ではかなりの強者と見て良いだろう。


「私と互角くらいの力は有るよ彼は……私も保障する」


「ケニーがそこまで言うなら……おい、あんた王を絶対に守れよ、いいな!!」


 俺の言葉にもコクリと頷くだけで不気味だったが不思議と嫌な感じはしない。だから俺は渋々頷いた。対して相手は仮面の下で会釈をした後にフッと息を吐くような声が聞こえた。


(笑った? 何で?)


『不気味ですね、やはり出自を調べるべきでは?』


 しかし俺はなぜか調べる気が起きなかった。早く家に帰りたいという焦りが調べても無駄という考えに至ったのかもしれない。だけど俺は後から謎の男ネミラークを調べなかった判断を後悔することになる。それは少しだけ未来の話だ。




 ケニーの私室に着くとセリーナ達と集まって裏世界行きの話を進める。裏世界に行くこと自体は転移すれば簡単なのだが問題は世界樹に辿り着くまでらしい。


「なあケニーよ、本当にあの男、え~っと」


「ネミラーク卿だな、確かに顔も素性も不明な男だ、王の話では元々は王の影の者の一人を昇格させたと言っていたが……」


 ケニーも言い澱んでいるあたり正体不明なのだろう。やはりスキルを使うべきだろうかと言えばセリカが無駄だと言う。


「あの仮面の男はカイリ、あなたが元の世界へ逃亡した後に出て来たんですの、怪しかったので私はすぐに『鑑定』を使いました」


「そうか、お前の鑑定なら素性が分かるか、で? どうだった?」


「王の言う通り、元はどこかの諸侯だったそうですが家を出た後はネミラークという名前のみ、ただ王への忠誠心は自分の死をいとわない程に高いと出ました」


 鑑定のスキルはかなり希少で王国でも使い手は少なく、それが貴族戦争で死んだカーマインの旦那と娘のセリカくらいだ。一応は俺という例外はいるが他の使い手は在野に隠れ住む者くらいで把握してないと聞く。


「あの者は問題無い、強い信念を持っている」


「そうか、師匠が言うなら俺の出る幕じゃねえな悪いなケニー、セリカ」


「それより裏世界への行き方と滞在と迷宮攻略の話だ」


 話を切り替えると俺達は入念な準備をして裏世界へと向かう事になった。そこではモンスターなどは居ないがトラップだらけで俺たちは死に物狂いで裏世界の世界樹までの迷宮を抜ける事になった。




「まだ地下五階かよ……」


「すまないね快利、君一人なら問題無いのだが僕らがいるからな」


 そう言ってフルプレートのケニーや迷彩柄メイド服のモニカと炎神の鎧を装備したセリカ、そしていつもの魔王のローブを着たセリーナという迷宮舐めてんの? って装備で俺たちは地下二千階もある迷宮の五階までを攻略していた。


「そう言うな、そもそも数ヶ月単位で攻略する計画だ慌てるな」


「ま、モンスターが出ないのは助かるけどな」


 問題なのは迷宮に設置された罠群だった。その量は膨大でモンスターが居ないのも納得だ。罠の量が異常で本来の迷宮主であるはずの魔族達ですら拒むもので命令した者以外には全て罠が反応する仕組みだった。


「で? その命令出したの誰だ」


「お前達が倒した新生魔王イベド・イラック様だ、一応は我らの祖だな」


 あいつとは嫌な記憶しか無い。戦争の初期に四大侯爵家の一つと領地の存在自体を消滅させ過去や未来を書き換え俺達に襲い掛かってきた最悪の魔王だ。時空決死隊を壊滅させたのも奴で戦友は皆、奴の手にかかって死んだ。


「カイリ……」


「何だよ、また『私を連れて行かなかったのは役立たずだからか!!』とか言い出すのかよケニー?」


 時空戦争の後に言われたのは時空魔術と転移魔術の使い手の二人を置いて行ったことで、それで文句を言われたのは一度や二度じゃない。ただ二人には生きててくれて本当に感謝している。一度も面と向かって言ったことは無いけどな。


「違う、ただ私は君の力に……」


「その気持ちだけは受け取っておく、モニカも睨むなって」


 そんな話をしながら俺たちは罠を踏破し最初は一日で二から四階層づつ進めていた迷宮攻略も徐々にスピードアップし一ヵ月後には地下五百階近くまで進んでいた。




「あと二ヵ月で攻略出来んのかこれ?」


『可能です、むしろ私が気になるのはこの地下迷宮の底にある世界樹と、ある物の正体ですね』


 俺はダンジョンの隅で一人で食事をしながらガイドと今日までの一ヶ月を振り返っていた。ありとあらゆる罠という罠が張り巡らされ一喜一憂しながら俺たち五人は迷宮を進んでいた。


「それな、何が有るんだろうな?」


「話して無かったな我らが魔族の至宝の宝剣が地下に有る。それで超魔王と大魔王の結界を破壊する計画だ」


 急にセリーナに声をかけられビックリしたが俺が食べてた非常食、おにぎりモドキが気になったらしく一つあげたら意外と好評だった。


『なるほど……武器ですか、聖剣の類でしょうかね?』


「上手いな、お前の世界の食べ物か……」


 それから更に一ヵ月後には予定より早く二千階に到達した。三ヶ月予定の所を二ヵ月で済んだのは大きかった。そして最深部に到着した俺たちを待っていたのは巨大な世界樹だった。


「でっか……てか裏世界ってのは裏の時空って意味なのか」


「ああ、しかしこの場に到達し転移魔術を使えなくしている呪いを解かなければならなかった」


 そしてセリーナは世界樹の下に有る台座に近付く。呪いというが何か分からなかったが浄化を開始すると空気が変わった。神聖な空気とでも言うのだろうか神社に入った時のヒヤッとした感覚に似ていると思った。


「じゃあ、後は台座に刺さってる黒いのを引っこ抜けばいいのか?」


「そうだ、私が抜いてお前に使ってもらう予定だ、面倒だが魔族のメンツが有るから人間に授けるという体裁が必要でな」


「了解分かったよ、じゃあ俺は少し周囲を見て回るわ」


 面倒な手続きや説明が有るらしく暇になった俺はモニカを連れて周囲の探検を始めた。地下にそびえる世界樹の上空は黒紫色の空が広がっていて宇宙空間のように見える。


「大きいな……これが世界を裏側から支えてるのか……」


「らしいですねセリーナ様が言うには、この世界樹が有るから大魔王城の結界が強固になり、他の魔族にも力を与えている霊木的なものだとか」


 そんな大事な場所に人間を入れていいのだろうか。それほど信用されたと見るべきか何て考えながら周囲の観察をして時間を潰していると気付いた事が有った。


「なんか歩いてるだけで魔力が回復してるな」


「はい、これが例の大魔王城の強さの原因かと……おや、これは」


「世界樹をグル~って回って来たから、ここは真裏だよな?」


 そして巨大な木の周囲を半周した事になるが明らかに変なものが生えていた。緑色の新芽みたいな何かだ。世界樹は巨大で全容が見えない程だが樹の幹の色は漆黒で葉は赤紫で全体的に魔族っぽい暗い色だ。


「たぶんユリ姉さんが見たら「こんなの世界樹じゃない邪悪な木よ!!」とか言い出すんだろうな……」


「マイマスターのお姉様ですか、あんな人たちの元に戻る必要が?」


「ああ、やっとさ……大事な人たちと和解、出来そうなんだ、許せそうなんだ、だから俺は帰る」


「でもっ……私たちは、どうすれば……」


 そこで改めてモニカやセリカそれにケニーも三人なりに俺の事を考えてくれているのは分かる……分かるけど俺は決めたんだ。そして俺は手持ち無沙汰で思わず薄黄緑色の新芽みたいなのに触れてしまった。


「「あっ……」」


 すると世界樹全体が光り出し薄い黄緑色のような新芽が俺の手に噛みついて来た。食虫植物のように新芽は開くと俺の手を掴んで離さなず突然の奇襲に俺は焦った。


「うわっ!! モニカ離れてろ何かヤベーぞ、このワサビみたいな色した新芽!!」


「分かってます、腕ごと斬ります!!」


 すぐにダガーを用意して俺の手首ごと斬ろうと動いたが恐らく無駄だろう。今の俺の体は修行後の完成した勇者の肉体で、転移してすぐの弱体化した肉体なら可能性は有ったが今は絶対に不可能だ。


「いいから今はセリーナ呼んで来い!!」


「はっ、はい!! すぐに戻ります!!」


 そして転移魔術でモニカが消えると俺はイチかバチか新芽を内側から握り込んで逆に引っ張った。綱引きみたいな感じで俺は全力で引っ張る。向こうも抵抗するから更に俺は力を入れた。


『快利、か、過負荷ガガガ!?』


「さっきから大人しいと思ったら、ガイドどうした!?」


『かい、解析、ふの……自閉モード、もしわ、ケケケ……』


 ガイドまで機能停止してしまった。こうなれば俺の力だけで引っこ抜くしかない。腕ごと飲み込まれるか俺が勝つかの勝負だ。そしてセリーナ達が到着したタイミングでスポンと抜けたのは黄緑色の世界樹の新芽の方だった。


「抜けたぁ……いやぁ、危なかった……ん?」


「バカ弟子、無事か!?」


「いや~世界樹に間違って触ってさ、防衛機構か何かかね、ほら、こんな黄緑色のワサビみたいな色の枝が……あっれ~!? 刀になってる~!!」


 俺の素っ頓狂な叫びが世界樹の下に木霊した。




「バカ弟子よ、それが神刀『世界のための楔ルガールングバム』だ!!」


「え? だって台座に刺さってた黒いのが神刀だろ!?」


 いきなりやって来たセリーナは違うと言って問題の黒い刀……の鞘だけを俺の前に出した。


「いや、あれは鞘と柄だけだった……そして私が触ると柄は消滅した」


「え? じゃあ、この黄緑……いやワサビ色のが神刀なのか!?」


 セリーナを見た後に改めて偶然手に入れちゃった神刀を見て思ったことは色合いはワサビっぽいなという感想だ。そんな感想を俺が持った瞬間にセリーナの持つ鞘に金の文字で刻まれたルガールングバムが消えて『色合いはワサビ』と変わった。


「「えっ?」」


「二人とも無事か!?」


「セリーナ様!!」


 ケニーやセリーナの部下たちも救助のために到着し俺たちを囲んだ。今の決定的瞬間を見ていたのは俺とセリーナとモニカだけだ。俺たちは三人で頷くと勝手に自分で改名しやがった神刀を見た。


「さ、さすがは我が弟子にして勇者でもあるカイリよ!! まさか真なる神刀を世界樹から呼び出す試練を見破るとは~!?」


 そういう方針で行くんだなとセリーナと目を見ると微かに頷いた。だから俺は表情をキリッと変えて演技モードに入る。


「ま、まあな迷ったが皆の目を盗み真・超魔王セリーナの最大の試練を読み取った俺は神の刀『世界のための楔色合いはワサビ』を手に入れたんだ~!!」


「さ、さすがはマイマスター勇者カイリ!! そして我らのために試練を用意し勇者を試した真・超魔王セリーナ様の智謀もお見事です~~~!!」


 一瞬にして周囲は熱狂に包まれた。人間も魔族も関係無く勇者と魔王を称える声で溢れた。しかし俺達だけは知っている偶然出現して間違って由緒ある名前を改名してしまった最大のやらかしを……。


(あ~あ、やっちまった……)


 魔族は名や血統そして伝統に特に拘る。この一件が知られたら新たな紛争の火種になりかねないと俺たちは咄嗟に隠したのだ。それから一週間後、俺たちは大魔王城に乗り込み最後の抵抗をしてきた超魔王軍団と対峙した。

 俺は超魔王とセリーナは大魔王と戦い、たった二合打ち合っただけで二体の魔王を倒し第二次魔王戦争は僅か一ヶ月足らずで終了した。


「そ、それは我らが魔族の至宝ルガールン――――「うるっさい黙れ!!」


「なぜ世界のための楔が変な名前に――――「同胞よ、余計なことは言うな!!」


 後に兵たちの噂で最終決戦で勇者と魔王はそれぞれ敵の魔王を喋らせる暇も無いくらいに素早く倒した早業だ褒め称える噂も流れたが俺たちは当たり障りのない態度で通し真実は闇に葬った。


「「ギャアアアアアアアアア!!!」」


 こうして最後の二体の魔王の口を封じ、いや討伐しグレスタード王国に平和が戻ったのだった。




 そして俺は今現在、平和式典のパーティー二日目の王城を抜け出し転移魔術を感知されない場所まで逃げ出すと、ある場所に転移した。


「やっぱこれは返して行くべきだよな……」


 俺は名前を変えてしまった神刀を台座に戻して元の世界に帰ろうとしていた。宣言通り俺はこの世界から帰る気だった。しかし王様や貴族はセリーナへの対抗手段として俺をこの国へ残そうと監視をこれでもかと付けた。


「だから全員ちゃんと巻いてやったぜ……お前以外な?」


「ふっ、待っていたぞ勇者カイリ……」


「ああ、師匠……やっぱ居ると思ってた」


「一度やり合ってみたかった……我らの至宝、神の作りし刀とやらの力とな!!」


 問答無用で斬りかかって来たのを始まりに俺達の二度目の戦いは幕を開けた。世界樹の下での二人きりの決闘は数時間にも及んだ。しかし最後の最後で俺は神刀と聖剣の二刀流で英雄化を発動し何とか勝利した。


「そう……か、それが英雄たるお前の、真の姿か……」


「ああ、英雄化を使って僅差で勝利なんて、マジでありえねえ……」


『その通りです、神刀の力と運で勝てました……敵は、セリーナ様は完全に英雄化に付いて来てました』


 ガイドの言った通りセリーナは英雄化の動きや力にしっかりと付いて来て、今まで戦ったどんな敵よりも強敵だった。


「当たり前だ、たわけが……そんな不完全なスキル、それに勇者絶技も更に上に行ける技だ、今の戦いで確信した勇者カイリ、お前はまだ本来の力を出せてない!!」


「英雄化が不完全だと!?」


「そうだ、制御不能でデメリットの有るスキルなどに私が遅れを取るものか」


『不完全……制御が出来てない……私がサポート出来てない?』


 ガイドが脳内で微かに呟いた。気になったのはガイドの声は少しの怒りと悲しみの感情を含んでいるように聞こえたからだ。


「だから、私は勇者に敗れた者としてお前を送り出そう」


「へ?」


 フッと笑う顔は少しバツが悪そうに行けと言って世界樹の上空にゲートを開いてくれた。まだ魔力に余裕が有るんじゃねえか……こっちはほぼ空なのにさ。


「行け、大切な者たちが待っているのだろう? 私が決闘で敗れたと言えば部下共も反論は出来んし王にも話を付けよう、こちらは任された」


「師匠……」


「違う、バカ弟子いや勇者カイリ、私は真・超魔王セリーナ、今日よりは師では無い……卒業だ」


「はいっ!! 最後に……ありがとう、ございました、真・超魔王セリーナ!!」


 そして俺が帰ろうとした瞬間、転移してくる気配が有った。モニカと抱えられて来たセリカだった。


「お前らか……もう大人しく帰れ」


「嫌です、私たちはこのままじゃ!!」


 セリカが叫ぶがもう俺の決意は鈍らない。この世界も悪くは無いけど、それでも俺には帰る家が有って待ってくれてる人がいる……約束が有るんだ。


「いい加減にしろ!! 俺は向こうに戻る、そしてお前達はこっちの世界の人間だ、もう生きる世界が違う」


「ですがマイマスター、私たちの言い分も!!」


「うるさい!! 向こうの世界でこっちの言い分聞かずに襲って来たのはどこのどいつだ!! 少し強引だが後は任せるセリーナ!!」


 俺は二人を勇者特製のロープで縛ると世界樹の中間の枝に縛り付けた。後でセリーナにでも降ろしてもらえばいいだろう。


「セリーナでも今の魔力の枯渇した状態なら完全回復は三日だろう、ま、せいぜいそこで我慢しとけ!!」


「「そんな~~!!」」


 二人の悲鳴を聞きながら俺はセリーナの開いてくれた転移魔術のゲートを通る。時空魔術と魔法を数発撃つのが限界だけど必ず家に帰ってみせる。


「じゃあな、これで向こうで俺達にした事はチャラだ!! 行くぞガイド!!」


『はい、では因果律操作魔法を発動します……時間は?』


「俺が飛ばされてすぐの時間軸だ、行けるか?」


『もちろんです、私の制御は完璧……です!!』


 ガイドに頼むと俺は元の世界の拉致された場所に戻る。後ろからセリカやモニカの声が聞こえたが俺はもう自分の世界を取ると決めた。二人の声に少しだけ後ろ髪を引かれる思いだったが俺は自分で今度こそ決断した。




「ま、数週間後には二人揃ってセリーナに連れて来られたんだけどな」


「私は世界樹との接触が原因でバグが本格化したんですね、ま、怪我の功名で体もゲット出来たから結果オーライですが」


 今までの話を振り返りながら俺は駅前のオープンテラスで三人の美少女と優雅にランチタイム後の雑談を楽しんでいた。


「那結果さん的にはラッキーだったのでしょうけど置いてかれた私達は大変でしたのよ、ね? モニカ」


「まったくです、あの後から責任取れとデブでハゲの貴族の嫁と妾コースだったんですからセリーナ様が連れ出してくれなければ人生お先真っ暗でした」


 そして憤慨するのは俺の義妹になったセリカとモニカの二人で、これからショッピングに付き合わされることになっている。母さんの看病とかが忙しく相手をしてやれてなかったから久しぶりに駅前に来ていた。


「ま、モニカには文化祭の時に、セリカには今回の母さんの件では世話になったからな少しくらいなら兄として何か買ってやろう!!」


「では私は婚約指輪エンゲージリングを」


「私は婚約首輪エンゲージチョーカーを!!」


「モニカ、お前はその奴隷根性どうにかしろ!!」


 本来ならセリカにもツッコむべきだがモニカが特大の爆弾を落としたせいでそれ所じゃ無くなった。こんな俺たちの日常はこれから激変する。この数日後に俺は新生魔王イベド・イラックと対峙し奴を倒し、その後に黒龍と戦うことになる。帰還しても俺のヌルゲーライフは一瞬だった。



――――勇者の帰還(完)

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